独自のスケジュールでファッションショーを開催した中堅組が多かった2025年春夏シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京」は、正直前回よりもだいぶおとなしい印象で終盤戦に突入しようとしている。そんな中、参加ブランドの中で誰よりも長いキャリア、デビューから20周年を迎えた「ヨシオクボ(YOSHIO KUBO)」がやってくれた。兵庫県西宮市出身の久保は今回、新宿のお笑い劇場「ルミネtheよしもと」をショー会場に選んで、吉本新喜劇とコラボレーション。ショーは、間寛平やすっちー、島田珠代が出演する喜劇で幕を開けた。お笑いも、ファッションもクリエイティブ。両者が融合すれば、新しい化学反応が起きるかもしれないという期待を込めた。
不条理なギャグと人情話の喜劇で
500余人の観客の心を一つに
喜劇は、間寛平が営み、すっちーが働き始めた老舗のうどん屋に、ファッションショー・プロデューサーとして活躍(!?)する島田珠代が久しぶりに訪れるというストーリー。役者らは、いつもと違う観客に「口の中がパッサパサだった」など戸惑ったようだが、コテコテの、不条理なギャグとちょっとした人情話が詰まった喜劇に招かれたファッション業界人のテンションは上がりっぱなしだ。その姿は、暗い会場で神妙な顔つきをしながらショーが始まるのを待ったり、せっかく隣同士になった人と一言も話さないままスマホやパソコンで仕事を続けたりの、他のショーとは明らかに異なっている。「ルミネtheよしもと」を埋め尽くした500余人の心は明らかに一つになって、喜劇を含めても30分余りという短い時間を分かち合い、皆ニコニコしながら会場を後にする。ファッションであり、お笑いがなせる技だろう。
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こうした空間を共有すると、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)が「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズトップにファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)を起用したり、「サンローラン(SAINT LAURENT)」は映画制作の子会社を設立したりと、ファッションとエンターテインメントが融合しつつある現状も頷ける。久保は、LVMHや「サンローラン」の親会社であるケリング(KERING)ほど戦略的ではないだろうが、それでもファッションがエンターテインメントと融合しつつあること、融合すべきであることを本能的に感じ取り、夢として抱いてきたのだろう。
コレクションは集大成
得意のリラックススポーティー
肝心のコレクションは、「ヨシオクボ」の20周年の集大成だ。基調は、得意とするリラックススポーティー。ブルゾンの身頃や袖にたっぷりとギャザーを寄せたり、無数のファスナーを這わせてシルエットを自由に変えたり、圧倒的なステッチワークを加えて迫力ある柄に仕上げたりのアプローチで、無機質になりがちなスポーティなスタイルにデザイナーズブランドとしての意匠をプラスする。同じようにギャザーを寄せたアイテムでも、ブルゾンもあればシャツもあり、光沢のあるナイロンタフタを使ったかと思えばシャリ感のある素材に変更したり、素材に合わせて色を微細に変更したり。以前教えてくれた、「自分で色を作りたくなるくらいカラーリングにもこだわり、より縫い代が短くなるように縫製にもこだわるのがデザイナー」という金言を思い出す。
フィナーレには、久保本人も登場。そして借金取りが請求した300万円を肩代わりしてくれた島田に「このうどん屋を使ったらえぇ」とショー会場を提供した間が「会場使用料300万円です」と言うと、芸人も、久保も、モデルもズッコケる大団円で幕を閉じた。久保は、これからも新しい発表方法を模索するという。20年間第一線を走り続けた人だからこその、洋服のデザインだけに収まらないファッションへの愛の表現方法が楽しみで仕方ない。