PROFILE: モーリッツ・クルーガー/「マイキータ」創業者兼クリエイティブ・ディレクター
2003年にドイツ・ベルリンで設立された「マイキータ(MYKITA)」は、もともと託児施設だった場所からスタートしたが、14年からは街の中心部にある歴史的建造物に「マイキータハウス(MYKITA HAUS)」と呼ぶ大きな拠点を構えている。数々のコラボレーションや先駆的なデザインによって国際的に知られるようになった今も、デザインやマーケティング、営業から、新たな素材や技術の研究開発、手作業による製造までを一つ屋根の下で手掛けているユニークなアイウエアブランドだ。モーリッツ・クルーガー(Moritz Krueger)創業者兼クリエイティブ・ディレクターに、ベルリンにこだわり続ける理由やモノづくりへのアプローチから、新たなコラボレーションや本社移転といった未来を見据えた取り組みまでを聞いた。
全ての部門を一つ屋根の下に置く理由
WWD:まずマイキータハウスとは、「マイキータ」にとってどんな場所か?
モーリッツ・クルーガー「マイキータ」創業者兼クリエイティブ・ディレクター(以下、クルーガー):ベルリンにあるマイキータハウスは、ブランドアイデンティティーにとって不可欠な場所。私たちの原点であり、エネルギーとインスピレーションの源だ。クロイツベルク地区にある歴史的建物では、35の異なる国出身の約270人が共に働いている。
WWD:“一つ屋根の下に全部門が集まっていること“のメリットとは?
クルーガー:製造施設を含む全ての部門を一つ屋根の下に置くという体制は、アイウエア業界では非常に珍しいことだが、これによりデザインと製造プロセスの完全な自主性と透明性を確保できる。また、デザイン、研究開発、製造など異なる部門間の意見交換や相互作用が生まれることは、革新的なデザインと製品のさらなる進化のカギになっている。
WWD:ベルリンに拠点を置き続けることには、特別な意味があるのか?
クルーガー:「マイキータ」を設立した2003年当時のベルリンは、DIY(Do It Yourself)のマインドセットを持ったメーカーたちの街だった。ルールはほとんどなく、ロールモデルもいなかったが、たくさんの自由と表現できるスペースがあった。そして、私たちが求めていたのは独自の決断を下し、自分たちが望むように創造するパワー。私たちには明確な美学やビジョンがあり、それを実現するために必要なステップを踏むことで、多くの人から不可能だと言われながらも独自の生産体制とノウハウを築き上げてきた。ベルリンなくして「マイキータ」を想像することはできない。あの時代のパイオニア精神は、私たちの独立心あふれる個性の一部になっている。
“目指すのは、単に他と異なるものではなく、より良いものを生み出すこと”
WWD:現代にふさわしいアイウエアを作る上で最も大切にしていることは?
クルーガー:私たちは工業デザイン的なアプローチをとり、コンセプチュアルな方法で核となるデザインを構築しているが、それは構造と素材の整合から始まる。つまり、素材の特性を素直に生かし、それに基づいて構造を作り上げていくということだ。優先するのは機能性だが、同時にあらゆる技術的なソリューションが美学に基づいたものでなければいけない。これこそが、「マイキータ」が提案するアイウエアのミニマルでありながら独自の美しさを放つユニークなデザインと雰囲気の秘訣になっている。
WWD:アイコニックなステンレススチールのシートに加え、2011年には独自素材“マイロン(Mylon)“と3Dプリンティングによるアイウエアを提案し、22年には米特殊素材メーカーのイーストマン(EASTMAN)が開発したサステナブルなアセテート“アセテートリニュー(Acetate Renew)“への完全移行をアイウエア業界で初めて発表した。アイウエアの素材や生産における革新を続けているが、先駆的な挑戦を続ける理由は?
クルーガー:私たちが注力しているのは、構造や素材、外観を進化させること。長年にわたり、常に軽さ、掛け心地の良さ、正確なフィットに重点を置き、アイウエアの分野で複数の特許を取得してきた(例えば、ネジを使用しないスクリューレスヒンジシステムなど)。一方、アイウエアの99.9%は従来の方法、つまり50〜60年あるいはそれ以上前から存在する同じ技術と材料で作られていると言える。ここ何年も革新がなかっただけだ。私たちが取り組んでいることは、デザインや革新により深く結びついている。型破りではあるが、その革新と通して常に目指しているのは、ただ単に他と異なるものではなく、より良いものを生み出すことだ。
年内にはベルリン内で本拠地マイキータハウスを移転
WWD:過去には「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」「モンクレール(MONCLER)」などさまざまなブランドとコラボレーションし、最近では「032C」や「モノクル(MONOCLE)」とのコラボアイウエアも手掛けている。協業が「マイキータ」にもたらす価値とは?
クルーガー:私たちは、コラボレーションのために、あらゆるデザイン要素や専門知識が詰まった「マイキータ」の実験的な“キッチン“の門戸を開くプロセスを楽しんでいる。そして、クリエイティブなデザインプロセスにパートナーを迎える時は、対話によってもたらされるユニークな視点を生かし、真に新しいものを生み出したいと考えている。これまでの15年間は、ファッション寄りのコラボレーションが多かったが、著名な韓国人画家パク・ソボ(Park Seo-Bo)との最新プロジェクトは、今後のより多様な方向性を示していると思う。
WWD:直近で新しい製品やシリーズのローンチする予定は?
クルーガー:最近発表したのは“チルド ロウ(Chilled Raw)“という“アセテート リニュー“素材の新コンセプト。従来の製造工程の常識を破ることにより、アセテートフレームのカテゴリーにおける斬新なルックと言えるような、切りっぱなしのエッジとマットな質感が際立つフレームを作り出した。切削の痕跡や不完全さを残す工程が生み出す独特なスタイルによって一つ一つのフレームが唯一無二になり、どのように作られたのかを物語っているのが特徴だ。まずは彫刻的かつボリュームのあるサングラスを発表したが、今では新しいデザイン要素の一つとして適した他のフレームに取り入れることができるようになった。ステンレススチールのフレームと、アセテートや“マイロン“のディテールを組み合わせたハイブリッドな構造は、「マイキータ」のデザインアプローチの大部分を占めているが、“チルド ロウ“はそんな象徴的なスタイルをさらに拡張する可能性を秘めている。もちろん、他にも新素材やエキサイティングなコラボレーションに取り組んでいるので、楽しみにしていてほしい。
WWD:ブランド設立から20年以上がたったが、次の20年を見据えた今後の展望は?
クルーガー:私たちにとっての大きなステップとして、年内に新しいマイキータハウスへの移転を控えている。新たなロケーションは、またベルリンの中心地。移転は、「マイキータ」の継続と未来を表している。私たちにとって「一貫性」とは変わらないことではなく革新を意味し、独自の生産体制とマイキータハウスを核に日々進化し続けることだ。過去5年間にわたり、私たちは基盤となる部分に多くの投資を行ってきた。最新の生産体制と社内プロセスを強化するために必要な時間をかけてきたことにより、再びいくつかの新たな計画に取り組む準備が整った。私たちのシステムの中で一貫性を保つことは、絶え間ないイノベーションによって成し遂げられると考えている。