2023年にニューヨーク(以下、NY)で立ち上げられた「エディマック プロジェクト(EDIMAK PROJECT)」。まだ日本では無名のプロジェクトにもかかわらず、8月2日に東京・原宿のセレクトショップ「グレイト(GR8)」で行われたシークレットパーティーには、斎藤工やKing Gnuの井口理、秋元梢、佐々木集(PERIMETRON)、小原綾斗(Tempalay)、長谷川忍(シソンヌ)、TaiTanなど、多くのゲストが訪れ、知る人ぞ知る存在として、SNSでも話題となった。今回、NYから来日した同プロジェクトの発起人に匿名であることを条件にインタビューが実現した。「エディマック プロジェクト」の狙いは何なのか。話を聞いた。
「エディマック プロジェクト」について
WWD:「エディマック プロジェクト」を始めた理由は?
「エディマック プロジェクト」発起人(以下、発起人):構想3年、実際に動き始めたのは2023年の年初ぐらいから。もともとは既存のものとは異なる方法で、社会課題に対するアプローチができないかと模索していて、「人が欲望をかなえていくその過程に、社会課題にアクセスできる扉を設置する」という方法を思いついた。その方法を実現するのに、まず浮かんだのが「ファッション」だった。そこから「純粋にファッションを楽しもうとする人間が、気付かぬうちに善きことをしている、という状態はどうすれば実現できるか」を考えて実現したのが、第1弾の「ハイパーストリートスナップ(HYPER STREET SNAP)」コレクションだ。
WWD:なぜ「ファッション」だったのか?
発起人:1つ目はファッションが極めて身近で、人の「かっこよくなりたい」「かわいくなりたい」という欲求に応えるものだから。2つ目は、「ファッションの価値」に興味があったから。同じTシャツでも、ハイブランドとファストファッション系のブランドだと10倍以上価格が違うこともある。その服の本当の価値はどれほどのものなのか、今回のプロジェクトを通して、皆さんに投げかけたいと思った。
WWD:かなり挑戦的だ。
発起人:よく日本では「音楽に政治を持ち込むな」みたいな言説が飛び交うらしいが、それは順番が逆。音楽のルーツをひもとけば、間違いなく政治的なバックグラウンドにたどり着くし、楽器の製造工程や生産地、音源のディストリビューションなど、全ての要素が政治的な意味を帯びている。それはファッションも同じことで、生産国や関わる労働者の待遇など、どういった工程で作られているのか、それを含めて政治的であることからは逃れられない。僕らは政治的であることを最初から意識している。試み自体が政治的であることはもちろん、「ハイパーストリートスナップ」コレクションでは、制作工程にも多層的な意味を与えている。
「ハイパーストリートスナップ」コレクション
WWD:リリースの情報では、「『ハイパーストリートスナップ』コレクションは、プロジェクト発祥地であるNYで、誰よりもストリートを知る者たちによって撮影されたスナップを用いたTシャツを販売。その制作過程は現段階で公表されていないが、プロジェクトの内情を知る者は写真の意味を理解できる」とあるが、この写真は誰が撮影したのか?
発起人:詳しいことは言えないが、今回依頼した写真家たちは、NYのリアルなストリートをよく知る人物たちで、彼らが撮影した写真には間違いなくリアルなNYのストリートが写し出されている。その写真で評価してほしい。今回、第1弾として3人の写真家のプリントTシャツを発売したが、ほかの写真家に依頼したものもあるので、今後も「ハイパーストリートスナップ」コレクションは発売する予定だ(※現在「ゾゾヴィラ」で第1弾を9月2日11時59分まで受注販売中)。
WWD:秘匿性にこだわるのはなぜか?
発起人:先ほども伝えたが「人が欲望をかなえていくその過程に、社会課題にアクセスできる扉を設置する」というのがプロジェクトの狙い。なので、詳しい説明はせずに、「エディマック プロジェクト」がどこまで受け入れられるのか。ある種の社会実験でもあるからだ。
WWD:本プロジェクトは、「固定した経済システムの中に、社会課題へのゲートを忍ばせる義賊的社会運動体」とリリースでは説明されていたが、もう少し分かりやすく言うと?
発起人:生産、供給、消費という既存の経済システムに、「エディマック プロジェクト」の活動が亀裂を入れて、生産、供給、消費を社会課題につなげて考えるようにするということ。
WWD:今後、プロジェクトの全容を話す可能性は?
発起人:まったく考えていない。
WWD:ロゴの意味は?
発起人:視点、視線をイメージしている。プロジェクトを通して、視線の転換や置換は一貫して大きなテーマになっている。ロゴでも、「A」の部分が目になっていて、そこからいろいろな角度の視線でものごとを見ることを表現している。
WWD:Tシャツとは別に、第2弾のプロジェクトもすでに動いているのか。
発起人:「ファッション」と同じく、人の欲求に応えるのと、社会課題という意味で、「食」に可能性は感じている。
PHOTOS:HIRONORI SAKUNAGA