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「フジロック」で初来日 ロック・デュオFrikoが語る「多様な音楽ルーツ」と「シカゴのコミュニティー」

アメリカのシカゴでは近年、新しい世代によるロック・シーンが活気を見せている。10代や20代の若者たちが主催する手作りのショーが盛んに行われ、ZINEやビジュアル・アートなど音楽以外のさまざまなカルチャーを巻き込むかたちでクリエイティブな活動が称揚されている。そのホームグラウンドになっているのが、「Hallogallo」というプロジェクト/コミュニティー。そして、その「Hallogallo」を代表する1組が、今回「フジロック」で初来日を飾った、ボーカリスト/ギタリストのニコ・カペタン(Niko Kapetan)とドラマーのベイリー・ミンゼンバーガー(Bailey Minzenberger)によるデュオ、フリコ(Friko)だ。ニコ・カペタンが語る。「僕たちの周りでは、音楽とアートがお互いに影響し合っていて、みんなフラットにつながっている。シカゴって、そういうコラボレーションが旺盛なところなんだ」。

今年2月にリリースしたデビュー・アルバム「Where we've been, Where we go from here」が多くのメディアで賞賛を得て、また日本でもApple Musicの総合チャートで最高10位を記録するなど、一躍“時のアーティスト”になった感もあるフリコ。今や北米インディー・ロックのブライテスト・ホープとして期待を集める2人に、深い造詣と愛情に満ちた音楽観、シカゴのコミュニティー、そしてファッションやソーイングなど身の回りのアートを通じたDIYの哲学について初来日したタイミングで話を聞いた。

ザ・キュアーとエリオット・スミスからの影響

——デビュー・アルバムがリリースされてこの半年間は、目まぐるしい時間の流れだったと思いますが、振り返ってどうですか。

ニコ・カペタン(以下、ニコ):最高だったよ。あっという間に時間が過ぎちゃったけど、いろんなところをツアーして、たくさんライブできたしね。新しい曲もたくさん書くことができた。僕らの音楽をみんながこんなに喜んでくれて、本当にうれしいよ。特に日本は、ずっと来たかった国だったし、「フジロック」で演奏できるなんて夢みたいだよ。

——日本でライブをやるのは特別なことだったんですね。

ニコ:うん、夢がかなったなんてレベルじゃなくて、もはやシュールというか(笑)。だって、まさかこんなことになるとは思ってなかったから。アメリカの中西部を回るんじゃなくて、世界中をツアーすることになるなんてね。だから(明後日の「フジロック」のステージのことで)今から緊張しているんだ(笑)。

——そういえば、最近のライブではザ・キュアーの「In Between Days」のカバーをやってますね。あの曲って、恋人との修羅場を歌ったような曲だけど——。

ニコ:大好きな曲なんだ(笑)。2人とも大好き。たぶん、キュアーで一番好きな曲かもしれない。あの曲って、いつごろの曲なんだろう? そういえば去年、シカゴの「Riot Fest」でキュアーのライブを観たんだ。彼らのサウンドは今でも全然色あせてなくて、とても素晴らしかった。そして、彼らがどれだけたくさんのヒット曲を持ってるかってあらためて気付かされたよ(笑)。スミス VS ザ・キュアー――なんて言ったら怒られるかもしれないけど、僕にとってはキュアーが圧倒的に上なんだ。一日中、彼らの音楽に浸っていたいくらい。心が満たされるというか、キュアーの音楽には僕にとって特別な何かがあるんだ。それに、ロバート・スミスはモリッシーよりずっといい人だと思うし(笑)。

ベイリー・ミンゼンバーガー(以下、ベイリー):私自身は正直、キュアーのことはそんなに詳しくなくて。だから、キュアーのことはほとんどニコに教えてもらったようなもので、彼が勧めてくる曲を聴いていたら全部好きになっちゃった、って感じかな。

——ニコにとって、キュアーの魅力、ロバート・スミスというソングライターの魅力はどんなところですか。

ニコ:どの曲も本当にいい曲だよね。とてもドラマチックで、エモーショナルなメロディーがたまらない。でもそれだけじゃなくて、ロバート・スミスはとても正直な人で、どの曲も自分の言葉で心の奥底から歌っているというのが伝わってくる。それが曲として機能しているというか。彼はとてもユニークな人で、音楽もファッションも全てがクールだった。父が家でよくレコードをかけていて、それで僕も自然とキュアーが好きになったんだと思う。

——カバーといえばもう1曲、エリオット・スミスの「Ballad of Big Nothing」も最近のライブでやられていて。ドラッグを手放せない薬物中毒者の人生を辛らつに綴った曲で、個人的にはジュリアン・ベイカーのカバーも印象深い一曲なんですけど。

ニコ:実は正直いうと、この曲を初めて聴いた時は、歌詞のことは全く気にしてなかったんだ。メロディーに完全にやられてしまって。ただ、あの曲はエリオット・スミスの曲の中で最初に衝撃を受けた曲の1つだった。まさに“凝縮されたポップ・ソング”で、ヴァースとコーラスが繰り返されるシンプルな構成なのに、奥深くて、ものすごい中毒性があった。エリオット・スミスの曲は歌詞が暗いものが多かったけど、この曲をカバーするときは、歌詞のことよりも曲全体の雰囲気を大切にしたいって思ったんだ。

ベイリー:メロディーが素晴らしいよね。本当に美しい曲。それに、この曲をフルバンドで演奏すると、音が立体的に膨らんで、音楽のエネルギーが感じられる。演奏していてとても楽しいんです。

——フリコにとって、エリオット・スミスはキーと言えるアーティストですよね?

ニコ:そう感じてもらえているんだったらうれしいよ。だって僕自身、エリオット・スミスは大好きなアーティストの1人だからね。エリオット・スミスは、ハッピーなサウンドにヘビーな歌詞を乗せるのが得意なアーティストだった。明るい感じの曲調なのに、歌詞が心の奥底をえぐるような感じで。僕はビートルズが大好きだった少年で、でも大人になるにつれてビートルズだけでは物足りなくなり、 もっと心の奥底にある複雑な感情を表現した音楽が欲しくなった。エリオット・スミスは、ビートルズのポップな要素と、自分の内面の闇を融合させたような音楽を作っていて、とてもユニークだったし、そこにすごく惹かれたんだ。

デビューアルバムをリリースして

——デビューアルバムについて、リリースから時間がたってみて気付いたことや、理解が深まったようなことはありますか。

ベイリー:実は今、演奏の仕方をあらためて見直しているところで。去年も今年もライブずくめだから、体力的な面も考えなきゃいけないなと思っています。去年はライブ中に手が痛くなって、ドラムスティックの持ち方がどんどん変わってしまって。最初はリラックスして持っていたのに、最後の方は限界になって、(スティックを)落とさないことだけを考えて力任せに握っている、というようなことがあって。だから最近は、健康的な方法でプレーすることを考えて、体のケアを怠らないようにしています。そうしたら、音楽表現の幅が広がったというか、テクニックに縛られずに曲の中で遊べるようになって、演奏の仕方もいろいろ試せるようになって。もっと自由に音楽と向き合えるようになったし、それに気付けたのは大きなことでした。

ニコ:僕はいつもステージに立つと、つい力みすぎちゃうんだ。特にボーカルは無理に声を出そうとしてしまって。声帯に負担をかけることになるし、そうすると音も硬くなってしまう。だから、歌い方にもっとニュアンスを出したいって思っている。ただ叫び続けるんじゃなくて、もっと繊細な表現を心がけたいなって。

ベイリー:あと、歌詞の捉え方が、ライブを重ねるごとに深まったような気がする。同じ曲を何度も演奏するから、自分自身でもじっくり聴く機会が増えて。そうすると、同じ歌詞でも毎回違う部分に共感したり、毎回違う感情が湧き上がってくるようになった。曲全体を意識して聴くことで、新たな発見があったり、より深い理解が得られるようになった気がする。

ニコ:毎回違うといえば、ベイリーのドラムも毎回聴くたびに新しい発見がある。本当にクレイジーだよ。どうやって出してるんだろう?って(笑)。あの独特のグルーブ感は、彼女の個性そのものだと思う。「フジロック」で新曲を演奏するんだけど、どんな新しいドラム・パターンを披露してくれるのか、今からワクワクする。ライブで聴いたら最高にエキサイティングだと思うよ。

——そういえば、デビューアルバムに影響を与えたアーティストとして、フィリップ・グラスを挙げていましたね。フィリップ・グラスの音楽のどんなところに魅力を感じますか。

ニコ:彼は間違いなく、ロックやオルタナティブ・ミュージックに最も影響を与えたクラシックの作曲家の1人だと思う。彼は1970年代からニューヨークのロック・シーンに関わっていたしね。アフリカのリズムを取り入れたポリリズムや、不協和音の多用といった斬新な手法を取り入れることで、当時のクラシック音楽の常識を覆すような音楽を彼は作っていた。リズムとメロディーを自由に組み合わせて、全く新しい音楽を生み出すアプローチは、他のジャンルのミュージシャンにも影響を与えて、音楽全体を大きく変えたと思う。常にヒップで、大衆的なペルソナを持ちながら、それでいて本格的なクラシック音楽を作曲していたところが、彼の魅力だったんじゃないかな。

ベイリー:彼の音楽の「反復」の使い方は、本当に興味深いなって思う。2人でよく話しているんだけど、最近はもっと長時間じっくりと聴けるような、深みのある音楽を探求してみたいと思っていて——ただ、聴いている方が退屈に感じてしまうんじゃないか、って不安もあるんだけど。でも、フィリップ・グラスの音楽って、聴くたびに新しい発見があって、飽きるどころか、まるで曼荼羅を見つめるように奥深くて瞑想的な空間に引き込まれていくような感覚がある。あれって本当にすごいし、クールだと思う。

ニコ:大学生だった時に「Glass works」(81年)をよく聴いていたんだ。大学には1年しか通わなかったけど、あの1年間は僕にとってとても強烈で、思い出深い1年だったんだ。だから、あのレコードを聴くと今でもエモーショナルになってしまうんだよね。

——フリコと現代音楽やミニマル・ミュージックって、一見するとすぐには結びつかない印象がありますけど……。

ニコ:次のアルバムでは、そうした音楽からの影響をもっと詰め込みたいと思ってる。でも確かに、1枚目のアルバムはミニマルじゃないよね(笑)。というのも、それは僕自身の音楽的なルーツと大きく関係していて。僕は高校生のころからデヴィッド・ボウイに夢中で、彼が全てだったから。だから1枚目のレコードには、さまざまな種類のサウンドが詰まっていて、あらゆる感情のスペクトラムを音楽で表現したかったんだ。ストレートなパンク・バンドであり、シンガー・ソングライターであるような、自由に何でもやりたかった。立ち止まって考えるんじゃなくて、とにかく前に進んでいく。それが僕らのスタイルなんだ。それってつまり、僕らがどうやって物事に対して向き合い、何を選択して、どう生きていくか、ということの表れでもあると思うんだ。

ベイリー:いずれはアンビエントやインストゥルメンタルのアルバムを作ってみたい。それは、私たちが音楽を通じて表現したいもう1つの側面であり、探求したい新たな領域だから。実はアンビエント・ミュージックの制作にトライしてみたことがあって、いつか本格的なアルバムとして完成させたいと思っているんです。

音楽を聴くきっかけのアーティスト

——英米のインディー・ロックから、ビートルズやボウイのようなレジェンド、さらには今話してくれたクラシックやミニマル・ミュージックまで、さまざまな音楽から影響を受けてきたことを公言している2人ですが、中でも自分が意識的に音楽を聴くようになるきっかけとなったアーティストは誰になりますか。

ベイリー:私が楽器を始めたころ、一番最初にハマったのがパラモアとミーウィズアウトユーだった。でも、もっと大きくなってからハイエイタス・カイヨーテに出会って、音楽の世界観がガラリと変わった。特にドラムを叩くようになって、彼らの音楽を自分の手で表現したくてしょうがなかった。まだ勉強中だったから全然うまくなかったけど、ハイエイタス・カイヨーテの曲を聴きながらドラムを練習した日々は楽しかったな。

——ちなみに、パラモアはどんなところに惹かれたんですか。

ベイリー:感覚的なものだったと思う。初めて聴いた時、とにかくその音楽に強く惹かれて。それに当時、ポップ・パンク・シーンで女性がフロントマンを務めるバンドはそれほど一般的ではなかった。彼女たちはキャリアを通じて今に至るまで、常に自分の音楽を貫いていて、自分たちが「正しい」と思うことをやってきた。女性がフロントマンを務めるロック・バンドというのは本当にインスピレーションになったし、すごく勇気をもらえました。

それに、彼女(ヘイリー・ウィリアムス)はとても若かった。パラモアが最初のレコードを発表した時、彼女はまだ15歳か16歳だったと思う。そんな若いのに、あんなに力強く、エモーショナルな音楽を作り出すことができるなんて本当にすごいなって衝撃を受けて。私が初めてパラモアを聴いたのは、確か9歳か10歳の時で、年齢も近かったし、それが彼女たちに共感できた理由でもあったと思う。彼女たちは、若くして自分の夢を追い求め、音楽を通じて自分たちの声を力強く発信していた。すごく刺激的だったし、そんな彼女たちの姿を見て、私も音楽をやりたいって思ったんです。

——パラモアといえば特にヘイリー・ウィリアムスは、自分たちがいるパンク/エモのコミュニティーが、ジェンダーや肌の色の違いを超えて、誰にとっても開かれたセーフ・プレイスになるようアクションを起こしてきたことでも知られています。そうしたオピニオン・リーダー的な部分も、彼女に共感を寄せる理由としてありますか。

ベイリー:うん。コミュニティーを作り上げていく上で重要なのは、誰もが安全だと感じられる場所にすることだと思う。そして、安全な空間を作るためにどうすればいいのかを、みんなと話し合うことが大切。だから、その価値観に共感してくれる人に来てほしい。音楽って、感情を揺さぶるものだから、みんなが安全に楽しめるように、その意義や目的をはっきりと伝えることがとても大事だと思う。フリコのショーも、そんな場所であってほしいし、みんなが安心して楽しめて、お互いを助け合えるような空気を作りたいと思っています。

——ところで、ニコがアンビエント・ミュージックを聴くようになったきっかけって、何だったんですか。

ニコ:どうだったかな? 高校生のころ、友達と小さなグループを作って、好きな音楽をシェアしてたんだ。そこで聴いたブライアン・イーノが、僕らをアンビエント・ミュージックの世界に連れていってくれた感じかな。彼はその手の音楽のパイオニアみたいな存在だったしね。子供の頃に好きだった音楽とは全然違って、すごく静かで落ち着く感じに惹かれたんだ。独特なハーモニーが感じられて、音色もとても美しくて。

そして、最高のアンビエント・ミュージックの90%は、日本のアンビエント・アーティストによるものだと思う。最近もコンピレーション盤みたいなのをよく聴いているよ。タイトルは「カンキョーオンガク(Kankyō Ongaku:Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990)」だったかな。あのレコードが大好きなんだ。あの独特な雰囲気は、言葉では言い表せない。自然の音や環境音を巧みに取り入れていて、まるで風景画を見ているような感覚になるというか。その手の音楽は中学生のころから聴き込んでいて、久石譲や坂本龍一とか、そういう系統のものを夢中になって聴いていたんだ。フィリップ・グラスと同じような流れでね。そうした日本の音楽にも、似たような静けさを感じるんだ。メロディーとハーモニーが絶妙に組み合わさっていて、音色も素晴らしい。とてもクールで、モダンなクラシック音楽だよね。それに心が落ち着くから、高校のころは勉強する時によく聴いてたよ(笑)。集中できるしね。

——インディー・ロックが盛り上がっている今のシカゴのDIYシーンでは、音楽と音楽以外のアートが密接につながっていて、それがシーンの大きな原動力になっていると聞きました。

ニコ:そうだね。特にビジュアル・アートとの結びつきが強いと思う。若いアーティストが多いのも特徴的だよね。そこはもしかしたら、世代間の違いなのかもしれない。実際、僕たちの周りにはビジュアル・アートが好きな友人がたくさんいて、お互いに影響し合っている感じなんだ。音楽をやってる人はアートに興味を持つし、アートをやってる人は音楽が必要になる。ミュージックビデオの撮影を頼まれたりもする。「Hallogallo」が象徴的だけど、そんな感じでみんなつながっているんだ。シカゴはみんながフラットで、肩の力が入ってないというか。ロサンゼルスみたいに派手なところだと、どうしてもギラギラした雰囲気になっちゃうけど(笑)、シカゴはそんなことないよね。

ベイリー:シカゴの人ってみんな、一緒に何かがしたいって気持ちが強いんです。ステージの上だろうが、地下室だろうが、レコーディング中だろうが関係なく、とにかく一緒に音楽を作りたい。だからシカゴでは、友達が街に遊びに来ると、すぐにスタジオに集まってセッションしたりする。その場で曲を覚えて、即興で曲を演奏したり、ライブ中にゲストを呼んで一緒に演奏したり。だから今度出るNewport Folk Festivalでも、オースティンの友人をステージに呼んで、一緒にペダルスティールを弾いてもらう予定なんです。シカゴには、例えばV.V. Lightbodyみたいなマルチな才能を持った人がたくさんいる。彼女はソングライターなんだけど、フルートもすごく上手で。だからいろんなセッションに参加して、みんなと一緒に音楽を楽しんでる。シカゴって、そういうことが日常的に起こっている場所なんです。

裁縫と音楽

——ちなみに、2人は音楽以外に打ち込んでいるアートって何かありますか。

ベイリー:最近は裁縫にハマってて。キルトとかエプロンとか作ってる。あと、木を削ったり絵を描いたりするのも好き。それに妹が陶芸家で、シカゴに陶芸スタジオを持っていて。彼女の陶芸教室で教えてもらって、ろくろを回したりしたこともあります。自分で作った作品でご飯を食べたり、飲んだりできるってすごいことだと思う。実用的なアートって面白いし、自分でデザインしたものが形になるってとてもうれしい。音楽って、録音しないと形に残らないけど、アート作品は形として残るから、また違う楽しみがある。何かを想像して、それを自分の手で形にする――それがすごく楽しいんです。

ニコ:家に帰ったら、音楽以外のことにもっと時間を使いたいなって思ってるんだ。僕はいつも音楽のことばかりだから。それに、僕らマーチャンダイズはいつも友達と一緒に作っていて。だからコラボするのが好きなんだよね。僕は絵を描くのが得意じゃないから、ベイリーみたいに、何かを作るための根気がないのかも(笑)。裁縫とか、すごいなって思う。

ベイリー:楽しいからやった方がいいよ。それに裁縫って、音楽と意外な共通点があることに気付いたり。例えば、キルト作りで最初に苦労したのは、パターンを考えたり、布を裁断したりする準備段階だった。いざ縫い始めると、あとはひたすら縫うだけだから、その前の準備の大切さを実感した。それって、音楽で曲を作るのも一緒だと思う。レコーディングに入る前にしっかり曲の構成を考えたり、アレンジを練ったりすることが大切。裁縫も音楽も、完成させるためには、忍耐強さや全体を見通す力が求められると思う。

——そういえば、7インチの「Crimson to Chrome」のアートワークに飾られている靴の刺しゅうって、ベイリーの作品?

ベイリー:いや、あれはニコのパートナーが刺しゅうしたもので。

ニコ:実は今回、彼女も今日本に来ていて。彼女が刺しゅうしたんだ。

——あの、爪先に星の模様が入った靴は、何がモチーフになっているんですか。

ニコ:あれは、昔いつもステージで履いていた靴なんだ。今はもう履いていないんだけどね。あの曲は歌詞に靴が出てくるし、ライブでも靴を踏みつけたりするパフォーマンスをしたこともあって。だからあの靴をアートワークに使うのがしっくりくると思ったんだよね。あの靴は僕にとって特別な一足なんだ。

ベイリー:マーカーで星を描いたピンクのドレスシューズだよね? あれ、カッコよかったな。6足くらい買ってなかった?

ニコ:あの靴、気に入ってるからたくさん持ってるんだ(笑)。またステージで履くつもりだから、大事に保管してるんだよ。

——その「Crimson to Chrome」しかり、デビュー・アルバムのアートワークもそうですが、ハンドメイド的な温かみって、フリコの音楽とも重なる感覚だなって思っていて。

ニコ:そうそう、僕らはああいうアートワークが大好きなんだ。ホースガールとか、僕らがシカゴでよく一緒に演奏しているバンドの作品のアートワークを、友人のイーライ・シュミット(Eli Schmitt)がたくさん手がけていて。彼が、ヘムロック(hemlock)というバンドをやっている友人のキャロライナ・シャーフ(Carolina Chauffe)とコラボして、あのアルバムのジャケットを作ったんだ。あのジャケットに使った画像は、もともと「National Geographic」みたいな雑誌に載っていた鎖の写真だったんだけど、著作権の関係で使えなくてね。それで、イーライがオリジナルのデザインに作り替えてくれたんだ。

ファッションについて

——裁縫や靴の話題が出ましたが、関連してファッションのこだわりがあったら教えてください。

ニコ:何だろう? 自分に合ったスタイルでいたい、ってことかな。自分が今いる場所で心地よく過ごしたい、というか。例えば、僕はステージ衣装にこだわりがあるから、音楽の雰囲気を損なわないように、自分にとってしっくりくるものを選んでる。でも、ベイリーみたいにカジュアルな格好もカッコいいと思うし。それに明日、日本のデニムを買いに行くんだよね。楽しみだな。

ベイリー:私たちは高価なブランド服とかよりも、自分が気に入ったものを着る方が好き。個人的には古着屋で買った服が多いかな。最近、シャツの袖をカットして着てるんだけど、すごく楽で気に入ってる。いちいち袖をまくるのが嫌になっちゃって(笑)。ちなみに、今履いているパンツはシカゴのユニクロで買ったものなんだけど、体にフィットしたパンツを履くと本当に快適で。服って、その人の個性を出すためのツールだと思うし、自分とのつながりを感じられるものなら何だっていい。

自分に似合う服を着ると、自信が持てるし、気分も上がる。それに髪型だってそう。髪を短くしたら、顔周りがすっきりして、新しい自分になった気がした。ネックレスやイヤリングもそうだし、ひとつのジュエリーが洋服を引き締めるってとても素敵なことだと思う。服って、日々変化していくものだから、そこがファッションの面白いところだと思う。

ニコ:一度気に入った服を見つけると、それをずっと着てることが多いかな。昔、リーバイスの店員に勧められたベルボトムみたいな形のジーンズがあるんだけど、もうほかのジーンズは履けないくらい気に入ってる。同じ形のものを2本買って、ヘビロテしてるよ。自分に合う服って、それを見つけるのが難しいから、一度見つけたら大切に着たいって思うんだ。それにファッションって、音楽とかエンターテインメントの世界と似てる部分があると思うんだ。深く追求すればするほど、新しい発見があるし、思わぬ出会いもある。普段出会えないような人ともつながれるかもしれない。ファッションを通して、もっといろんな人と知り合いたいよね。

——ちなみに、ベイリーは服を作ったりはしないんですか。

ベイリー:実は最近、服作りに興味があっていろいろ試してるんだけど、まだ外に着ていけるようなものはできてなくて。服って、毛布みたいにただ体にかぶせるだけじゃなくて、動いたりする体にフィットさせなきゃいけないから、思った以上に難しい。

ニコ:でも、今着てるの、すごくいいじゃん。

ベイリー:ありがとう(笑)。でも、まだまだかな。もっと研究したいんだけど、なかなかうまくいかないんだよね。

ニコ:じゃあ、自分のファッション・ブランドを立ち上げてみたら? カットオフ専門の(笑)。

ベイリー:いいかも(笑)。

PHOTOS:TAKUROH TOYAMA

■FRIKO JAPAN TOUR 2024
チケットは発売中
大阪公演
公演日:11月19日
会場:梅田クラブクアトロ
時間:18時30分開場、19時30分開演
料金:(前売り)7500円

東京公演
公演日:11月21日
会場:神田スクエアホール
時間:(開場)18時30分、(開演)19時30分
料金:(前売り)7500円
https://smash-jpn.com/live/?id=4236

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