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エミー賞最多ノミネート「SHOGUN 将軍」衣装制作秘話 作品を通じて深まる日本のファッション文化への理解とリスペクト

日本時間9月16日に開催予定のプライムタイム・エミー賞授賞式。今回の授賞式の見どころは、25部門にノミネートされた「SHOGUN 将軍」だろう。真田広之が主演、プロデュースを務め、「ハリウッドが手がけた戦国映画」と話題の本作品は、配信開始から6日間で900万回視聴を記録する大ヒットをおさめ、すでにシーズン2、3の制作も予定されているという。現在公開されているシーズン
1では、戦国時代の歴史をオマージュしたストーリーや豪華出演陣による情緒的な演技、そして繊細かつ大胆に仕立てられた日本式の衣装にも注目が集まった。

当時の文化や登場人物の立場、心情を表現した2000以上もの衣装作りの指揮を取り、エミー賞でも“衣装デザイン賞”にノミネートされたのは、かつて「ディオール オム(DIOR HOMME)」で経験を積んだフランス人デザイナーのカルロス・ロザリオ(Carlos Rosario)が率いるデザイナーチーム。授賞式まで1カ月を切った今、日本の伝統に自身のエッセンスを融合した超大作の衣装制作ストーリーをカルロス本人が明かした。

PROFILE: カルロス・ロザリオ/デザイナー

カルロス・ロザリオ/デザイナー
PROFILE: PROFILE:フランス・ペルピニャン出身。エスモード パリでファッションを学び、在学時にはヴィヴィアン・ウエストウッドら著名デザイナーとの仕事を経験。卒業後は「ディオール オム」のアシスタント・デザイナーに抜擢され“Cent ans de cinéma”コレクションの制作に携わる。その後拠点をハリウッドに移し、衣装デザイナーとしてのキャリアをスタート。映画「ドント・ブリーズ」「蜘蛛巣城」「エイリアン:ロムルス」など、幅広いプロジェクトに携わる PHOTO:KATIE YU/FX

エスモード パリ、「ディオール オム」の経験を経て
映画衣装のデザイナーに

WWD:ファッションデザイナーを志したきっかけや、思い出に残るエピソードは?

カルロス・ロザリオ(以下、カルロス):子供の頃からいつも、パリのオートクチュール・ファッションショーの美しさに魅了されていた。特に圧倒されたのはジャンニ・ヴェルサーチ(Gianni Versace)のショーだ。その経験が、「あの独特の美しさとは一体何なのか」を理解する必要性を引き起こしたのだと思う。美しいランウエイを見たことが、その後の私の人生を決定づけた。

私のキャリアの中には、本当に衝撃を受けた瞬間がたくさんある。「ディオール オム」で働いていた20代前半の頃、オートクチュールの特別なドレスを保管する倉庫に1人取り残されたことがある。突然電気が消えた瞬間、きらめくドレスに見とれた私はその場に立ち尽くしてしまった。あの瞬間ほどシュールなものは、私の人生にないだろう。

ホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)とリース・ウィザースプーン(Reese Witherspoon)と映画「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」を撮影したときの特別な瞬間も覚えている。あの2人の演技のケミストリーは魔法のようで、映画製作が大好きになった。

オファーから撮影まで
「SHOGUN 将軍」衣装の制作秘話

WWD:「SHOGUN 将軍」の衣装制作のオファーが来た時のエピソードが知りたい。日本の歴史を表現する作品の衣装を手掛けることに不安はあったか?

カルロス:2021年の初めに、リード・プロデューサーの一人であるエドワード・L・マクドネル(Edward L. McDonnell)から連絡を受けた。彼とは昔、ジョージ・クルーニー(George Clooney)主演の「スリー・キングス」という映画で一緒に仕事をしたことがある。その時から私達はいつも「また一緒に仕事をしよう」と連絡を取り合っていたが、なかなかその機会は巡って来なかった。そしてついに「SHOGUN 将軍」で、その想いが実ったのだ。

マクドネルの紹介で、脚本家のジャスティン・マークス(Justin Marks)と話し、最初の脚本を読んだ時にそのストーリーと当時の日本文化の豊かさに惚れ込んだ。すぐにリサーチを始め、マークスに見せるために125枚以上の衣装イメージボードを作成した。3回の面接の後、ついに今回の衣装を任せてくれることになったのだ。

衣装のデザインを任されることは有り難くもあり、とても緊張することでもある。マークスは「本物であることが非常に重要だ」といつも口にしていた。当時の衣服を理解するため、可能な限り調べ、勉強した。日本文化を尊重し、適切に描写すると同時に、欧米の人々も理解できる形で表現する方法を導き出すことが私の課題だった。

WWD:衣装チームは何人で構成されたのか?

カルロス:「SHOGUN 将軍」は全エピソードが本格的な映画のようにデザインされる、とてつもないスケールのシリーズだった。テレビシリーズでこの規模のスタッフをそろえるのは非常に珍しいことだと思う。

これを実現するためには、膨大な量の組織とスタッフが必要だ。撮影地であるバンクーバーのスタッフに加え、アジア各地の製造会社と綿密に連携し、何千もの衣装を作った。毎エピソード、衣装チームは約85〜125人で構成され、シリーズを通して何百ものフィッティングを行った。甲冑を1つ着せるだけでも毎回2人がかりだ。だから主役に着せるスタッフの他、村人や侍など何百人ものフィッターのクルーが毎日撮影現場にいて、撮影に間に合うよう準備を整えていた。この時代の衣服の着付けに精通した、非常に才能のある日本人ドレッサーと出会えたことも幸運だった。

撮影現場には常に、そのエピソードの主演俳優やバックの出演者の衣装が詰まった大きなトレーラーが4台あった。しかし、それらはあくまで表面上のことにすぎない。スタジオに戻ると、巨大な倉庫は「デザイン・打ち合わせエリア」「型紙や裁断、取り付け、縫製のための作業エリア」「テキスタイルアーティストや染色師のための作業エリア」「侍の軍隊や農村の衣装や備品を全て収納するエリア」に仕切られている。さらに生地や糸、アクセサリーが色ごとに分類された棚が何段も重なり、次に撮影するシーンに備えて衣装を保管する準備室もあった。

WWD:黒澤明監督の娘であり、衣装デザイナーの黒澤和子にアドバイスを求めたと聞いた。

カルロス:和子には、日本人プロデューサーの宮川絵理子を通じて知り合った。和子はZoomでの短い会話の中で、このプロジェクトでどのように衣装をデザインすべきか、多くの指針を与えてくれた。大名が網代や小さな村に行く時の衣装を作るにあたり、「大名は自分の権力や富を見せびらかしたい。そういう時に大名は村に行くのだ」と教えてくれたことで、大名が鎧や軍服の上に着る美しい陣羽織に工夫を凝らした。

また、あらゆる状況、あらゆる場所、あらゆるセットで、異なるタイプの衣装が必要なことも明らかになった。その結果、各出演者はシーンに合うよう完全にカスタマイズされた服の“クローゼット”を持つことになった。

日本の伝統文化に自分らしさを融合した
2000以上ものコスチューム

WWD:制作した衣装の中で、最も思い入れの深い衣装は?

カルロス:網代の茶屋の花魁達の衣装だ。私は茶屋を“泡”のように感じさせたかった――村の暗闇の中にあるファンタジーのように。花魁達は自由を象徴し、夢を売っている。まるで飛び立ってしまうように儚い彼女達が着ている着物は、花や鳥のモチーフにあふれ、色と模様の爆発のようにも感じる。向里祐香が演じた一流の遊女“菊”の衣装デザインで、この情緒を表現したかった。

また、二階堂ふみが演じた“落葉の方”の衣装も大好きだ。第2話の序盤、彼女の打掛は、“落葉の方”のインスピレーション源となった豊臣秀吉の側室“淀君”の絵がベースになっている。リードテキスタイルアーティストによって、50種類にも及ぶ屏風が1つ1つ手描きされているのにも注目してもらいたい。

浅野忠信演じる“藪重”の鎧と陣羽織もお気に入りだ。“藪重”は他の大名とはちょっと違う。もっとエッジが効いていて、頑固で、少しロックスターのような印象を受けた。彼の陣羽織をもっとクリエイティブにするために、黒く尖ったカラスの羽を取り入れ、役のアティテュードを引き出した。“藪茂”の雰囲気に合わせ、彼の鎧には龍が彫刻された見事な革細工が施されている。

もちろん、主演の真田広之が演じた“虎長”の陣羽織をデザインするのもとても楽しかった。20種類以上の生地と縁取りを使い、紋章もペイントした。ある陣羽織は、何百枚もの孔雀の羽を手作業で下地の布に貼り付け、また別の陣羽織は、手作業でカットした革や木の小片を何十枚も組み合わせ、さまざまな色に染めた紐でくくりつけたりもした。役者が衣装から自分の役を感じられるよう、細部までこだわり抜いた。

WWD:今回衣装を手掛けるにあたり、どのように日本の伝統衣装に「自分らしさ」を融合したのか?

カルロス:コスチュームデザイナーとしての私の仕事は、戦国時代のあらゆる側面を研究して理解し、融合すること、そして衣装を通じて登場人物の物語を伝えること。そのためには、観客が登場人物を理解できるように、特殊なカラーパレットや素材、人物の感情の構築をデザインに取り入れる必要がある。このプロジェクトに対する概念的なアプローチと、登場人物を深く理解することが、私独自の美学で自分自身を表現することにつながったと捉えている。

日本のファッション文化から受けた影響と次なるステージ

WWD:作品を通じて、日本のファッション文化からどのような影響を受けたか?

カルロス:これまでもずっと日本文化に魅了されてきたため、私の人生の中には“日本への憧れ”が長く存在している。「SHOGUN 将軍」の撮影を通して、私の中にあった日本の美学に対するリスペクトと愛は確実に深まり、私の視野を多くの新しい可能性へと広げてくれたと思う。

これまでの私は、広い視野でデザインをするという意味でとても概念的なデザイナーだったと思う。しかし信じられないほど才能があり、知識も豊富な日本人キャストと一緒に仕事をすることができたこの作品では、これまであまり気に留めなかったディティールにまで集中することができた。

日本人デザイナーと言えば、私はずっと三宅一生の作品に魅了されていた。90年代初頭にパリにいた時、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のファッションショーで、フィッターとして雇われたことを思い出す。彼の服の美しさに圧倒されたのを今でも鮮明に覚えている。色彩、生地、建築的なフォルムーー彼はいつも、部屋に入った瞬間に目を奪われるような服を作っていた。昨今、彼ほどファッション界に大きなインパクトを与えた人はいないだろう。

WWD:華々しいキャリアを経て、今後目指すのは?

カルロス:今は「SHOGUN 将軍」シーズン2のために、再び仕事ができることを夢見ている。とても名誉があるクリエイティブなプロジェクトに戻り、日本の文化や衣服の美しさについて学び続けることができたら、それほど光栄なことはないだろう。

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