“日本一、販売員を取材している”ライター苫米地香織が、ファッション&ビューティ業界で働く“仲間たち”に向けて、「明日のために読んでおくべし!」な1冊を紹介する新連載。第1回は、マーケティング評論家・ルディー和子の「売り方は類人猿が知っている」(日経BPマーケティング)だ。
人は身を守るために社会を形成する
テレビの情報番組で、「今月も値上げラッシュです!」「食費を節約しないと~」「給料がなかなか上がらない中~」といった話題を見聞きしていると不安になってくる。欲しいものがあっても「今は我慢しておこう……」となる。
だが、しゃかりきに働けば収入を増やせるし、値上げも回り回れば自分の懐に入るわけだから、そこまで危機感を抱く必要はないのでは?と個人的には思う。しかし、とかくわれわれはネガティブな情報に流されて、今の自分を守ろうとするものだ。
この守りに入る状態は、類人猿やサルのころから備わっている“動物的本能”の仕業だという。例えば、サルが猛獣の気配を察知して、見つからないように物陰に隠れるのと同じだ。
人類の祖先は、生き延びるために集団になる必要があった。猛獣から身を守りやすくなるし、狩りは単独よりチームで行う方が効率が良い。仮に獲物を仕留められなくても、ほかの仲間が集めた木の実などで飢えをしのげる。その後、獲物を捕まえたときに、木の実を分けてくれた仲間に恩を返す。そうやって仲間と支え合うことから、社会が形成された。
社会が形成されると“トレンド”が生まれる
社会が形成されると、その集団の規範から外れた行動を取る者は追い出されることになる。そして、集団から追い出されると厳しい自然界では生きていけない。だから、できるだけ集団に合わせて行動するようになる。これは現代も同じで、職場や学校で仲間外れにされたくないから周りと同じような格好をしたり、違うと思っても皆の意見に同調したりする。それが積み重なった先にあるのが、“トレンド”なのではないか?
動物的本能が社会形成に結び付き、そこからトレンドが生まれる。「売り方は類人猿が知っている」は、動物の本能をフックに人間の消費行動を解説してくれる。人間は合理的な生き物とされるが、実はまだまだ本能に従っていることが多いと教えてくれるのが同書だ。
まず“人間は合理的な生き物ではない”と知る
販売員は客のニーズを理解し、その上で最適解としての商品を提案しようとする。しかし客は、もっと直感的な部分で購入のいかんを決断しているかもしれない。なぜなら、そこに動物的本能があるからだ。
人間が合理的な生き物ではなく本能的に行動していると知れば、昨日と違ったアプローチができるかもしれない。
動物園でそうするように、まずは目の前の客をよく観察してみよう。何を探しているのか?何色が好きか?行動や表情から、感情の動きを読み取る。一朝一夕で身に付くテクニックではないが、それができれば“プロフェッショナル販売員”に近づけるだろう。