ファッション

「ヨシエ イナバ」がラストコレクションで引き出す 女性の自然な美しさ

ヨシエ イナバ,YOSHIE INABA

稲葉賀惠デザイナーによるウィメンズブランド「ヨシエ イナバ(YOSHIE INABA)」は、2024-25年秋冬シーズンをもってブランドを終了する。現時点で28店舗を構えるが、25年2月までに順次閉店予定だ。1981年に始動して以来43年にわたり、全ての女性のために、個々の内面の美しさを引き出す洋服を提案し続けてきた。稲葉デザイナーが徹底したのは、どんな体形にもマッチし、手持ちのワードローブと合わせやすく、タイムレスに着られるという“オーソドックス”さ。「着物は同じ品物を誰が着たとしても美しく見える仕立て。私もそういった洋服を作りたかった」という言葉からは、日本人女性デザイナーの草分けとしての矜持が垣間見える。「ヨシエ イナバ」ラストコレクションの魅力と、そこに込められた稲葉デザイナーの思いを紹介する。

43年間の集大成を飾る
ラストコレクション

「『ヨシエ イナバ』らしさを強く出した」と稲葉デザイナーが語るラストコレクション。テーマは“いつまでも輝く女性たちへ贈る 素材にこだわり、少しだけ流行を意識した定番服”だ。オンオフ問わず着回せるように、多くのアイテムは体のラインを拾い過ぎないシルエットを基調にしつつ、細身のドレスやマスキュリンなジャケットやパンツなどでシャープに見せる。過去のコレクションで愛用していた素材を再び用いており、シルクは軽い仕上がりの18-19匁(もんめ)を、上質なコットンは極細の糸を採用。ロロ・ピアーナの生地で仕立てたカシミヤコートは、数年ぶりに23年秋冬コレクションで登場して好評だったそうで、今季はデザインを増やした。さらに、ジャケットやボトムスもデザイン豊富に展開する。

素材と仕立ての上質さが光る
「ヨシエ イナバ」流のオーソドックス

オーソドックスを重視するブランドスピリットを反映し、装飾もさりげない。ライトグレーのニットワンピースは、品良く透明なスパンコールを点々と散らしており、着る人が動くことでほのかにきらめく。スパンコールやビーズ刺しゅうを施したトップスは、前身に10匁シルクシフォンを使用し、スパンコールとラメコード糸を交互に配したコード刺しゅうで、全体的にミニマルでいて華やかな仕上がりだ。

遊び心がのぞくのは、色やパターン使い。グレーやホワイト、ベージュやモカ、ブラックといったニュートラルカラーを中心にしつつ、鮮やかなブルーやレッドをアクセントにする。ジャケットとフレアスカートのセットアップには、ストライプを横向きにした柄を、シルク地のツーピースにはレオパード柄を、シャツワンピースにはアブストラクトパターンを配し、コレクションに華をそえる。洋服に和のエッセンスを織り交ぜるのは「ヨシエ イナバ」の十八番で、今季は小紋柄のブラウスやスカート、市松模様のストールをそろえた。「どれも控えめな模様にすることで、他のアイテムとコーディネートを組みやすくなっている」とこだわりを見せる。

実用性のある服を好み、メンズ服にも着想を得ることが多かった稲葉デザイナーは、アクティブな現代女性にふさわしく、今季はジャージーパンツやワンマイルウエアをほうふつとさせるイージーパンツもデザインした。刺しゅうを襟からエッジ・裾・袖口にかけてあしらったブラックのジャケットは、フロントホック部分の隙間が見えないように当て布をプラスするなど、女性デザイナーならではの気遣いもさりげなく加えている。

「全ての女性は美しくなれる」

私は、女性はみんな美しくなれると思っています。だから、全ての人に「ヨシエ イナバ」を着てもらいたいです。「丸顔だから」「脚が太いから」などのコンプレックスを抱えたお客さまが、われわれの洋服を着て、「私にもこういう服って似合うんだ」と自身の魅力の可能性に気づく場面を多く見てきました。それがデザイナーとしてのやりがいでしたし、ファッションの力。自分の名前を掲げたブランドを作る以上、私が好きなものしか作らないと決め、それを求めてくださるお客さまの期待に応えられるよう、責任を果たそうとしてきました。

43年間は長いようであっという間でした。ブランドのファンや販売員の方々など、支えてくれた皆さまには感謝しかありません。本当にありがとうございました。今後のファッション業界を担う若いデザイナーの方々は、挑戦を恐れず、新たなテクノロジーやデザインを開拓していってください。社会の変化に対応しながら、人がこれまでに見たことのないファッションを提案していくことは、地道な作業ですが一番の基本です。ファッションは社会を映す鏡ですから。

問い合わせ先
ヨシエ イナバ事業部
03-6861-7678