アイコニックなグレーのテーラリングを軸に壮大なショーを見せたクチュールデビューから1年、「トム ブラウン(THOM BROWNE)」がパリに戻ってきた。「コンセプトはとても純粋で、それに忠実でありたいと思った」と明かすトム・ブラウン(Thom Browne)は今回、オートクチュールの制作過程で仮縫いに用いられる生地、すなわち生成り色のモスリンに着目。実験的なアプローチで再解釈したクラシカルなテーラリングにスポーツの要素をちりばめ、来たるオリンピックにつながるストーリーを描いた。
綱引きのパフォーマンスでショーはスタート
会場となった装飾美術館に入ると、ランウエイにはすでにスカートスーツをまとった男性たちがロープを持って立っている。そして月桂樹の冠を模したゴールドのヘッドウエアを着けたコーチ役のモデルが登場すると、男たちが綱引きを始め、ショーはスタート。コーチにいざなわれるように、モデルが一人ずつゆっくりとランウエイを歩いていく。
スタイルの中心は、生成り色のテーラリング
今回のコレクションを通して、ブラウンは制作過程の中にあるアトリエの手仕事に光を当てた。スタイルの中心となるのは、巨大化したシルエット、芯地や肩パッドといった内側の構造をむき出しにしたデザインにインサイドアウト、解体したパーツを組み合わせる脱構築的アプローチ、トロンプルイユ(だまし絵)など彼が得意とする手法を駆使したテーラリング。異なる厚みのモスリンやホースヘアキャンバスをベースにしながら、ツイード、チュール、オーガンジーなどをミックスし、大半が一色でまとめられた世界の中で多様な表情を表現していく。さらに短冊状に裁断したモスリンを金属糸で縫い、それを編み上げたオーバーサイズのカーディガンや、さまざまな生地を幾重にも重ねた装飾で砂時計シェイプを作ったスタンドカラーコートなど、クラフトが際立つアイテムも見せた。
また、素朴な印象の生地を飾るのは、きらめくビーズや金属糸などの刺しゅうで描いた古代アスリートたちの姿。そのほかにも、ハンドペイントで描いた水着のトロンプルイユや、人体解剖図のような筋肉を表現したビーズ刺しゅう、昔のテニスラケットを想起させる柄付きの刺しゅう枠、ポロシャツやスコート風のデザイン、ブーツのソールに配されたスパイクなど、スポーツに通じるディテールが随所に見つかる。
一見かけ離れたスポーツとクチュールの共通点は?
そんなスポーツとクチュールは一見かけ離れた存在のよう。しかし、本番で結果を出すために練習に積み重ねるアスリートと、細かな手作業で顧客のための一着を作り上げる職人やお針子は、どちらも努力や時間を惜しまないという点で通じているようにも感じられる。ラストには、勝者が手にするメダルのように銅、銀、金に輝くスパンコールジャケットをまとった3人のモデルが登場。順に表彰台に上り、「トム ブラウン」流のファッション・オリンピックは閉会した。
2024-25年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークが6月24日から4日間、パリで開催された。今季の公式スケジュールに名を連ねたのは、27ブランド。「ヴァレンティノ(VALENTINO)」と「フェンディ(FENDI)」が発表を見送り、いつもよりも控えめなラインアップとなったが、その中から選りすぐりのコレクションをリポートする。