ビューティ

「RMK」や「スリー」の立役者、石橋寧が化粧品業界に提言 Vol.1 「日本のコスメの存在感がなくなっている!」

PROFILE: 石橋寧/マーケティングアドバイザー

石橋寧/マーケティングアドバイザー
PROFILE: エキップにて1997年に「RMK」、2003年に「スック(SUQQU)」、08年に設立したACROでは「スリー」「アンプリチュード」「イトリン」を立ち上げ。24年3月に退任し、独立 PHOTO:KOUTAROU WASHIZAKI

化粧品市場はすっかり活況を取り戻したが、気が付けば欧州のハイブランドと韓国コスメのパワーに押され、「J ビューティ」と呼ばれていた頃の勢いはすっかり影を潜めている。その原因はいったい?これからどうしたらいい?そこで、ビューティ・ジャーナリストの木津由美子が数々の百貨店ブランドを立ち上げては成功へと導いてきた石橋寧氏に、日本の化粧品業界に対して思うことを5回にわたって聞く。

――:ズバリ、日本の化粧品業界って大丈夫でしょうか?不安しか感じないんですが。

石橋寧(以下、石橋):昨年、タイのバンコクで化粧品売り場をいろいろと見て回ったんだけど、韓国コスメがすごくいい場所を取っていたんだよね。現在のメインどころは韓国コスメと、「グッチ ビューティ(GUCCI BEAUTY)」や「エルメス(HERMES)」などの欧州ラグジュアリー。日本のコスメブランドはほとんど隅に追いやられていた。それはロンドンでも同じ。ハロッズを見ても日本からの新規参入は見当たらず、相変わらず資生堂グループの「シセイドウ(SHISEIDO)」と「クレ・ド・ポー ボーテ(CLE DE PEAU BEAUTE)、花王・カネボウグループの「スック(SUQQU)」と「センサイ(SENSAI)」のみ。実はコロナ前の2019年ごろ、ハロッズのバイヤーから「スリー(THREE)を入れたい」という打診があったんです。化粧品売り場を改装して2倍くらいに拡張する、そこで「J ビューティ」を強化したい、と。代理店を通じて交渉していたんだけれど、当時はまだEU離脱が決定していなかった。国の方針が決まらないと具体的な条件交渉に入れないから少し待とうと話しているうちにパンデミックになり、ハロッズの改装も遅れ……昨年行ったら、その場所に「グッチ ビューティ」が入ってましたね。

――:「スリー」の進出は引き継がれていないんですね。なぜ、こんなに全てが停滞しているのでしょう?

石橋:コロナ禍で海外渡航の自粛が求められると、日本の企業はきちんと守って全て現地任せにし、誰も行かなくなってしまった。一方、韓国はオンラインで交渉して機を見て渡航して、いいロケーションを積極的に獲得していました。結果コロナが収まった今、どこも渡航者が戻ってきているから、ロケーションの有利・不利は大きく響く。奥まったロケーションにある日本のブランドはこれから数年、とても苦労しますね。それを見ると、「日本の企業は何をやっていたの?」って思う。

日本のコスメブランドの居場所がない

――:今、いろんな業界で消費の二極化が進んでいますが、低価格帯マーケットは韓国に食われ、高価格帯市場は欧州ラグジュアリーブランドに占められ、日本のコスメブランドの居場所がありません。

石橋:日本のメイクアップ市場は「シャネル(CHANEL)」や「ディオール(DIOR)」などのラグジュアリーブランドが圧倒的に強く、日本の輸入コスメの25%は韓国コスメが占めている(23年度の化粧品輸入実績。日本輸入品協会調べ)。つまり、日本のコスメは、ラグジュアリーとマス市場のどっちからもやられっぱなし。その上、花王は「オーブ(AUBE)」と「コフレドール(COFFRET DOR)」を終了すると言っているでしょ。これって「欧州や韓国企業の皆さん、日本のマーケットをお好きにどうぞ」と差し出しているようにしか見えないんですよね。

――:さらに今秋から来年にかけて、欧州ラグジュアリーブランドが勢力を増します。

石橋:聞くところによると、百貨店の外資系ハイブランドはやがて、化粧品とファッション小物を集積した売り場を作るんじゃないか、と。ハイブランドの強みは、バッグとかポーチといったファッション小物を持っていること。阪急うめだ本店の「ディオール」が成功したのは、まさに化粧品とバッグを連動させた売り場を作ったから。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のコスメがまもなく出てくるようだが、そういう売り場を作る可能性は大いにあると思う。そうすると百貨店の売り場はどうなるか。広いスペースが必要になるので、そんな提案がしにくい日本のコスメブランドは別のフロアに移設される。今、世界中で同じような動きがあるように感じます。僕はそんな状況を見越して日本発のラグジュアリーブランド「アンプリチュード(AMPLITUDE)」と「イトリン(ITRIM)」を作ったわけです。コロナ禍を含めて確かに3年くらいは厳しかったけれど、可能性を秘めていたブランドだったのに休止となってとても残念。「アンプリチュード」を作った時、実はどの商品も「シャネル(CHANEL)」より価格設定を100円高くしたんだよね。「トム フォード ビューティ(TOM FORD BEAUTY)」ほど高くなくていいけれど、日本のラグジュアリーだから、と。そういうブランドが、日本には本当にないんですよ。

「品質がよければ売れる」のは錯覚

――:かといって、広くグローバルで成功しているブランドもない。

石橋:みんな「グローバル」って言うけど、言っているだけで行動が伴っていないんですよ。フランスと韓国に共通しているのは、人口が日本の半分ぐらいであること。国外に出ていかないと生きていかれないから、最初からグローバルを相手にしているわけです。それに対して日本は1億2000万人もいるから自国でなんとか消費できていた。ところが人口が減少し、「やっぱりグローバルだよね」と。ならば、そういう視点でモノ作りやマーケティングをしていかないと。でも化粧品メーカーのトップが本気で海外に視察に行っているとは思えないし、行っていたとしても本質を見ていないように思う。「品質がよければ売れる」というのは日本の企業の錯覚で、大きな勘違い。もはや品質がいいだけで売れる時代ではない。なのにまだそう信じようとしているふしがある。日本の化粧品メーカーはどこで稼いでいるかというと、結局化粧品専門店やドラッグストアがメイン。専門店を第一にモノ作りをし、店舗設計やディスプレイ、テスターといったものも専門店ベースで考えるから、グローバルでは戦えないんですよ。本当にグローバルにするんだったら、まずはトップ自らいろんな国に行って、自分の目でマーケットを見てくる。今をチャンスと捉え、グローバル視点でモノ作りやマーケティングをすれば、まだまだいけると思います。

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