
ビューティ賢者が
最新の業界ニュースを斬る
ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、化粧品メーカーが手掛ける新業態の店舗の話。(この記事はWWDJAPAN2024年8月19日号からの抜粋です)
弓気田みずほ ユジェット代表・美容コーディネーター
(ゆげた・みずほ)伊勢丹新宿本店化粧品バイヤーを経て独立。化粧品ブランドのショップ運営やプロモーション、顧客育成などのコンサルティングを行う。企業セミナーや講演も。メディアでは化粧品選びの指南役として幅広く活動中
賢者が選んだ注目ニュース

「麻布台ヒルズ」「ハラカド」「渋谷サクラステージ」と、東京都内ではここ数年の停滞を埋めるかのように商業施設のオープンが相次いでいる。商業施設の大きな特徴は、ウィメンズ・メンズのようなフロアごとのコンセプトを排し、あえてショップの個性をぶつけ合うかのようなフロア構成で館を回る楽しさを演出するものだ。
オンラインを飛び出した「ケイト」ワールド
新たなコンセプトを持つ商業施設の中で、ビューティカテゴリーの店舗もまた新たな挑戦をしている。7月25日、「渋谷サクラステージ」にオープンした「ケイト」のグローバル旗艦店「ケイト トーキョー 渋谷サクラステージ店」では、ブランドがこれまでオンラインで行ってきたサービス、体験を1カ所に集約している。ドラッグストアで展開してきたブランドが単独で常設店舗をつくるのは、業界でもこれまでにないことだ。コロナ禍を経て急速にオンラインコミュニケーションの可能性が広がり、セルフ市場ではメイクのシミュレーションや肌解析など、人を介さない環境で商品を手軽に試すことのできるツールが普及した。「ケイト」はマスク生活全盛時の2021年に保湿しながらマスクに付きにくいリップスティック“リップモンスター”が空前のヒットを飛ばして以来、没入体験型ECストア「ケイト ゾーン」などオンラインでの体験価値を率先して提供してきた。
「ケイト」は花王の化粧品事業の中でグローバル化に向けた戦略的投資ブランドに位置づけられており、特にアジアの若年層をファン化することが命題となっている。「渋谷サクラステージ」はイベント性の高いコンセプチュアルなテナントを多く集積しており、スタートアップ企業を想定したオフィスゾーン、サービスアパートメントを含む住居ゾーンとともにさまざまな職種・ライフスタイルを持つ人々が行き交う。この立地で「ケイト」は唯一のビューティブランドとして出店しており、まったく新しい客層にリーチを広げることになる。
メゾン コーセーが提示する新しい「売り方」
8月30日にハラカドに移転オープンする「メゾン コーセー」は、「雪肌精」「コスメデコルテ」「アディクション」など7ブランドをそろえる。これまで営業していた表参道の路面店とは異なり、新店舗では化粧品販売に伴うさまざまな課題にソリューションをもたらす工夫が見られる。時間貸しで商品を試すことができるスペースや、幅広い年齢・ジェンダーに向けた売り場設計を行うほか、美容スタッフの荷さばきなどの作業負荷を減らし、接客に集中するための環境づくりにも取り組む。
これらの直営店は、既存のチャネルではリーチできなかった層に新たな購買体験を提案し、ブランドの可能性を広げるための場所だ。将来に向けた挑戦のできるブランドにしかつくれない、ある意味で非常にぜいたくな場所と言える。
ヨドバシが池袋にはなった先兵「ヨドブルーム」
「新築物件」の一方で、百貨店の大規模改装も長いスパンで進んでいる。ヨドバシホールディングス(HD)への売却で大きく報道された西武百貨店池袋本店内にオープンした「ヨドブルーム」は、西武池袋駅の改札のすぐ近く、化粧品フロアの入り口に位置している。ヘアケアや美容家電、スキンケア、メイクアップなどいわゆる「デパコス」以外の50ブランドをそろえ、利用者は専用のアプリから予約する形で、専任のスタッフからアドバイスを受けて商品を試すことができる。予約・利用は無料だが、シャンプー&ブローやエステティシャンによるスキンケア、メイクアドバイスなど、施術を伴うメニューを利用する際は5000円以上の商品購入、もしくはSNSへのレビュー投稿が必須となる。「ヨドブルーム」を運営するのは、原宿・大宮で体験型美容テーマパーク「ティアランド」を運営するトレンドキャスケット。「ティアランド」は「タダでキレイになれる」をコンセプトにDtoCブランドを集積し、アンケート回答や商品レビューを投稿することでネイルやセルフエステ、肌測定機などを無料で提供。10代を中心にアプリユーザーを獲得し、データマーケティングに活用している。
「ヨドブルーム」は25年夏のグランドオープン後は別フロアに移設され、新規出店する「ヨドバシカメラ」旗艦店との相互送客を狙うという。改装を推し進めるヨドバシHDにとって「イケセイ」に出店すること(正しくは西武百貨店がテナントになる形だが)への反発は予想以上に大きかったはずだ。化粧品はリニューアル後も西武池袋本店の重点カテゴリーとなる。「ヨドブルーム」はヨドバシカメラにとって、どんなデータをもたらしてくれるだろうか。