ビューティ

美容業界にベビーブーム到来 「ディオール」や「エルメス」から赤ちゃん用香水が登場 疑問の声も

米化粧品小売大手「セフォラ(SEPHORA)」で年齢に不相応なスキンケアを買い求める、いわゆる“セフォラ・キッズ”が論争を巻き起こし続けている中、ラグジュアリーブランドの間ではさらに若い消費者の心を掴むための競争が激化している。一方で、赤ちゃんや子ども向けの高級美容商品、特にフレグランスの普及には疑問の声も上がっている。

ディオール(DIOR)」や「エルメス(HERMES)」「プチバトー(PETIT BATEAU)」などは、特にAPAC地域でファン層が拡大している。価格は200ユーロ(約3万4000円)を超えることもあり、そのような商品が2010年前後〜24年生まれを指すアルファ世代や、家族全体向けに考案されている。国際市場調査会社ユーロモニター・インターナショナル(EUROMONITOR INTERNATIONAL)のフルール・ロバーツ(Fflur Roberts)高級品部門責任者は、「ブランドはこれまでにも赤ちゃん用の香水や化粧品を提案してきたが、ここ数年でさらに盛り上がっている。より多くのブランドがほかのカテゴリーやライフスタイルに進出しているため、非常にニッチな分野だが今後も伸びていくだろう」と分析する。

「ディオール」の赤ちゃん用フレグランスはアルコールフリー

「ディオール」は、赤ちゃん向けのビューティコレクション“ベビー ディオール”のシャンプーとオイル、2つのベビーパウダーのセットをまずはヨーロッパ限定、その後世界各国でも発売し、現在は日本でも公式ECと一部店舗で取り扱っている。洋梨やワイルドローズ、ホワイトムスクのフレグランス“ボン エトワール オー ドゥ ソントゥール”(2色、各100mL、各3万250円※限定品)のほか、リキッドソープ“ラ ムース フォンドン”(350mL、1万2100円※限定品)やローション“ル レ タンドル”(350mL、1万4850円※限定品)、クレンジングウォーター“ロー フレッシュ”(350mL、1万2100円※限定品)をそろえている。フランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian)=パフューム クリエイションディレクターが調香を手掛けた同フレグランスは、自然由来成分を98%配合し、アルコールフリー処方だ。

「ボンポワン」は母親向けの商品も拡充

フランスの高級子ども服ブランド「ボンポワン(BONPOINT)」は、赤ちゃんと子ども用プレステージ・ビューティ分野の先駆者といえる。創業から10年後の1985年、アイコニックな子ども用のフレグランス“オー ドゥ ボンポワン”と赤ちゃん用の“オー ドゥ サンター”(100mL、1万2100円)を発売。2018年には、大人の女性用フレグランス“オーインテンス”(50mL、1万4300円)を発売した。現在は、クレンジングや顔と体用の保湿剤、日焼け止めなどを含む20SKUを展開している。ビーガン処方や自然由来成分の配合にこだわり、フランスで製造。ガラ・サルミニ・クレスマン(Gala Sarmini Kressmann)チーフ・マーケティング&デジタル・オフィサーは、「『ボンポワン』のスキンケアは全て赤ちゃんと家族のために開発しており、スキンケアの香りはとてもほのかだ」と説明する。商品は、フランスのベビー&チャイルドケアに関する厳格な規定を遵守し、皮膚科医と小児科によるテストを受けている。母親と子どものためのラインに成長させる目標から、近年は大人の女性向けの“グロウクリーム”(50mL、1万3200円)なども販売している。ビューティラインの20%は親自身が使用しているという。ビューティは同ブランドの総売上高の30%を占め、年間5000万ユーロ(約85億5000万円)に達すると推定される。

「ドクター バーバラ シュトルム」は自身の娘のために創設

独スキンケア「ドクター バーバラ シュトルム(DR. BARBARA STURM)」のベビー&キッズコレクションは5つのプレステージスキンケア商品で構成し、そもそもギフトを贈り合う文化があるAPAC地域でも好調だ。アメリカ、イギリス、フランスがトップ市場で、ニューヨークのバーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)やカナダ・トロントのホルトレンフルー(HOLT RENFREW)、ロンドンのハロッズ(HARRODS)、パリのル・ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)などの高級百貨店で販売している。18年に沐浴用ミルクやヘア&ボディーシャンプー、フェイスクリーム、ヒップクリームなどを発売し、価格帯は20〜40ポンド(約4000〜8000円)。バーバラ・シュトルム(Barbara Sturm)創設者は自身のブランドについて、「子どもの肌に優しい商品を探すのにとても苦労したので、娘のために作った。子どもの肌は大人の肌よりずっと敏感で、正しいケアをしないと皮膚炎や湿疹、アレルギー、その他の皮膚機能不全になりやすい」と話す。同ブランドは、香料や鉱物油、エッセンシャルオイルを含まない商品を開発している。

「トウス」は子ども用フレグランスを刷新予定

スペインのジュエリー&アクセサリーブランド「トウス(TOUS)」は、07年に“ベイビー トウス”で子ども向けのプレステージフレグランスをスタートした。トップ市場はヨーロッパ、韓国、ラテンアメリカだ。次いで“トウス キッズ”をローンチし、青いパッケージの男の子用とピンクのパッケージの女の子用を発売した。24年、新しいスプレーキャップを採用し、パッケージの男女別のデザインをテディベアに変更してリニューアル予定だ。パッケージのカラーとしては黄色も追加する。100mLのオーデコロンの価格帯は65〜75ユーロ(約1万1000円〜1万2000円)で、年間約1500万ユーロ(約25億6500万円)を売り上げている。ブランドの親会社PyDで香水&ファッション部門のクリエイティブ&ストラテジック・マーケティング・ディレクターを務めるソニア・グラフィン(Sonia Graffin)によると、「ここ数年の成長率は20〜25%」という。

高級ベビー&キッズ用品に対する疑問の声

ユーロモニター・インターナショナルのロバーツ高級品部門責任者は、「明らかに、価格は大きな問題だ」と指摘する。「背後にある政治的な観点だけでなく、果たして赤ちゃんや子どもに高級美容商品を使うべきなのかどうか、科学的な観点からも多様な意見がある。非常にデリケートな問題で、多くのブランドはこのような領域に踏み込みたくないのだろう」と続ける。「ディオール」が23年11月に初めて“ボン エトワール”ラインを発表した時、X(旧ツイッター)では「赤ちゃんに香水をまとわせるべきなのだろうか」「シンプルさと安全性を優先する方がベビーケアにはふさわしいように感じる」といった疑問の声が上がっていた。

このような懸念にもかかわらず、赤ちゃん・子ども向けの高級美容商品のカテゴリーは成長し続けるだろう。ユーロモニター・インターナショナルの推計によると、売上高は23〜24年には7.7%、24〜25年には7.3%のペースで成長する見込みだ。化粧品部門に特化したBtoBマーケットインサイトとトレンドプラットフォームであるビューティストリームス(BEAUTYSTREAMS)のマイケル・ノルト(Michael Nolte)=シニア・バイス・プレジデント・クリエイティブ・ディレクターは、「高級なベビー&キッズ用品のトレンドは、美容業界全体で起こっていることを反映している。包括性や持続可能性、敏感肌問題など、さまざまなトレンドが売り上げを押し上げている中、美容業界でのベビーブームには“自分の欲望を満たす”トレンドが特に影響している」と話す。「高級ベビーケアは、ある意味で大人の自己満足だ」と続け、世界的な出生率の低下により、多くの人が少ない子どもをさらに甘やかしたいと考えているのではないかと指摘した。

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