ファッション業界のご意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回のテーマは大手セレクトショップチェーン。衣料品市場はコロナから軒並み回復し、大都市ではインバウンド需要の追い風も増えている。ファッション性とトレンド力で若い世代の支持を得てきたセレクトショップはどうなっているのか。ここではセレクトショップの代表格であるユナイテッドアローズの業績を分析する。
ユナイテッドアローズはコロナ禍を乗り越えても売り上げの回復は鈍く、収益性もコロナ前の水準を回復していない。ラグジュアリーやインバウンドに押し上げられて我が世の春を謳歌する都心百貨店に比べれば病み上がりを否めず、未来へ向けて売り上げと利益を伸ばしていく展望もロジックも見えていない。それは同社に限らず、大手セレクトチェーンに共通する課題ではなかろうか。
回復が遅れたユナイテッドアローズ
大手セレクトチェーンにどこまでを含むかは異論があると思うが、かつて四家といわれたユナイテッドアローズ、ベイクルーズ、ビームス、シップスのうち上場して業績を開示しているのはユナイテッドアローズだけで、他社は売上高など部分的な開示にとどまるから、どうしてもユナイテッドアローズの業績を軸に大手セレクトチェーンを語らざるを得ない。
この四家の直近決算期の売上高合計は3776億1000万円(ビームスのみ23年2月期)とコロナ前19年の3993億3000万円の94.6%にとどまるが、パルグループの衣料品事業も大手セレクトに数えれば直近決算期売上高合計は4973億7700万円と19年の4964億3100万円をかろうじて0.2%上回る。パルグループの衣料品事業を除けば、大手セレクトチェーンはようやくコロナ前の売り上げに回復しつつある病み上がりと見るべきだろう。
大手セレクトチェーンと対比される国内ユニクロの売り上げもこの間(19年8月期〜23年8月期)に8729億5700万円から8904億2700万円と2.0%しか伸びていないから、大手セレクトから低価格チェーンに顧客が流れているわけでもない。インフレと社会負担増に賃金上昇が追いつかず実質賃金が減少を続ける中、衣料消費が抑制されているからで、好調を続ける全国百貨店の24年上半期売上高19年比も、総額こそ100.7と上回ったものの衣料品は89.4と回復が鈍い。商業動態統計「織物・衣服・身の回り品小売業」の24年上半期売上高も19年同期の75.7%にとどまるから、百貨店や大手セレクトはまだマシな方だ。
ユナイテッドアローズの24年3月期の連結売上高は1342億6900万円とコロナ前19年3月期の1589億1800万円の84.5%、単体小売売上高は82.6%、小売既存店べースでも90.2%にとどまるから、大手セレクト全体の回復に較べればやや遅れている。パルグループ衣料品の24年2月期売上高が19年2月期を24.6%も上回ったのと較べれば回復力には大差があり、営業利益率もパルグループ衣料品の13.9%に対してユナイテッドアローズは5.0%と格差が大きく、コロナ前19年3月期の7.0%にも距離があるから、収益力の回復も鈍いと言わざるを得ない。
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