「シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)」は「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO」)で2025年春夏コレクション“ISSUE #6”を発表した。会場は国立競技場内のアスリートスロープ。アイコンカラーの“コヅカ・ブルー”のライトが空間を染め上げ、ブルーカーペットがゲストを迎えた。
ショーは、ミスターチルドレン(Mr.Children)の「1999年、夏、沖縄」をBGMにスタートした。着想源は、小塚信哉デザイナーが20代前半で制作した絵本「いろをわすれたまち」のリマスター版だ。主人公は、色の存在しない世界に住む絵描きで、ある日偶然、色彩豊かな絵画の世界からやってきた男に出会う。新たに友を得たうれしさや、これまでに経験したことのない物事を知る楽しさから、周囲の景色が徐々に色付いていくが、ある日突然男と音信不通になってしまう。絶望を表すように世界から色が消える中、徐々に前を向く主人公は再び筆を取るーーコレクションでは、物語に登場するキャラクターやモチーフ、風景を全39ルックで忠実に再現。カラーパレットは、主人公の心情を投影するかのようにモノクロとカラフルを行き来した。
ファンタジー性はそのままに
詰め込んだ「僕のリアル」
「シンヤコヅカ」らしいメルヘンさは、家並みを編んだローゲージニットや、絵画の世界への招待状を模した「土屋鞄」とのコラボバッグ、花々を胸元にビーズ刺しゅうしたカーディガンなどに現れた。ラメ混ツイードのセットアップや内側に箔プリントを施したショーツ、細かなスパンコールをちりばめたセットアップは、主人公の心の高揚を表すようにきらめき、見る者の心をときめかせる。当初はメンズブランドとして始まったが、最近はジェンダーの垣根を超えたクリエイションも持ち味。ドローイングをプリントしたセカンドスキンや一見スカートに見えるプリーツパンツ、コルセットが一体化したようなハイウエストパンツなど、男女共に単体でもレイヤードでも使えるアイテムがそろう。また、今季新たに挑戦したというチュールレースは、ボディースーツや超ロング丈のTシャツ、ノーカラージャケットなどに落とし込んだ。
コレクションのムードはファンタジーだが、「実は僕のリアルが詰まっている」と小塚デザイナー。ファッション業界に入る後押しをしてくれた友人と疎遠になってしまった過去の経験を、絵本で表現したのだという。悲しみを経て行き着いたのは、ドローイングを服に発展させるクリエイションを、さらに昇華し続けるしかないという思いだったのではないか。その決意が、“picturesque or die(情景を描くか、死か)”と名付けたコレクションタイトルに表れている。
感謝を伝えるランウエイ
次の10年を見据えて
とはいえ、全体のムードは軽やかだ。22年春夏シーズンのリブランディング以降から築き上げてきたファンタジーなコヅカワールドは、デザイナーのあらゆる体験をふわりと包み込み、リアルとファンタジーのバランスを保っている。「自分の中の天秤が、水平になるのがいいコレクション」。消費者の支持も得ており、売り上げは伸長。前年比130%で推移し、特に海外からのEC売り上げは前年比200%を記録した。
ショーを終え、小塚デザイナーは笑顔を見せた。「実は会場に、疎遠になった友人たちが来てくれている。今日は、自分のきっかけを作ってくれた人に感謝を伝えるランウエイにしたかった」。内向きなクリエイションであることを強みに変え、ここ数年で急激に世界観を確立させた「シンヤコヅカ」にとって、今回のコレクションはさらなる10年を見据えた第一歩だ。缶ビール片手に息切れしながら、「来シーズンも最高っすよ」とあっけらかんと笑った。