メタバースの話題は落ち着いてきた一方、バーチャルファッションのアイデアは引き続き色褪せることなく、デジタルとフィジカルの両方を追求し、次なるステージに足を進めている。「デジタル・ファッションを伝統的なファッション・エコシステムに組み込む」ことを使命として発足した非営利団体デジタル・ファッション・デザイナー協議会(Digital Fashion Designers' Council、以下DFDC)は、単に“フィジタル(Phygital)”を存続させるだけではなく、さらなる繁栄をビジョンに掲げる。それを裏付けるように、「ディーゼル(DIESEL)」をはじめとした有名ブランドをフィーチャーし、イベントシリーズ“ファッション・ウィーク・コネクト(Fashion Week Connect)”を開催するという。
デイヴィッド・キャッシュ(David Cash)DFDC創設者兼最高経営責任者は、米「WWD」に次のように語る。「私達は、消費者が時間を過ごしているデジタル世界と、ブランドによるフィジカルな世界、そしてフィジカルなファッションシステムとの橋渡しをすることに、大きな可能性を感じている。そのコンセプトを知ってもらうために、フィジカルな世界でメゾンの作品をフィーチャーした“ファッション・ウィーク・コネクト”を企画した」。
著名セレブリティーやラグジュアリーブランドをフィーチャー
“ファッション・ウィーク・コネクト”の第1弾として、9月にリアルとデジタルの両方で、世界各都市でフィジタル体験のプログラムを発表予定だ。写真家のニック・ナイト(Nick Knight)と彼のチームがディレクターを務めるメディア「ショースタジオ(SHOWStudio)」が協業した“グローバル・デジタル・ファッション・フィルム・フェスティバル”では、チャーリー・XCX(Charlie XCX)やナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)などのセレブリティーや、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「ミュグレー(MUGLER)」「ロエベ(LOEWE)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」などのファッションをフィーチャーした映像で、オンラインとリアルの両方でデジタルファッションの可能性を披露する。
“ファッション・ウィーク・コネクト”では、2023年に発表された「ディーゼル(DIESEL)」とアートスタジオ、アーティフィシャル・ローマ(Artificial Rome)の協業プロジェクト“メタモルフ(Metamorph)”にも焦点を当てる。同プロジェクト内で発表したVR ウオッチ“ヴァート(Vert)”や、アーティフィシャル・ローマが制作したインタラクティブなメタバース体験もラインアップ予定だ。
ロサンゼルスではRED DAOとDFDCによるVIPレセプションを開催。「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」の“ジェネシス コレクション”の現物を展示する。世界初のラグジュアリー・フィジタル商品と称された21年の本コレクションは、フィジカル商品を持つNFTだ。RED DAOが購入し話題となった3アイテムの他、“ドージェ・クラウン”などを含め、約600万ドル(約8億7600万円※8月12日時点)で販売された。
また“ファッション・ウィーク・コネクト”とDFDCは、ニューヨーク、ロンドン、パリのファッション・ウィークでもポップアップイベントを行う。パレ・ド・トーキョーで開催されるパリ・ファッション・ウィークの一環として、“ファブリックス・デジタル・ファッション・テイクオーバー(Fabrix Digital Fashion Takeover)”の開催を支援する。オートクチュール・モード連盟の支援を受け、香港を拠点とするデザイナー、ウィルソンカキ(Wilsonkaki)、ポンダラー(Ponder.er)らが参加する。
ロンドンでは、エピック・ゲームズ・スタジオで開催されるデジタル・ファッション・ウィークをはじめ、世界各地で開催されるVIP向けイベントをサポート。その後シンガポールに進出予定だ。「ヴォーグ シンガポール」のランドマークイベント“Next in Vogue”のタイトルスポンサーおよびリードイノベーションパートナーとして、AR、ゲームワールド、ホログラムなどの体験を提供する。
さらに相互運用性をテーマに、インスタグラムのようなソーシャルメディアアプリ、「フォートナイト(Fortnite)」や「ロブロックス(Roblox)」、メタバース「スペーシャル(Spatial)」や「ディセントラランド(Decentraland)」、スマホやデスクトップPC、メタクエストなどのヘッドセットまで、幅広いプラットフォームとガジェットをサポートするという。
運営チームを構成するのは
ファッション業界を牽引する豪華メンバー
これらを成功させるため、デイヴィッドはバーチャルファッション界からオールスターを役員および運営チームに迎えた。このリストには、メーガン・カスパー(Megan Kaspar)DFDC最高顧問兼執行役員、ファーストライト(FirstLight)マネージングディレクター兼RED DAOファウンダー、LVMHや「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」「モンクレール(MONCLER)」「バレンシアガ」などと仕事をしてきたアントニ・トゥディスコ(Antoni Tudisco)3Dデジタルファッションアーティスト、ベッティーナ・ヴォン・シュリッペ(Bettina Von Schlippe)「ヴォーグ・シンガポール」発行人、「ドレス・エックス(DRESSX)」の共同創設者ダリア・シャポバロワ(Daria Shapovalova)とナタリア・モデノヴァ(Natalia Modenova)、Web3.0におけるラグジュアリーブランド「9DCC」のクリエイティブディレクターであるGmoneyら、錚々たる顔ぶれが名を連ねる。
フィジタル運用により拡大する
ファッションブランドの可能性
メーガンDFDC最高顧問兼執行役員は「投資や価値の紆余曲折、あるいは法律や政治の影響にもかかわらず、ブロックチェーンの取り組みは依然としてブランドに多大な影響力を持っている。『ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)』の“VIA”プログラムのように、メゾンブランドもブロックチェーン上の商品を継続的に発表してきた」と言及する。
「ルイ・ヴィトン」だけではなく、メーガンは高級ファッションブランドのデジタルコレクティブにも携わってきた。「これらのブランド達は、自社商品がオンチェーンであることの長期的な価値を理解している。EUがスマートタグに関する規制を設けていることもあり、ブランドは商品に埋め込むスマートタグやNFCチップをブロックチェーンに結びつけ、メタデータにアクセスできるようにすることを検討している。EUのように規制を進めようという動きはあるものの、各機関によってその方針は異なる。DFDCの働きによりブランドが取引の会話に加わり、これらエコシステムの行方に関与できるようにするためのサポートを行う」と語る。
「私の個人的な経験によれば、オンチェーン商品の消費者達は、ブランドに何を生産してほしいか投票することができる。このように、ラグジュアリーブランドが消費者にイニシアチブを渡すことは、かつてない斬新なことだ。デイヴィッドがDFDCで行っていることは、これらブランドが消費者との関係を長期的に強化するためのツールや側面を統合するための先駆けとなるアクションになるだろう」。
DFDCは“ファッション・ウィーク・コネクト”について、既存のファッション業界の著名クリエイターやエグゼクティブリーダーとも交渉中だ。現時点でデイヴィッドからの言及は無いが、いずれ正式な発表があるものと思われる。