PROFILE: ザ・ラスト・ディナー・パーティー(The Last Dinner Party)
話題のバンドが相次いで登場している最近のイギリスのロック・シーン。中でも異彩を放っているのが、2021年に結成されたロンドンの5人組、ザ・ラスト・ディナー・パーティー(The Last Dinner Party。以下TLDP)だ。ヴィクトリア朝時代やルネサンス風の衣装が目を引く、バロック的な感性とモダンなテイストをミックスしたシアトリカルなルック。そして、ニューウエーヴやグラム、ハードロック、オペラなど多彩な要素を取り入れ、ストリングスやホーンが細部まで飾り立てる華やかでハイブリッドなサウンド。そんな彼女たちが重要なテーマとして掲げているのが、「Maximalism(過剰主義、最大主義)」――いわく「やりたいことは、全部やる」という哲学。その言葉どおり、ビジュアル的にも音楽的にも創造性あふれるスタイリッシュな美学に貫かれた彼女たちのクリエーションは今、世界中を熱狂させている。
デビュー前からローリング・ストーンズのツアーでオープニング・アクトを務めるなど大舞台を経験してきたTLDPは、この春に待望のファースト・アルバム「Prelude to Ecstasy」をリリース。多くの賞賛を集める中、イギリス/アイルランドを代表する音楽賞の一つ、マーキュリー・プライズが先ごろ発表した今年度のノミネーションにもチャーリーXCXやニア・アーカイヴスの新作と並んで同作は選ばれるなど、彼女たちを取り巻く勢いは高まりを見せ続けている。そのサウンドとファッションをつなぐ創作のインスピレーション、背景にあるアートやカルチャーの影響について、「フジロック」に出演のため初来日したTLDPのジョージア(ベース)とリジー(ギター)に話を聞いた。
——デビュー・アルバムの「Prelude to Ecstasy」に入っていない曲で、「Godzilla」って仮タイトル?の曲を最近のライブでやってますよね。まさかTLDPから怪獣映画の名前が出てくるなんて、と驚いたんですが。
ジョージア:実はあの曲では、実際にオリジナルのゴジラの映画のサンプリングを使っていて。ただ、コピーライトの問題でいろいろあって(笑)、正式な曲名がつけられなかったんです。なんて言ったらいいんだろう?……すごくクレイジーな曲というか、だってゴジラでしょ? 巨大な怪獣だから(笑)。
——TLDPのテイストには「ゴシック」という要素があると思いますが、もしかして日本の特撮映画も好きだったりするのかな?と。
ジョージア:(笑)実は、日本の映画、特にホラー映画が大好きなんです。「HOUSE ハウス」とか、「リング」みたいな(と、うつむいて手を伸ばして、TVからはい出してくる貞子のマネをする)。
——(笑)。TLDPのクリエーションにはさまざまなアートやカルチャーのリファレンスが散りばめられていますが、2人の感性に引っかかる日本のアートやカルチャーってありますか。
ジョージア:日本には素晴らしい文学作品がたくさんあって、カズオ・イシグロは大好きな作家の一人です。それに、(日本語で)ニホンノオンガクガスキデス(笑)。おとぼけビ〜バ〜は最高。あと、羊文学っていうロック・バンドも好きです。
リジー:私はジャズが大好きで、だから日本のニュー・ジャズ、ビッグ・バンド・ジャズに興味があるかな。
——ちなみに、今回の来日で楽しみにしていたことって何かありますか。
ジョージア:ショッピングかな。街を歩くのも楽しみだし……この暑さだと大変そうだけど(笑)。それと、日本の食べ物は本当においしいから楽しみ!
リジー:でも、やっぱりライブかな。「フジロック」はもちろん、今夜のショーも楽しみ!
TLDPのマニフェスト
——TLDPを結成するに当たって、ジョージアさんはアビゲイル(・モリス)さんと2人で、自分たちのビジョンを詳細に記したマニフェストのようなものを書いたそうですね。
ジョージア:はい。バンドをやろうって思った時から、「バンドとして何を表現したいのか?」についていろいろと考えていたんです。パブでワインを飲みながら、お互いのアイデアを大声で言い合ったりして(笑)。それで2人でノートを買って、思いつくままに書き留めるようになったんです。自分たちが好きな響きの言葉とか、「白昼夢を想像させるようなバンドをやるとしたら、どんなサウンドやビジュアルだろう?」、「何を象徴するバンドにしたいのか?」とか。まあでも、その時は酔っ払っていて、実現不可能なアイデアもたくさんあったけど(笑)、でもあのノートがTLDPの原点になったのは間違いない。あれは運命的な夜だったと思うし、あの時、私たちは2人で、自分たちの音楽の未来を描いたんです。
——実際に活動していく中で、当初のマニフェストは変化していった?
ジョージア:そうですね。ただ、最初のアイデアが重要なんです。そこから時間を重ねて、いろんなものに触れる中で、私たちはバンドとして成長してきたと思う。たくさんの音楽やカルチャーにインスピレーションを受けてきたし、身の回りのもの全てが創造性を刺激してくれるアイデアの宝庫なんです。だから私たちは常に変化し続けているし、これからもそうあり続けると思います。
——ちなみに、そのマニフェストには具体的にはどんなワード、サウンドやビジュアルについてのアイデアが書かれていたんですか。
リジー:「Decadence(退廃)」、「Grotesque(異様な)」、「Extravagance(贅沢)」、「Theatrical(演劇的)」とか、そういう言葉がたくさん並んでいたよね。
ジョージア:そう、あとは「Ecstatic(恍惚的)、「Feral(獰猛)」、「Chaotic(混沌)」、「多幸感(Euphoric)に包まれた状態」……とか(笑)。サウンドについては、弦楽器にギター・ソロをつけてドラマチックにしたい、とかね。ビジュアルも音楽も、「Maximalism(過剰主義)」という言葉がぴったりだと思う。それって、“自分の持っているもの全てをさらけ出す”ということだから。ありとあらゆるものを詰め込んで、とにかく派手にしたい。アンチ・ミニマリズムだね(笑)。
——その「Maximalism」というコンセプトについて、もう少しかみ砕いて説明することはできますか。
ジョージア:つまり、“躊躇なく、やりたいことを全部やる”という哲学だと思う。音楽でもファッションでも何でもそうだけど、多くのものはどこか控えめで、クールぶっていて、何も気にしていないように見せかけているものであふれていると思う。でも本当は違うでしょ? 実際には周りの目や評価を意識したり、すごくいろんなことに気を使っている。だから私たちの「Maximalism」は、そんなの全部無視して、自分の感情に正直になるってことだと思う。音楽だって、やりたいことを全部詰め込む。自分を抑制しない。「これってやり過ぎかな?」とか、「ここでトランペットを吹くのはトゥーマッチかな?」とか、「ボールガウンを着て演奏するのってどうなの?」とか、そういう不安や疑念を持たないで、やりたいことは全部やる。だって、私たちは「やり過ぎ」こそが最高だって信じているから。自分の中にあるものを全て表現する――それが「Maximalism」なんです(笑)。
理想のアーティストは?
——素晴らしい(笑)。そうした「Maximalism」の観点から、2人にとって理想のアーティストを挙げるなら、誰になりますか。
ジョージア:フローレンス・アンド・ザ・マシーン。彼女は自分の音楽とスタイルに忠実で、とても尊敬している。あとは、クイーンやデヴィッド・ボウイのような歴史上の偉大なアーティストにも引かれます。
リジー:ビヨンセやレディー・ガガも最高だよね。音楽だけでなく、ビジュアルやパフォーマンスも含めて一つの壮大な作品を作り上げているのが本当に素晴らしいと思う。そうして“世界”全体を創造するのが好きな人たちこそが、私たちにインスピレーションを与えてくれる存在なんだと思う。彼女たちも「Maximalism」の実践者で、つまり「Maximalist」って言えるんじゃないかな。
——ちなみに、ボウイだといつの時代が好きですか。
ジョージア:「Ziggy Stardust」は私にとって永遠のナンバーワン、常に一番好きなアルバムです。あれが1970年代に作られたレコードだなんて、とても正気の沙汰とは思えない(笑)。あれは時代を先取りしている、とても現代的なレコードだから。あの時代にロンドンのハマースミス・アポロで行われた「Ziggy Stardust」のライブ・ビデオがあって、本当に素晴らしいパフォーマンスだった。今でも見返すことがあって、見るたびに感動するし、とてもインスパイアされます。
——TLDPの「Prelude To Ecstasy」をボウイのディスコグラフィーに例えるなら?
ジョージア:「Ziggy Stardust」だと思う。どっちも「Theatrical」だし、世界の終わりみたいなことを歌ってるから(笑)。
リジー:奇妙なスペースマンみたいにね(笑)。
——個人的には、TLDPが作る「Low」みたいなアルバムも聴いてみたいな、って。
ジョージア:想像つかない(笑)。でも、ベルリン三部作も大好きだし、「Blackstar(★)」も大好きです。というか、どの時代のボウイも素晴らしいと思う。
影響を受けたアートやカルチャー
——「Nothing Matters」のMVでは、ソフィア・コッポラの「ヴァージン・スーサイズ」やペトラ・コリンズの映像作品にインスピレーションを得たビジュアルが話題を集めました。
ジョージア:(ソフィア・コッポラもペトラ・コリンズも)ビジュアルの美学や哲学が明確で、ユニークで、本当にクールだと思う。
——音楽以外のところで、2人がどんなアートやカルチャーにインスピレーションを受けてきたのか、ぜひ知りたいです。
リジー:私の場合、興味のあるものが常に変化していて、その振れ幅がとても大きい(笑)。その時々のフレーバーみたいなものがあって、例えば今はジャズにハマっていて、特にインプロヴィゼーションが大好き。ライブにもよく行くし、私にとってジャズを聴くこと、ジャズの生命エネルギーを感じることは人生のマスタークラス(特別授業)みたいなところがあると思う。
ジョージア:大学で英文学を専攻していたので、その時々に読んでいる本から常にインスピレーションを受けてきました。特に19世紀のヴィクトリア朝文学が大好きで、でも、もうほとんど読んでしまっていて(笑)。なので今は、新たなジャンルを開拓しているところなんです。最近読んだ本だと、メキシコ人の作家のフェルナンダ・メルチョールが書いた「Hurricane Season(ハリケーンの季節)」という本が素晴らしくて。町の外れに追放された魔女の話で、とても面白かった。最近はもっと現代文学を読むようにしているんです。
リジー:ああ、私って全然本を読まないからなあ(笑)。
——音楽以外のところで、最近気になっているクリエイターがいたら教えてください。
リジー:ケイ・テンペストが大好き。彼女はミュージシャンだけど、何より詩人、物書きとして素晴らしくて。彼女の文体――詩を織り交ぜた散文のようなスタイルで、文章を形成する方法も抽象的で、とても引かれる。彼女が次に何をするのか楽しみだし、彼女が書いたものを早く読んでみたいなって。
ジョージア:ロンドンには若くて才能あふれるファッション・デザイナーがたくさんいて、最近だとダブリン出身のOran O'Reillyとコラボレーションしました。彼はチャペル・ローンの衣装も担当していて、彼が作ったドレスは素晴らしかったな。とてもクールで。
リジー:見た見た。最高だったよね!
——ほかに、日本のファンに紹介したいオススメのファッション・ブランドはありますか。
ジョージア:そうだな……「Rabbit Baby」というブランドは日本のファンもきっと気に入ると思う。
リジー:最高!
ジョージア:私たちも一緒に仕事をしたことのあるイギリス人のデザイナーのブランドで、美しい白いドレスや小物がすてきなんです。手先が器用で、どれも繊細な作りで、手編みの小さなウサギのモチーフが特に素晴らしい。大好きなブランドで、だから日本のファンも「Rabbit Baby」をサポートしてくれたらうれしいな。
——TLDPがまとうファッションからは、年代やカルチャー、ジェンダーの異なる表現をミックスして楽しむ実験精神が伝わってきます。2人が個人的に好きなファッションのテイストはどういったものですか。
ジョージア:私は“実験する”のが大好きなんです。ステージで大きなスーツを着るのも好きだし、中世風の小さなプリント柄の衣装を着るのも好き。インターネットでいつもいろんなものをチェックしているし、そこからインスピレーションを受けるのが楽しいんです。
リジー:着こなしをマネするのはタダだしね(笑)。個人的には、サイバーでフューチャリスティックなファッションが好きで。だから3枚目のアルバムはSFみたいな感じになっているかも(笑)。
ジョージア:最高(笑)。スチームパンクみたいな感じとかいいかもね。
——TLDPのライブは「ドレスコード」があることで知られています。“グリム兄弟”や、“フォーク・ホラー”といったテーマで……ただ、それはけっして強制的なものではないそうですが、ファンにとってTLDPのライブはどんな場所であってほしい、という思いがありますか。
ジョージア:メンバーみんなで何度も話し合ってきたことだけど、私たちのショーはいつだって最高のものにしたいと思っている。来てくれるファンには、歌でも何でも楽しんでもらいたいし、だから私たちは常に最高のパフォーマンスを心掛けています。でも同時に、ライブがファンにとってセーフスペースであってほしいと思っていて。そこでは何にも躊躇せず、思いっ切りファッションを楽しめる場所だって感じてほしいんです。
リジー:特に女の子にとってはね。
ジョージア: ほんとそう。だから時々、ライブ前に会場の外で最高にドレスアップしたファンが並んでいるのをこっそり見るのが、私たちにとって最高の楽しみなんです。
リジー:みんな、私たちよりオシャレだよね(笑)。
ジョージア:そうそう。私たちのライブがファンにとって安全で、自分のことが受け入れられていると感じられる場所にしたいんです。みんなにとって居心地のいい場所であってほしい。もしかしたら、普段の生活、学校や家族の前では自分の個性を出しづらいと感じている人もいるかもしれないけど、でもここではみんなと一緒に「Maximalism」――つまり、最大限に自分を表現することを楽しんでほしいなって。みんながそれぞれの個性を輝かせて、自分だけのスタイルを確立できるような、そんな場所でありたいと思ってます。
PHOTOS:TAKAHIRO OTSUJI
■デビュー・アルバム「Prelude to Ecstasy」
1. Prelude to Ecstasy/プレリュード・トゥ・エクスタシー
2. Burn Alive/バーン・アライヴ
3. Caeser on a TV Screen/シーザー・オン・ア・ティーヴィー・スクリーン
4. The Feminine Urge/ザ・フェミニン・アージ
5. On Your Side/オン・ユア・サイド
6. Beautiful Boy/ビューティフル・ボーイズ
7. Gjuha/ジュア
8. Sinner/シナー
9. My Lady of Mercy/マイ・レディー・オブ・マーシー
10. Portrait of a Dead Girl/ポートレイト・オブ・ア・デッド・ガール 11. Nothing Matters/ナッシング・マターズ
12. Mirror/ミラー
13. Nothing Matters (Acoustic)/ナッシング・マターズ (アコースティック)
※国内盤ボーナストラック