ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、ファッション&ビューティと小売りの視点で中国専門ジャーナリストの高口康太さんが分かりやすくお届けします。今回は、「フィギュア・トイ」界で、中国発の「赤い衝撃」、「ポップマート(POP MART)」です。売上高ではサンリオをすでに上回り、時価総額でも肉薄する「ポップマート」に迫ります。(この記事は「WWDJAPAN」2024年8月19日号の転載です)
海外戦略を本格化、
23年度のポップマートの売上高は前期比36%増の1263億円に
中国の「潮玩」(中国語でカジュアルトイ)ブームの火付け役となった企業、それがポップマートだ。中国の繁華街ではフィギュアを販売するショップが多いが、ポップマートは一等地に旗艦店を展開するなど存在感はケタ違いだ。日本でも原宿の一等地にビルをまるごとショップにした旗艦店を展開している。
同社の創業は2010年。北京市の小さなセレクトショップから爆速で成長し、20年に香港で上場。今や売上高が約1260億円、営業利益が約246億円、時価総額8000億円超という大企業となった。あのサンリオ(売上高999億円、営業利益269億円、時価総額約9800億円)に迫るパフォーマンスを示す。ポップマートの特徴は「ブラインドボックス」「アーティストIP」に集約できる。
躍進の原動力は中国に2000カ所以上設置している「自動販売機」
同社の主力製品はフィギュア。10センチ弱の小さな人形が1体1650円で販売されている。決して安くはないが、その分、造形や着色は作り込まれている。フィギュアは箱に入れた状態で売られているが、購入して開封するまで何が入っているかは分からない。「ブラインドボックス」(中国語で盲盒、モンフー)と言われるが、日本風に言うならばガチャガチャだ。1つのシリーズには12種類の通常版と1種類のレアが含まれているのが一般的。レアは高額で転売されることも多く、運試し的な楽しみもある。コスメや書籍、航空チケットなどほかの商品ジャンルでもブラインドボックス形式の販売が広がるなど社会現象といわれるまでの人気となった。あまりの過熱ぶりに政府は昨年、「ブラインドボックス経営行為規範指引」という規制法を制定している。レアの出現確率の変更禁止、サンプル検査などが義務づけられた。
もう一つのキーワードが「アーティストIP」。販売されているフィギュアを見ると、ディズニーキャラや「スターウォーズ」、ハリーポッター、マーベル、「ガンダム」など日米IPのライセンス製品も多いが、売り上げの7割以上はスカルパンダやモーリー、ザ・モンスターズなどのアーティストIPが生み出している。多数のアーティストを擁し、100以上のIPを展開している。契約アーティストには人気クリエイターもいれば、ポップマートが見いだした無名の若手も含まれる。次の人気IPを育て、魅力的な商品として作り上げる。アニメや映画のグッズではなく、独自にIPを磨き上げる能力が評価を集めている。ブランドやIPの構築は中国企業の苦手分野といわれる中で、異彩を放つ。
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