スニーカーやスポーツシューズのマーケットに地殻変動が起こっている。6月27日、王者ナイキ(NIKE)が2025年5月期の業績予想を引き下げると、株価が20%も下落。株式市場に“ナイキショック”が走った。アディダス(ADIDAS)は復調傾向とはいえ、23年12月期はイェ(Ye、カニエ・ウェストのこと)による「イージー(YEEZY)」終了の余波で30年ぶりに赤字転落。一方で、仏「サロモン(SALOMON)」やスイス「オン(ON)」、米「ホカ(HOKA)」といった新興ブランド群が急成長し、アパレルを主領域としてきたアウトドアブランドも続々とシューズ強化に乗り出している。お決まりのプレーヤーによる寡占が続いてきたスニーカーマーケットが、大きく変化しつつある。 (※記事末尾には、世界のスポーツメーカー売上高ランキングも1〜14位まで掲載。この記事は「WWDJAPAN」7月29日発行号からの転載です)
カナダ発アウトドアブランド「アークテリクス(ARC'TERYX)」は2021年、ナイキのお膝元の米ポートランドに、シューズ専門の開発拠点、フットウエアデザインセンターを設けた。もともと、クライミングやトレッキング用の透湿防水シェルやザック、クライミングハーネスが看板商品。トレッキングシューズ類も販売はしていたが、OEM生産ゆえにアパレルやザックに比べると存在感は薄かった。
同ブランドを手掛けるアメアスポーツは、18年に中国のスポーツメーカー大手、アンタの傘下となって以降、出店においてもR&Dにおいても積極投資が目立つ。フットウエアのセンター開設もその一環。24年にはニューヨークでアンタからの分離上場も果たした。センター開設から3年を経て、24年春に満を持して社内で1から開発したシューズを発売したが、山岳アスリートやガイドと組んで開発するブランド姿勢を体現するラインアップで、価格的にもコンセプト的にも分かりやすく街履きで売ろうというモデルはなし。あくまでパフォーマンス(機能性)重視を貫く。
24年秋冬は4カテゴリー、17型に拡大
今春夏はトレイルランニングシューズ(3万4100円〜)、クライミング時のアプローチシューズ(3万7400円〜 ※編集部注:本来は登山口からクライミングする岩場までアプローチするための靴を言うが、近年はアプローチシューズを通常の登山靴として履く人も多い)、アプローチ兼リカバリーシューズのスリッポン(2万7500円)の3カテゴリー全6型をそろえた。反応は上々といい、24年秋にはハイキングシューズを加えた計4カテゴリー17型に拡充する。
パフォーマンス重視で、分かりやすく街履きを狙うモデルはないと書いたが、実際には街でも注目されている。あるインフルエンサーがアプローチ兼リカバリー用スリッポンの“クラッグ(KRAGG)”を履いたことで、ファッションアイテムとしても拡散。このように、“ガチ”のパフォーマンス製品として開発されたシューズが、ファッションやライフスタイルとしても支持されるというのが今の潮流だ。ほんの2〜3年前までは、コラボレーションなどで見た目の華やかさを追求したシューズが、投機的なニーズもあって圧倒的に人気だった。しかし、今はコラボモデルでも土台にパフォーマンスがあることが必須。何を隠そう、“クラッグ”を履いていたインフルエンサーが、アディダスと「イージー」をファッション的に仕掛けていたイェだということが、潮流の変化を象徴している。
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