ファッション

ディズニーのショースタッフがアパレルブランドを立ち上げたワケ

「カスリキッズ(KASUREKIDS)」は日本の伝統織物の久留米絣を用いて、こども服のサーキュラーエコノミー実践に取り組む。素材には久留米絣の規格外の端切れに加えて、GOTS認証を取得した綿糸を藍染めして織った生地を用い、製品を製造・販売するだけではなく修繕や染め直し、レンタルや下取りも行う。手掛けるのは東京ディズニーシーで野外ショースタッフとして働いていた長谷川まゆみオーネミューエ代表取締役。「サステナブルな子ども服の選択肢がない」と2023年に「カスリキッズ」を立ち上げた。

長谷川代表はなぜ未経験のアパレル業界で子ども服ブランドを立ち上げたのか。「気候変動に対してどんな行動ができるかを考えたときに、最も身近に感じたのが子供服だった。私自身2児の母で子育て中。服がサイズアウトしてももったいなくて捨てられないけれど、フリマアプリに出品する余裕もない。エシカル消費をしたいけれど日本のモノ作りが感じられるエシカルな子ども服が見当たらない。同じ課題を抱えている人は多いのではないかと考えた。気候変動の原因は先進国の消費行動にある。選択肢を増やすことで生活者の行動変容を促せるのではないか」。

屋外スタッフとして働く中で感じた気候変動

長谷川代表が気候変動をリアルに感じたのは2008年。「ディズニーシーの屋外ショーの公演判断を任された年だった。5分ごとに雲の流れを見ながら判断するので、気象に敏感になっていた。08年はゲリラ豪雨が頻繁に起こるようになった年で、ショーを途中で中止しなければいけないことが増え、気候変動を肌で感じた。入社から屋外ショースタッフとして働いてきたがこれまでにはなかったことだった」。その10年後の18年。「東京でも40度を記録するほど災害的猛暑の年で、長男の育休中に日課にしていた外遊びが暑すぎてできなくなった。外出に命の危険を感じ、日常生活に支障が出たことで焦燥感にかられた。このままでは子どもが気軽に外にでられない日常がやってくると。外遊びは子どもの健全な成長のために必要で、体力・運動能力の向上はもちろん、骨の健康な発育や自律神経機能の強化、能の発達による感情的発達や学習能力・社会適応力の向上などさまざまな効能がある。気候変動が子どもたちの成長を阻害するのではないかと強い危機感を抱きながら、短勤務で職場復帰したけれど、子どもを保育園に預けてまで働く理由が見つからなくなった。さまざまな情報に触れはじめ、22年には温暖化の影響で子どもたちの健康が害されるという研究発表を目にしてショックを受けた。働くなら社会に貢献したいと考えるようになった」。ボーダレスジャパン主催のボーダレスアカデミーの講座を受け、「ドローダウン」や「リジェネレーション」(山と渓谷社)を読んで知見を広げた。

エシカルな子ども服とは何か

子ども服ブランドを立ち上げるにあたり、重視したのは長く着続けることができる丈夫な生地だ。「リサーチする中で久留米絣に出合いこれだ!と思った。30以上の工程の多くを手作業で行っていて生地がしっかりしていて肉厚。天然素材で夏涼しく冬暖かいのでオールシーズン着用できる。着られなくなっても次の子に引き継ぐことができる耐久性がある。服の地産地消ができ、輸送のCO2排出の抑制につながる。幼い頃に日本の伝統技法を体験できるのもいいと思った」。久留米絣は生地としては安くはない。「織り工程の前後で経糸が切れるなど流通ルートにのらない12m以下の規格外の端切れを活用しようと考えた」。端切れを活用せずにゼロから作る服は、GOTS認証を得ている大阪市の大正紡績の綿糸を用いて福岡県筑後市の池田絣工房で藍染めして、福岡県八女市の久留米絣織元の下川織物で生地にした。縫製は東京・墨田区の小倉メリヤス製造所が行う。

デザインやパターンは元同僚の力を借りた。「コスチュームデザイナーで子ども服のデザイン経験もある方に伴走してもらっている」。現在提案するのは3型でデザインやパターンの工夫が多い。例えば、3WAYワンピースは5年着用することを想定した。「2歳のときはロング丈のワンピースとして、7歳になったら膝上丈のジレやワンピースになる」。ユニセックスパンツは「すぐに破れてしまう膝裏を柄生地で二重構造にし、大きめのサイズを着用してもずり落ちないようウエストには調整ボタンを付けた」。生地は耳まで使うことで裁断くずを極力減らしている。その裁断くずは工場から引き取り、現在は品川区のハンドメイドショップママズの家に提供してハンドメイド作家に活用してもらっているという。「今後もハンドメイド作家の方に活用いただける方法を模索したり、ご自身で修繕を希望されるお客さまに送料負担をいただき郵送させていただくなどを検討している」という。

抱える課題は認知度とトレーサビリティ

「カスリキッズ」の販路は自社ECに加えて、「行動したい(している)人の選択肢の一つになりたいと考えたから」と食品を量り売りで提供する大阪府府中市のビオぐるりと福井県初のゼロウエイストショップのグラムに卸している。そのほか、クラウドファンディングのマクアケなどを利用して受注生産を行う。目下の課題は「認知度向上」だ。「エシカル消費を志向する子育て世代の手に届きやすくするため、原価率を約50%としている。そのため基本的に自社ECが販路となるが、認知度を高めるために訪日外国人向けのギフトショップやセレクトショップ、百貨店など感度の高い方に向けてもアプローチしていきたい」と意欲的だ。「将来的にはクラウドファンディングによる受注生産を軸に必要な人に必要な分だけ届けたい」。販売は始まったばかりでマクアケでの購入者への納品は10月末を予定する。もう一つの課題はトレーサビリティだ。「トレーサビリティを担保したオーガニック綿糸で肉厚な生地を作るのが難しい。肉厚な生地を作ることを第一に考えれば他の糸の選択肢もあるかもしれないが、トレーサビリティは譲れない」。端切れのトレーサビリティ実現も難しい。「少なくともゼロから作る素材に関してはオーガニックでトレーサブルでありたい」。

立ち上げ時点で回収スキームを確立しているが仕組み作りは手間がかかるし簡単ではない。「アパレルブランドをやりたくて始めているのではなく、気候危機に対してアクションを起こすため、大量生産大量消費を是正したくて始めたから」。自身も子育てする中であると助かるサービスを実現したともいえる。「手放す先(回収サービス)があることが大切だと考えた。古物商許可を得たので中古販売やレンタルも行う予定だ。いいものを大事に着続ける場を提供したい」。例えば下取りは「再販価格の25%を予定しているというが、ポイントとして付与するのか、下取りはせずに回収のみとするかは検討中」だといい、染め直しは「池田絣工房や富山で藍から育てている企業仲間の『アイヤ(AIYA)』を検討している」という。「気候変動は『カスリキッズ』だけでは解決できる問題ではない。同じ志を持つ方々と協力しながらリジェネラティブな世界を目指したい」。

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