世界最古の薬局「サンタ・マリア・ノヴェッラ(SANTA MARIA NOVELLA)」(以下、SMN)」といえば、人気の“ポプリ”をはじめ、フレグランスのブランドとして知られている。しかし、“薬局”というだけあり、ラインアップは幅広く、オーデコロンからスキンケア、石鹸、歯磨き粉、薬用シロップまである。私がイタリアを訪れた際は、必ず、どの街でも訪れるお店が「SMN」だ。薄暗いお店の中は、ちょっとした博物館のよう。お馴染みのレトロなラベルの商品をはじめ、ソープトレーやポプリの壺などの小物類が置かれ、見ているだけでも楽しい。フィレンツェ本店は今でもサンタ・マリア・ノヴェッラ教会に程近い修道院跡にあり、歴史を感じさせる美しい内装で多くの観光客や買い物客を魅了している。
カトリーヌ・ド・メディシスがフランスへ伝えた香り
創業は1221年というから、当時の日本はまだ鎌倉時代。フィレンツェのドミニコ会の修道士が、修道院の菜園でとれた薬草を用いて医薬品や塗り薬などの製造を始めたのが、ブランドのルーツだ。フレグランス=フランスというイメージが強いが、元々はイタリアからフランスへ渡ったもの。カトリーヌ・ド・メディシス(Catherine de Medicis)が1533年にフランス王アンリ2世へ嫁ぐ際に “アックア・デッラ・レジーナ(王妃の水)”を「SMN」へオーダーし、フランスへ持ち込んだ。イタリアン・シトラス、ネロリ、パチュリから構成される魅惑的で清潔感溢れる香りは今でも同ブランドのベストセラーの一つ。この繊細な香りは、フランス社交界にセンセーションを巻き起こした。そして、ナポレオン皇帝も「SMN」の香水を愛用するようになり、戦場で戦士の士気を高めるために用いたと言われる。フォークやナイフといったカトラリー類もそうだが、香水も実は、ド・メディシスを通してイタリアからフランスへ渡ったというわけだ。1900年には、「SMN」はパリ万博への参加を通じて、世界中にその名が知れ渡り、王室や芸術家などに愛されるようになった。このように、「SMN」には長年の歴史に刻まれたワクワクするストーリーがある。
何世紀以上も愛される“癒しの芸術”ローズウォーター
800年以上もの歴史を持つ「SMN」のベストセラーの一つといえば、ローズウォーターだ。ダマスクローズが上品かつフレッシュに香るローズウォーターは、私自身、長年愛用するローションの一つ。使用感はさっぱり、肌を引き締め、潤いを与えてくれる。とにかく、さりげなく香るバラの香りが素晴らしい。ボトルも、ドレッサーに置いておきたくなるような素敵な佇まいだ。ローズウォーターが誕生したのは、1381年。ペストが猛威を振るう中、修道士たちがバラの花びらから精製した蒸留水を病んだ人々へ与えたのが起源だ。慈愛の精神に満ちた修道士たちによる“癒しの芸術”がローズウォーターのルーツになった。
ダマスクローズの香りが日々のスキンケアを特別なものに
長年愛されているローズウォーターのスキンケアライン“アクア ディ ローズ”が5月に誕生した。多くのファンからの「ローズの香りでスキンケアを完結したい」という声から、ミセラーウォーター(メイク落とし)、クレンジングジェル(洗顔)、セラム(美容液)、ジェルクリーム(モイスチャライザー)、クリーム(モイスチャライザー)の5種類が登場。これらにはダマスクローズ蒸留水が配合されており、セラムとモイスチャライザー2種類にはナイアシンアミド(B3)が配合されている。どれもローズウォーター同様、さっぱりした着け心地で、肌馴染みがよく、使用後は肌がしっとり、ふっくら。明るくなったような気がする。人によって好みは違うと思うが、私にとって毎日使うスキンケアで重要なのは使用感と香り。“アクア ディ ローズ”は、軽くさっぱりした使用感で、今の季節にぴったり。ダマスクローズの高貴な香りが優雅な時間を約束する。洗顔後は、セラムとジェルクリーム、またはクリームをつければスキンケアが完了。このように、シンプルなステップも私好みだ。もう少し、ちゃんとケアした方がいいと思いながらも、日々のスキンケアは簡単な方がいい。使用感と香りに加え、パッケージも使う楽しみの一つ。毎日のルーティンをちょっと特別なものにしてくれそうだ。