日本の若者の間で今、大人気の韓国ブランド「マルディメクルディ(MARDI MERCREDI)」を知っているだろうか?大きな花のグラフィックと“Mardi”のロゴのTシャツやスエットを思い浮かべてもらえば、ピンとくる人も多いはずだ。2018年にスタートすると、韓国のセレブリティーやインフルエンサーがこぞって着用して人気に火がつき、その勢いは瞬く間に海を越えた。この6月には満を持して東京・代官山に初の日本旗艦店をオープンした。ブランドの世界観が詰まった代官山旗艦店の魅力やこだわり、日本を端緒にしたグローバル戦略について、来日したブランドの創業者パク・ファモク=ピースピーススタジオ最高経営責任者(CEO)に聞いた。
韓国のリアルトレンド市場をけん引
日本でもポップアップストア開催&
「ゾゾ」出店で反響
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「マルディメクルディ(以下、マルディ)」は、韓国国内に6店舗を持ち、2023年の年間売上高は718億ウォン(約82億円)を記録。フレンチカジュアルにストリート要素をミックスしたスタイルで韓国の最先端を走り、今や同国のリアルトレンド市場をけん引するブランドに成長した。
ブランドを立ち上げたのは、西京大学の衣装学科を卒業して自身のメンズブランドを営んでいたパク・ファモク最高経営責任者(CEO)と、アパレル企業でバイヤーを務めていたイ・スヒョン監査役の夫婦だ。パクCEOがコンテンツ全般をディレクションする一方で、イ監査役がMDを担当してきた。23年には、ムシンサパートナーズの前代表であるソ・スンワンが共同CEOとして、「マルディ」を運営するピースピーススタジオに参画。社内システムの構築やマネジメントを行っている。
オンラインの購買習慣が浸透している韓国では、 EC専業ブランドの市場はレッドオーシャンと化し、差別化が難しくなっている。「マルディ」はECプラットフォームで認知を着実に獲得しながらも、店舗をブランドの独自性を表現する「最も重要なショーケース」として重きを置いてきた。6つの実店舗はパクCEOが一つ一つの設計に深く関わり、ブランドの世界観を深く植え付けた。
グローバル展開において、日本は最重要マーケットの一つ。代官山店の出店以前には、日本で複数回ポップアップストアを実施した。「韓国と異なり、日本人の間にブランドの信頼を高めるためには、オンラインよりもフィジカルなショッピング体験を充実させる必要がある」。23年6月に伊勢丹新宿本店、同10月には阪急うめだ本店で開催し、いずれも大盛況を博し、期待値の高さをうかがわせた。今年3月に「ゾゾタウン」にショップをオープンした際には、2カ月という短期間で年間予算を達成。売り上げは好調に推移している。ZOZOの白石雄大ブランド営業本部出店営業部ディレクターによれば、10〜20代の若者を中心に支持を集めており、「マルディ」の商品は「ゾゾタウン」の人気アイテムランキングで常に上位にランクインしている。中でも「シグニチャーの“フラワーマルディ”シリーズは、カラーを問わず入荷後すぐに完売してしまう」と驚く。
若者が行列を作る代官山店
加速するグローバル戦略
代官山店のオープンから約2カ月が経過したが、いまだに週末は若者が店外に列を作る姿が見られ、その人気を裏付ける。2層約300平方メートルの店舗は、代官山エリアの落ち着いたムードと調和する空間だ。1階は、コンクリート打ちっぱなしの内壁に、オーダーメードしたというシルバーの什器が映えるインダストリアルな内装で、韓国の店舗が打ち出してきたムードを踏襲する。2階は、パクCEOが考える日本を表現し、木々があふれる代官山の景観に合うように、爽やかなグリーンを基調としている。
日本事業の今後の展望について、まずは代官山ストアに集中し、軌道に乗れば大阪、名古屋など他の都市への出店も視野に入れる。グローバル、ハイファッション市場で戦うための準備も進める。ECは大手プラットフォームから自社販売へ比重をシフトし、ブランドの世界観をより強固にする。すでに自社ECではスタイル提案などのコンテンツ増強に動いている。
また、現状は若者向けのウィメンズブランドの印象が強いが、「性別・世代を問わず愛されるブランドになりたい」と展望を描く。これまで製品カテゴリーを徐々に拡張しており、スポーツラインの「マルディメクルディ アクティフ」、キッズラインの「マルディメクルディ レプティ」、ペットラインの「マルディメクルディ ジュディ」もラインアップする。
すでに日本以外のアジア圏にも進出しており、中国や香港、台湾、マカオ、タイに実店舗を構える。今後もグローバル出店を加速させ、タイに新たに2店舗、インドネシアにも初の旗艦店を設ける計画だ。
創業者に聞く、
ブランドのルーツや日本進出への思い
PROFILE: パク・ファモク=ピースピーススタジオ最高経営責任者
WWD:ブランドの始まりは?
パク・ファモク=ピースピーススタジオCEO(以下、パク):現在、監査役であり妻のイ・スヒョンと、「トレンドを追わずに自分たちが好きなものを、それを好きだと言ってくれる人に向けて届けよう」という思いから立ち上げたのが「マルディメクルディ」(以下、「マルディ」)だ。実は私はそれ以前に、2011年から自身のメンズ向けストリートブランドを運営していた。メンズ市場の限界を感じてい
たうえ、トレンドや売り上げばかりを意識することに疲弊していたため、その経験を踏まえたウィメンズブランドを作ることに。当時、私と妻は30代半ばだったため、「同世代の人たちならわれわれの好きなものを理解してくれるのでは」と考え、同世代をターゲットに洋服のデザインをし始めた。
WWD:花のグラフィックである“フラワーマルディ”によって、ブランドの名が広まった。その誕生秘話は?
パク:19年のシーズンコンセプトに「花」を掲げたことから、デザイナーの私がメイングラフィックとして考案した。次シーズンでは新たなグラフィックを作るつもりだったが、MDを担当する妻から「継続して使用しよう」と提案された。「マルディ」人気に火がついたのが20年なので、“フラワーマルディ”の使用を延長していなければ、今のようなブランドの立ち位置は築けなかったかもしれない。
ただ、元々「マルディ」にはしっかりとしたマーケティングチームがなかったので、インフルエンサーにギフティングなどをしたことがなかった。だから正直、何がきっかけでブランドの人気が出たのかは分からない。周囲の人から「他のブランドからも『マルディ』に似た花モチーフのアイテムが多く出始めた」と言われるようになって、認知度の高まりを実感した。以降、“フラワーマルディ”以外にもグラフィックのバリエーションを増やすため、ドッグプリントやエンブレム風モチーフ、クローバーモチーフを発表してきた。
WWD:「マルディ」の強みは?
パク:2つある。1つ目は、僕と妻のファッションの好みが正反対であることを利用して、バランスの取れたMDを組んでいることだ。僕は以前のブランド運営の経験から、ストリートテイストなデザインが得意。一方で、妻はアパレル企業でラグジュアリーブランドを対象にバイヤーをしていた経験があるため、エレガントなデザインに長けている。
2つ目の強みは、インハウスの開発室を持っていること。生地を専門業者と組んでオーダーメードで作る他、社内の縫製士やパタンナーに依頼して、シルエットの調整などをしながらサンプルを完成させる。それを、「マルディ」を専門で製造してくれる外部の工場で製品化してもらう。この工場は、「マルディ」立ち上げ当初、別ラインで他のブランドも生産していたが、「マルディ」の成長があまりにも著しかったため、現在では全リソースを割いてうちのアイテムだけを手掛けるようになった。
WWD:今回、なぜ代官山に旗艦店を?
パク:ソウル市内にある漢南洞の街並みに似ており、「この場所に溶け込むお店を作りたい」と思ったからだ。以前、自分のブランドの事務所を同地に構えていたのだが、その当時の雰囲気が、スタイリッシュで高級感のある代官山と重なった。また、表参道や渋谷のような喧騒がないというのも決め手の一つ。漢南洞には「マルディ」の店舗もあり、日本からもたくさんのお客さまが来てくれているが、買い物を済ませたらすぐに退店しなくてはならないほど店内が混雑している。ショッピング体験をもっと充実させるために、人が集まり過ぎないエリアで広い店舗をオープンしたかった。
また、私には「日本で認められたい」という思いがある。日本は著名なブランドやデザイナーを輩出してきた国で、ストリートカルチャーの文脈にも巨匠とされる人が多い。「マルディ」がグローバル進
出するに当たり、日本市場に本格参入することは重要なステップと考えている。
WWD:今後の展望は?
パク:まずは代官山店を軌道に乗せる。手応えを得られたら、名古屋や大阪などの主要都市にも出店したい。現時点ではウィメンズラインに特化した商品を並べているが、実は「マルディ」にはスポーツライン、キッズラインなどもある。それらも順次、披露したい。
ブランドを起点にしたイベントを、代官山店で開催するのも目標だ。「マルディ」は文化空間を作るため、漢南洞に「ノワール マルディメクルディ」という複合施設を持っており、その3階はイベントスペースになっている。音楽ライブやアートの展示など、ファッションだけにとらわれない企画を実施してきた。日本でも日韓の交流になるような、同様のイベントを行いたい。
ライフスタイル領域に進出
「マルディメクルディ」を
起点に広がる関連ビジネス
ピースピーススタジオは、ブランドを一過性のブームで終わらせないための戦略として、「マルディメクルディ」を起点にしたカルチャーの醸成に挑んでいる。ファッションやジュエリーにとどまらず、フレグランスやインテリア、音楽などのライフスタイル領域にも進出し、10の事業を手掛けている。ここでは代表的な4つを紹介したい。
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