満汐国明オルビーインク代表取締役は2024-25年秋冬シーズンに立ち上げた新ブランド「ファビ メルカート」で、「高揚感を犠牲にしないサステナブルなファッション体験」の提供に挑戦する。自社ECサイトを主販路に、10月には伊勢丹百貨店や大阪タカシマヤ店などでポップアップも予定する。
コンセプトは「旬をまとう」。サトウキビ由来の糸やトウモロコシが原料のソロテックス、ヒノキの木糸といった季節を感じる素材や植物染料で素材のストーリーを楽しんでもらう。満汐は「サステナビリティという言葉に頼らずに、ワクワクするサステナブルなファッション体験を届けたいと思った」と立ち上げ背景を語る。
「旬の素材」と聞くとワクワクする感覚をファッションでも
満汐は江角泰俊が手掛ける「エズミ」の立ち上げから参加し「コスチューム ナショナル」のデザイナーを経て、米サンフランシスコデザインエージェンシーに転職。ファッションデザインだけでなく、魅力的なブランド体験を設計する知見を積んだ。現地で目の当たりにした山火事や、環境意識の高い同僚にも影響を受け、サステナブルな消費体験を生み出すことへの情熱が芽生えた。帰国後はアウターブランド「カポック ノット」でディレクターを務め、木の実由来のカポックをダウンに代わる持続可能な素材として打ち出し、サステナブルファッションを訴求した。しかし、「消費者の欲望を駆り立てるモノ作りに限界を感じる部分もあった」。
そこで新たに自身のプロジェクト「ファビ メルカート」を2024-25年秋冬シーズンに立ち上げた。「どうしたらもっと自然に高揚感を持ってサステナブルファッションを楽しんでもらえるのか」。その課題を出発点に辿り着いたのが、「旬をまとう」というコンセプト。「レストランで『旬の素材ですよ』と聞くとワクワクする。四季のある日本ならではの感覚をファッションに取り入れられたら」と考えた。
例えばヒノキの木糸などの季節を感じる素材や、時期にあった機能性も旬ととらえて春夏であれば抗菌・消臭・速乾効果のあるサトウキビ由来の素材などを採用。「料理人のように手元の素材をいかに生かして美味しく調理するかという感覚でデザインする」。
またはカポックなど素材としての珍しさも旬と捉えて提案し、新しい環境配慮型素材は研究段階であっても積極的に採用する。「せっかくのいい技術も品質やコスト面から市場に広がらずに、諦めてしまうメーカーもたくさん見てきた。こうした素材を積極的に活用しデメリットがあれば消費者に伝えつつ、それを補完するようなブランド体験を提供することが自分の役割だと思う」。
非加熱で15秒 最新草木染め染料を取り入れ
2025年春夏シーズンは、熊本のスタートアップのサーキュライフが開発した新たな草木染め染料「サーキュラーダイ」を用いた。通常天然染料を用いて染める場合、80度の熱湯で30分以上染色をしなければならず、エネルギーと水の使用量が少なくない。「サーキュラーダイ」は半導体の技術を応用して非加熱で15秒で染め上げることができる。色止めはミョウバンを使用する。満汐はこれを用いて天草のヒノキの間伐材から製糸した糸とコットン糸でデニム風に織り上げた生地を、桜の木から抽出した染料で染めたセットアップを企画した。
満汐は現在「サーキュラーダイ」を繊維商社のスタイレムと協働して量産体制の確立に向けてサポートしている。「すでにある素材だけでは、サステナビリティを前進させられない。僕たちは新素材の実験台的な役割も果たしていきたいし、メーカーや同業他社とも共創するマインドを大切にしたい」。