
ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、ファッション&ビューティと小売りの視点で中国専門ジャーナリストの高口康太さんが分かりやすくお届けします。今回は爆速成長を続けるシーインやTEMUに続く「越境EC」の中国発スタートアップ企業。実はアノブランドも中国企業だった!? ((この記事は「WWDJAPAN」2024年6月17日号からの転載です)
注目の「ポスト・シーイン」6社
前後編でお届けしている「越境EC最前線」。前編では、合計GMV(商品取扱高)16兆円超えと見られる「越境EC四大巨龍」、すなわち「シーイン」「アリ・エクスプレス」「ティックトック・ショップ」「ティームー」を取り上げた。躍進を支えているのが「フレキシブルサプライチェーン」(少量多品種生産でバズる商品を探し、当たりを引き当てたらひたすら高速追加生産で売りまくる。これを可能とする柔軟な製造方式)と「フルホスティング」(製造以外の値付け、宣伝、物流、返品処理などはプラットフォーム企業が全て管理、中小零細企業とは異なる良質なユーザー体験を実現)という2つのビジネスモデルだ。
“模倣の国”中国では優れたビジネスモデルは瞬く間に真似られ、2匹目3匹目のドジョウを狙う企業が続出する。越境ECの世界も例外ではない。特に現在の中国市場は無数の企業が生き馬の目を抜く競争を繰り広げる過酷な世界だ。価格競争によって利幅が極薄となり、誰ももうからないで疲弊するしんどいマーケットである。ゆえに、そこまで競争が激しくない海外市場に目を向ける企業が多い。余談となるが、EV(電気自動車)や太陽光パネルもその典型で、「激安中国製品の黒船がやってきた!」が日本側の視点だが、中国側は「日本だと利益をのっけた価格で売れるから幸せ」とまったく違う感想を抱いていると思われる。
「ポスト・シーイン」企業が続々と台頭するワケ
というわけで、雨後のタケノコのようにプチ・シーイン、プチ・ティームーが続々と誕生している。日本でもよく知られているのが「サイダー」。米国登記のアパレルブランドだが、新商品をマシンガンのように発売し、売りながらヒットを探っていくビジネスモデルは「シーイン」そのものだ。口コミには「シーインとサイダー、似ているけどどっちがいい?」といったものも多く、消費者にも競合として認知されている。2021年9月に米国の有力なベンチャーキャピタル(VC)などから1億3000万ドル(約202億円)を調達し、創業から1年余りでユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)の仲間入りを果たした。現在ではアパレルに加えアクセサリーやシューズにもジャンルを拡大している。
一方、バーティカル(垂直)と呼ばれる、ジャンルを絞ったサービスも登場している。プラスサイズの女性に絞った「ブルームシック」はその典型だろう。試着ができないのがECの泣きどころだが、特に中国系事業者のサイズ感はさっぱり分からない。また、スレンダーなモデルの写真を見て買っても、自分が着たらさっぱり似合わないのもよくある話。ブルームシックは日本基準のLサイズから6Lサイズまでの商品をとりそろえている。サイト写真はもちろん、提携するインフルエンサーも大柄な女性ばかりを選ぶなど、慎重にターゲットを絞りこんでいる。ターゲット層の女性たちはようやく自分たちに似合う服が選べると大絶賛しているのだとか。熱い支持を受けてその業績は急拡大しており、「シーイン」など大手越境EC企業も後追いでプラスサイズに取り組み始めた。 同じくバーティカルな世界で成長しているのが「ラブミーヘア」と「ユナイス」だ。黒人女性にターゲットを絞った、ウィッグの越境ECプラットフォームである。遺伝的に黒人女性はくせ毛の割合が高く、ウィッグの需要が根強いことに目をつけた。中国の河南省許昌市は「世界のウィッグの都」として知られており、人毛100%ウィッグの世界シェアは60%を超えるという産業集積地だ。世界各国のメーカーの製造を担っているほか、レベッカなど上場した老舗企業も存在する。ウィッグ産業従事者の数は30万人に達しているというから“都”と言われるのも納得だ。この製造能力を越境ECにのせれば、今までにはない新たなビジネスが生まれる。
アパレルだけじゃない、次はどの分野に進出?
ECの力を活用すれば、産業集積地の製造企業から直接消費者に届けられるのではないか。この発想は実は越境ECよりも前に始まっていた。そもそも「ティームー」を運営するピンドゥオドゥオの中国事業は無名ブランドの激安商品を消費者に結びつけるサービスであり、最大手のアリババグループもバーゲンセール「独身の日」では産業集積地コーナーを設けた。「世界の工場」中国には多種多様な産業集積地があり、無数の中小零細メーカーがひしめいている。河北省の皮革バッグ・オフィス用品、江蘇省のキッチン用品・ホームDIY、河南省の子ども服・清掃用品、山東省の女性向けアパレル……多くの産業集積地がECの力で中国国内の消費者に直接販売するようになった。シーインが広州市番禹区の女性向けアパレルを世界で売りまくっているように、今後どの分野のバーティカル越境ECが世界に飛びだしてきても不思議ではない。ファッションやビューティ(シーイン、アリエク)を筆頭に、本連載で取り上げたように家具やウイッグで成功例が出始めている。どんな分野の企業であっても、いつ中国から競合相手がやってくるか分からない、気の抜けない時代が到来している。