ファッション
特集 サステナブルアパレルの作り方

CO2からポリエステルを作る日本発世界唯一の技術、その革新性と今後の課題

パリ五輪のスポーツクライミング競技で、日本、アメリカ、オーストリア、韓国代表が着用したユニホームは各国の代表する山のグラフィックが印象的だったが、日本代表が着用したユニホームに採用された素材も革新的だった。世界初のCO2由来のポリエステルを使用したユニホームで「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」が提供した。

 気候変動対策のひとつとして注目されるカーボンリサイクル技術。このユニホームにはその革新的な技術、CO2を原料とするパラキシレン(高純度テレフタル酸を経由してポリエステル繊維やペットボトル用樹脂原料となる化合物)が用いられた。この技術はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業で、2020年から三菱商事が富山大学、千代田化工建設、日鉄エンジニアリング、日本製鉄、ハイケムが開発を進め、23年にCO2を原料としたパラキシレンの試験製造に成功した。

 どのような経緯でこの技術が生まれたのか。三菱商事で同プロジェクトの中心的存在を果たす地球環境エネルギーグループ 次世代エネルギー本部の岡本麻代課長は、「脱炭素が実現した世界でもCO2排出がゼロになるわけではないので、『CO2を原料として使えないか』という起点で事業を検討した。そして、石油化学製品と比べて製造コストが高いため、グリーンプレミアムを市場に転嫁するために付加価値の高い最終製品にすることが事業成立の鍵と考え、アパレル事業、ポリエステル生地、その原料となるパラキシレンの製造技術に行きついた。CO2からパラキシレンを製造する技術は日本には世界唯一の技術シーズがあったため、この案に結び付けて構想を練りNEDOの支援を得た」と振り返る。補足すると、NEDO事業で開発する技術はパラキシレンの製造までで、その後CO2由来のパラキシレンを酸化させる既存プロセスを経てテレフタル酸を生成する。

 ポリエステルは、エチレングリコールとテレフタル酸のエステル結合で重合されるもので、その原料となるエチレングリコールは植物由来原料での量産化が世界的に進んでいる。一方、テレフタル酸は植物由来原料を用いたパイロットプラントでの製造は可能になってはいるが量産化は難易度が高く進んでいない。「理由はテレフタル酸の原料であるパラキシレンの分子構造の複雑さにある。CO2からパラキシレンを作る技術は非常に難易度が高いが、これを解決する世界唯一の技術シーズを富山大学などが開発していた」。

この技術を高付加価値の最終製品にすることを目指したのがゴールドウインだ。ゴールドウインは23年、プロジェクトオーナーになり、CO2由来のポリエステルの製造に着手。フィンランドの再生可能燃料メーカーのネステ(NESTE)、三菱商事、韓国の化学メーカーのSKジオセントリック(SK GEOCENTRIC)、タイの石油化学メーカーのインドラマ・ベンチャーズ(INDORAMA VENTURES)、インドの化学メーカーのインド・グリコール(INDIA GLYCOLS)、総合エンジニアリング企業の千代田化工建設とコンソーシアムを組んだ。

ゴールドウインは長期ビジョン“PLAY EARTH”を掲げ、「グリーンデザインの推進」「脱炭素社会の実現」「循環型社会の実現」の3つを柱に環境配慮型素材の積極的活用、修理やリセールなどに取り組んできた。西野美加ザ・ノース・フェイス事業部ザ・ノース・フェイス アパレル事業部長は「次のステップはサプライチェーンを持続可能な構造に変えていくこと」だという。スパイバーと人工タンパク質繊維“ブリュードプロテイン”開発もその一環だ。「TNFはアウトドア製品を提供していて自然が身近にあり、製品を提供する側もされる側も自然を遊び場にしている。そのため、自然環境に配慮した素材を積極的に活用することで、ニュートラルにしていきたい。そのために新素材開発に力を入れており、CO2排出量削減はもちろん、サプライチェーンの変革や循環型社会に向けて取り組んでいる。また、製品を介してお客さまとも環境保全に向けて取り組んでいきたいと考えている。そして、常に取り組む全てのプロジェクトに関してそれが本当に環境にいいのか、アパレル産業の課題解決に向かっているのかを疑いながら、よりよい方法を模索している。その結果、業界をリードする存在でありたいと考えている」と西野部長は語る。

今回、テレフタル酸は一部の製造にCO2由来を、その他はリニューアブル原料とバイオ原料由来のテレフタル酸を用いた。「TNF」の西野部長は「今回の製品化で用いたCO2由来の原料は微量ではあるが、初めの1歩として大きな役割を果たしたと考えている。CO2由来の原料の使用量を増やすには時間がかかるかもしれないが、挑戦したい」と話す。機能性や品質に関してはバージンポリエステルと同じだという。「今後は定番のカットソーなどでリサイクルポリエステルやオーガニックコットンと並ぶ環境配慮素材として活用していきたい」。

量産化のハードルは低くない。「技術の核となる触媒のさらなる性能向上と、次のステージである量産機への資金調達、原料となる水素としてクリーン水素の大量調達など課題はいろいろある。消費者のグリーンプレミアムの許容度向上も重要になる」と三菱商事の岡本課長は語る。

日本発の画期的技術の進展を注視したい。

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