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DAIKI SUDOがデビューEP「EARTH」をリリース 現実と非現実の境界を漂う音像

PROFILE: DAIKI SUDO/アーティスト

DAIKI SUDO/アーティスト
PROFILE: 1998年、神奈川県生まれ。10代の頃にニュージーランドで3年間を過ごす。帰国後の大学在学中に、楽曲制作を目的に南アフリカに滞在する。その頃、SG Lewisの「Warm」を聴いたことをきっかけに楽曲制作を始める。2024年、Daiki Sudoとして本格的に音楽活動を開始。8月8日にデビューEP「EARTH」をリリースする

8月8日にデビューEP「EARTH」をリリースしたDAIKI SUDOは2023年に“水のように広がりながら、自然と調和するエレクトロニックミュージック“というコンセプトを元に活動を開始した。同作にはダウンテンポ、フューチャーベース、メロディックハウス、シンセポップを独自に解釈した4曲が収録されていて、いずれもアンビエンスをフィーチャーし広大な草原や雄大な山脈、無限に広がる海といったオーガニックな情景を想起させる。

1月にインドゴアへ移り、現在まであてもなく旅を続けているという。これまでに海外を拠点に生活してきたことがジャンルを横断した楽曲の根源になっているのか。音楽制作のプロセスやデビュー作の制作背景まで話を聞いた。

映画の1シーンから音を想像する

WWD:音楽制作を始めたのはいつ頃ですか?

DAIKI SUDO(以下、DAIKI):18歳の時に高校時代の仲間と一緒にヒップホップのユニットを組んでいて、自分はラッパーを担当してました。友達がトラックメイカーだったので、僕はスタジオでヴォーカルをレコーディングするだけ。音作りには関わっていませんでしたね。その頃、トラックメイカーの友達からSGルイスを勧められて「Warm」を聞きました。静寂した空間とピアノの旋律の情緒がすごくて。当時は生音とエレクトロの融合に未来感を感じていました。バーチャルシンセの実在しない楽器音と現実世界の生音、この非現実的な組み合わせの音像に影響を受けました。

その後グループが散り散りになって、1人になった時にヒップホップを続けるのではなく、ジャンルをまたいだ音楽を作りたいという欲求が芽生えました。それから自分でトラックメイクからミックス、マスタリングまでをYouTube見ながらやり始めたんです。

WWD:当時はどんな曲を作っていたのでしょうか?

DAIKI:当時はハウスっぽい曲が好きでした。ドレイク(Drake)の「パッションフルーツ(Passionfruit)」みたいなカリビアンぽさもある4つ打ち。ダンスミュージックでありながら、コードやメロディに情緒があってラップボーカルにもメロディが乗っているような曲が多かったです。

WWD:ディスコ・リバイバルとか1970〜80年代をアップデートしていく風潮の発端のような時代だったと思うのですが、当時の空気感にも影響を受けましたか?

DAIKI:僕はディスコよりも映画音楽からの影響が強かったです。最初は曲単体として聴いた「Warm」も「X-ミッション」っていう大自然の脅威とエクストリームスポーツをテーマにした映画の挿入歌だったんです。作品中で男女が夜の海に潜っていくシーンとの情緒が特に印象的で、その映像と音楽が鮮明に記憶に残っています。それから、フィルムスコアにどんどん惹かれていきました。

音が先行するのではなく、映画のシーンの情景に合うかどうか。曲単体よりも映像の世界観が頭の中でパッケージされた状態で音楽を聴くことが増えていったように思います。ルドウィグ・ゴランソン(Ludwig Goransson)も「メッセージ」のヨハン・ヨハンソン(Johann Johannsson)も好きでしたね。

WWD:情景が浮かんで音につながっていく前提として、世界各地に住んだり、旅をした経験が影響していますか?

DAIKI:それはありますし、SF映画や小説が大好きなので、現実世界に無い情景を拡大して妄想することも多いです。ただ、初めて楽器を習ったのも、自分でアルバムCDを買ったのもニュージーランドに住んでいた12~14歳の頃で、音楽を作る楽しさの感覚は間違いなくそこから来ています。初めて買った音源がアウルシティー(Owl City)のアルバム。当時すでにエレクトロニックミュージックやシンセサイザーのあたたかい感じがすごく好きで、その後、聴くようになったサウンドヒーリングのようなジャンルの2つの音楽が混ざっていきました。表現の幅が無限にあるエレクトロニックミュージックを聴き込むうちに、徐々にジャンルを断定しづらい音楽にのめり込んでいったんです。

現実と非現実の境界のような音楽

WWD:インドに渡ってから曲作りに変化はありましたか?

DAIKI:インドに来てからは、「ここは地球なのか?」と毎日のように自問自答しています(笑)。ほとんど裸の西洋人の男が腰まであるドレッド髪を靡かせてモーターバイクで滑走していたり、幅20メートルぐらいの巨大なガジュマルの樹のつたが自然と三つ編みになって天から地上に伸びていたり。人も景色も暮らし方もとにかく全てが日本の生活とかけ離れすぎていて、現実なのに自分にとっては非現実に感じるような状況が続いています。

インドの伝統音楽はキーやリズムの概念も遥かに複雑で、理解し難い部分もありますが伝統楽器のタブラという太鼓のリズム感とグルーヴは自分の曲のリズム作りにも少し影響しました。

また、インドは現在ドラムンベース、ジャングル、ゴアトランスといったエネルギッシュなジャンルのパーティーと、エクスタティックダンスという、焚き火を囲んで全員でサンスクリット語の曲を合唱して、ブレンドしたカカオを飲みながらアンビエントな音楽にうねるように踊る内省的で精神性の高いパーティーに二極化していて、どちらも別のベクトルに突き抜けた音の可能性を感じて楽しいです。

インドに来て、以前よりも重さや暗さ、逆にハッピーな時もどこか突き抜けるように、ありのままよりもドラマチックに物事を伝えたいという思いが強くなりました。

「EARTH」のフックで鳴っている音は、今まで聞いたことのない音を作りたいというモチベーションからできたんですが、もともとは耳触りの良い音の中のちょっとした違和感を探していたことがきっかけになりました。音が流れていく中で、引っかかるけど気持ちがいい。ある意味サプライズのような「気持ちのいい違和感」を常に作りたいと思っています。個人的にはエレクトロミュージックのパターンと縛りのないエクスペリメンタルの要素を混ぜてみたり、今回のEPではメインストリームの音楽の構成と規律を保ちつつ好きに流れをまとめています。

WWD:通しで聴くとある種の逃避性が備わっているように感じます。それは自身が求めているから、それとも無意識にそう感じさせるのでしょうか?

DAIKI:自分が求めているからだと思います。最初に音楽を作ろうと思った時、「露天風呂に合うような曲が作りたい」と思いました。温かい湯に浸かりながら、肌の上を転がるような気持ちのいい寒さを感じて曲を聴きたいという。これもある種、日々の生活からの逃避と捉えられるかもしれません。深いリラクゼーションの感覚と内に生まれる興奮や満足。このアルバムに関しては、ライブで盛り上がるような過程ではなくて、むしろ帰り道に自然の中、1人で内に入っていくような現実逃避の感覚が合うと思います。現実のとある場面で生まれる感情を楽しむための音楽というよりは、その感情を起点に別の世界に誘われるような音楽。フィルムスコアも含めて、フィクションとノンフィクションの境界が好きなので自然にそうなったのかもしれません。例えば、映画「her」の限りなく現実に近い非現実、共感はできるけど想像の余白がある世界観のような。

WWD:曲を作る時にはまず、映像が浮かぶのでしょうか?

DAIKI:好きなSF映画のワンシーンを見つめたり、頭の中に変な情景を具体的に妄想したりして、その場面にどんな音楽を流したいかという自問自答を繰り返しています。あとは、写真の影響も大きい。“EARTH”は木漏れ日の中、森の原っぱに寝転がっている想像のイメージから、横に流れる川、映画「アバター」に登場するような極彩色の野鳥が連鎖的に浮かびました。そこに音を重ねていくように、常に楽曲と映像はセットで考えています。

WWD:アルバム全体としてはどのように構成していったのでしょうか?

DAIKI:4年前に作った曲もありますし、シングルにするか、EPにするかも含めて今回リリースする「8%」というレーベルのToshiさん(「8%」代表)に相談し、一緒に仕上げていきました。自分の作品に対して過剰に感情を注いでしまうあまり、外から見て分かりづらい文脈になってしまうことがあるので、俯瞰した視点で意見をくれるToshiさんの存在はとても大きくて感謝しています。

WWD:タイトルの“EARTH”にはどんなニュアンスが込められていますか?

DAIKI:高知県の仁淀川で13時間以上かけて無計画にドライブしながらMVの素材撮りをしたんですが、とぐろを巻いた蛇の眼の上を歩く虫だったり、プローブレンズ越しの蝶の目がサッカーボールのように見えたり、全てが非現実に感じたんです。自分が現実ではあり得ないと思っていても、地球には想像を超える世界がまだまだ広がっている。インドに渡ってからさらに強くそう思うようになりましたが、僕たちがこうして誕生して命のバトンをつなぎ、曲を作ったりそれを楽しんだりできているという魔法のような状況も全てこの地球から来ているということに今更ながら感銘を受けて“EARTH”というタイトルにしました。

WWD:思い入れのある曲、難産だった曲はありますか?

DAIKI:最初にリリースしようと仕上げた曲が“SWIM”なんですけど、海を泳いでいるときの気持ちよさや水面の波紋、深く潜っていくにつれて感じる恐怖感を音に変換したいと思ったんです。美しい情景と同居している自然の脅威という異なる2つの感情を表現しようと思ったのですが、理想の音になるまで1年くらいかかりました。どれくらいの音の波長が尖っているのか、どこから温かみを感じるかなど、非常に細かい感覚で調整をしていました。浅瀬から深海までの情景をサインウェーブだけで作りたかったので、最初は滑らかなポコポコした音から始まって、波のように変化していく音のバリエーション。他の曲は比較的スムーズに仕上がったんですが、最初に発表するというプレッシャーもあったのかもしれません。

あてのないアジアへの音楽旅

WWD:現在はインドのゴアにいるんですか?

DAIKI:今はヒマラヤ山脈のパールヴァティ渓谷にいますが、少し前まではゴアにいました。音楽を理由にゴアに来たわけではないので、ローカルの瞑想音楽やゴアトランスを経験して、新しい感覚が生まれつつあります。自分の知っている音楽の世界の外側に、さらに莫大な音楽の世界が存在することに気づいたんです。以前、南アフリカに住んでいた時はドラムパターンがアフロビーツみたいになったり、アマピアノの影響も自分の楽曲に反映されています。これからはトランスミュージックや瞑想音楽のエッセンスが多くなっていくと確信しています。

WWD:インドは瞑想音楽やアンビエント作家も多くいますが、最初にゴアを目指したのはなぜですか?

DAIKI:きっかけはありません。ただ、ルーティン化してきた日本の生活をリセットしたい気分だったので、劇的に日常を変えたいという欲求が強くなってきて、何かを得ようという感覚よりもまっさらな状態になりたいというモチベーションでゴアに来ました。それまでトランスはほとんど聞いていませんでしたし、良さもわからなかった。でも、本場のローカルなエリアや森の中のレイヴで聴くと、この種の音楽が人の発するエネルギー同士を結びつけたり、周囲の自然と自分の波長を合わせるチャンネルになり得るという感覚と意味を肌で理解できました。自然と音楽のつながりを深く感じた経験でもありました。

WWD:現地のコミュニティーで気になったことはありますか?

DAIKI:20代のイスラエルの若者たちのファッションですね。クラシックヒップホップを好きな人がバギーなジーンズを引きずってベースボールキャップを被るように、トランス好きの若者にもBPMの高い音楽と結びついた特有の着こなしがあります。パーティーではサイケデリック、単色の鮮やかな色使いの動きやすいシャツにプリズムレンズを用いたサングラス、というのが大半のドレスコードとなっています。90年代の影響は強いですがストリートさはほぼなくスポーティで、ミニマルなスタイルや逆に懐かしさを感じるようにアップデートされたスタイルが多い印象です。あと、共通して人気なのは「オークリー(OAKLEY)」の“レーダー“です。

WWD:チベットとネパールではどんな音楽に触れたいですか?

DAIKI:最近、トゥクトゥクが故障した時のエンジン音をリズム用に録音したり、群衆の声や街の雑音などのフィールドレコーディングを始めました。フィクションとノンフィクションのバランスをもう少し生寄りにしたいと感じているからです。全部バーチャルではなくて、物体の肌感を取り入れたい。特にネパールでは瞑想音楽と人間の潜在意識に眠る力をより深く感じたいと思います。海外だとオープンに人とつながりやすいので、そういった素直な人間の温かみのような部分も今後の曲に反映されていくような気がします。

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