“伝わりづらい”日本人デザイナーの評価が海外で徐々に上がっています。決してひいき目ではなく、ビジネスの結果が裏付けています。代表例が「オーラリー(AURALEE)」と「シュタイン(STEIN)」です。
パリ・メンズ・ファション・ウイークの公式スケジュールでショーを行う「オーラリー」は、海外卸先を約130アカウントに伸ばしています。国内では2015年に立ち上げ以降、素材問屋が母体だった背景を生かし、細部にまでこだわり抜いたオリジナル生地と、それらを重く見せない空気感の作り方、バランスのいい価格帯などで支持を得ていました。軽やかな世界観に対して、実はかなりストイックなモノづくりという二面性が魅力です。ただ、19年にパリで初めてのプレゼンテーション形式の発表に挑んだ際は、厳しい意見があったのも事実です。理由は、強みであるはずのストイックなこだわりが海外では“伝わりづらい”からでした。
日本人デザイナーはこれまでも海外市場で存在感を示してきました。ここ10年では「サカイ(SACAI)」のハイブリッドや「ファセッタズム(FACETASM)」のハイパーミックスなど、パッと見で伝わる強いデザインが、東京的なミックス感覚として受け入れられてきました。以降、海外に出るなら色や柄、形などで強いデザインが必要という風潮が日本の業界にも浸透していきました。特に2015年以降はストリートウエアとの融合が進み、その仮説はより強くなっていった印象です。実際に、自分自身もそう思っていました。ただ、強いデザインが得意なデザイナーと、そうでないデザイナーがいます。後者は必要以上の強さを意識するあまり、自身の個性を見失ってしまったコレクションも数多く見てきました。
エイサップ・ロッキーも「オーラリー」好き
その流れを変えたのが、「オーラリー」の飛躍です。ヨーロッパの取り扱い店舗から口コミで徐々に広がり、アメリカにも進出。17年に開いた東京・南青山の直営店には、オープンから間もなくラッパーのエイサップ・ロッキーが訪れて大量買いするほど「オーラリー」のファンなのだそうです。ただ、パリでのプレゼンテーションの客入りは、シーズンによってバラツキがありました。有名ブランドとスケジュールが重なる際は、ゲストのほとんどが日本人だったシーズンもありました。それが、今年1月に発表した24-25年秋冬シーズンで、これまでのプレゼンテーション枠からショー枠に昇格すると、海外の大手メディアのジャーナリストも複数訪れて高い反響を得ました。そして、高評価のレビューによってアポイントメント数が増加し、卸先も増えました。パリでの発表に初めて挑んだ5年前よりクリエイションは間違いなく洗練されていますが、決して見た目が強くなったわけではありません。むしろ、削ぎ落としてよりミニマルに、よりストイックに進化しており、“伝わりづらい”と思われた繊細なニュアンスがジャーナリストやバイヤーから評価されているのを感じます。
パリ初のショーについては下記リンクから。
そして、見方によっては「オーラリー」よりも“細かすぎて伝わらない”繊細さの「シュタイン」も海外で好調です。25年春夏シーズンの海外卸先アカウント数は、33に増えました。トープカラー中心のコレクションは、ラックに並んでいるだけではその魅力は半分も伝わりません。細かいタックを複数入れたトップスや、ゆるやかにツイストするジーンズ、シルクをミックスした素材の光沢感など、一点一点の微細なニュアンスが、袖を通すことで心地いい違和感へと変わります。海外で、この“細かすぎて伝わらない”ニュアンスが伝わっているのはなぜなのか。きっと、“クワイエット・ラグジュアリー”の名残はあります。でも、「シュタイン」の実力が第一なのは大前提として、個人的には「オーラリー」の飛躍も大きく影響していると思います。これだけブランドや情報に溢れた状況では、信頼できる人の口コミが高い価値があります。「オーラリー」のショーのレビューや取扱店の評判は、日本ブランド全体の印象を底上げしているのではないでしょうか。
「シュタイン」については下記リンクから。
同じアジアでは、中国や韓国、台湾デザイナーのレベルも上がっています。地球上にある山ほどの数のブランドと戦うにはローカル独自の切り口が分かりやすいフックになるため、世界進出を狙う若手デザイナーの多くは自国文化を意識的に取り入れています。その点、日本人デザイナーの繊細さはほかにはない強力な武器になると確信しています。例え“細かすぎて伝わらない”モノづくりだったとして、自信を磨き続けてほしいです。追い風は吹いています。