ビューティ

「オルビス」が激戦区のドラコスに参入  低価格帯スキンケアに新風を吹き込む

PROFILE: 小林琢磨/オルビス社長

小林琢磨/オルビス社長
PROFILE: (こばやし・たくま)2002年ポーラ入社。10年にグループの社内ベンチャーから誕生した敏感肌専門ブランド「ディセンシア」の社長に就任し50億円規模のビジネスに導く。18年オルビス社長に就任。リブランディングによる構造改革をはじめ、物流センターの自動化、アプリを用いたCX戦略などをけん引し、数々のヒット商品を生み出す。ポーラ・オルビスホールディングスの取締役を兼務する

大手化粧品メーカーが軒並み高価格帯にシフトする中、「オルビス(ORBIS)」は990円~1210円という価格帯で“ショットプラス”を今秋発売する。オルビスの2024年1〜6月期は、売上高が前年同期比14.8%増、営業利益が同44.5%増と好調な業績を記録する中で同社が、低価格帯かつ激戦区のドラッグストア市場に「なぜ」「今」「あえて」参入するのか。小林琢磨社長に聞いた。

「ビューティーを諦めない」「生活者を取り残さない」

―――“ショットプラス”発売の経緯を教えてください。

小林琢磨オルビス代表取締役社長(以下、小林):まず根本的な背景として、オルビスは一人一人が誰かと比べることなく、自分らしく年齢を重ねていける、「スマートエイジング」を掲げています。オルビスの創業は1987年。化粧品は百貨店や専門店での販売が主流の時代ですが、まだ比較的珍しかった通信販売という新しい買い物体験をスタートしている。「百貨店のカウンターが苦手な人もいるよね」「シンプルな化粧品が好きなお客さまもいるよね」と、お客さま一人一人のニーズに寄り添うことを基軸にしています。

そのうえで現在の化粧品市場を見渡すと、好調なのは1万円以上の高価格帯か、1500円以下の低価格帯。大手は軒並み高価格帯にシフトしています。自社研究所を有する開発力のある会社が「先端技術を高級化粧品に搭載する」、それ自体は素晴らしいことです。一方で、取り残されている人はいないだろうか、“生活者全体のビューティ”に寄与していないのではないかという思いがありました。

―――「生活者を取り残さない」ための意志決定とは?

小林:ブランドの根幹にそういう思いがあった上で、市場分析上でも取り組む価値のある分野だと思いました。きっかけはコロナ禍です。生活者の価値観や購買行動が変化した面と、逆に変わらない面が如実に示された。まず、変わらなかった面でいうと緊急事態宣言の発出にも関わらず、思ったほど化粧品のEC比率が上がらなかったことがあります。

―――:化粧品のEC比率は、具体的にはどのくらい?

小林:経済産業省が公表しているデータによると、「化粧品、医薬品」のEC化率は22年度で8.24%。化粧品だけ抜き出して試算すると20%に満たないくらいで、約8割の生活者は実店舗で購入していることになります。

さらに、22年のインテージSLI調査を元に独自で分析したデータでは、化粧品購入チャネルの上位86%がドラッグストア・ECプラットフォームでした。リアルの世界では、ドラッグストアがインフラとして機能している。そのうちの77%が1000円前後のプチプラスキンケアユーザーであることも分かりました。

―――ドラッグストアとプチプラコスメの存在感が分かるデータですね。ただ、EC比率に関しては、今後伸びる可能性もあるのでは?

小林:おっしゃる通り、ECは今後も伸長していくはずです。一方で、今度は「変化したこと」に目を向けると、1人の生活者がデジタルとリアルを行き来するのが当たり前になった。そうなると、デパコスもドラコスも関係なく、あらゆるブランドが店舗販売とECを「総合格闘技」的に取り組まなくてはなりません。

何が起こるかというと「EC広告単価の劇的な上昇」です。われわれのような直販ブランドは、トータルで考えると将来的に利益率の低下が予想される。だとしたら、リアルとECを融合して、最も付加価値の出せるポイントはどこかを考える必要があります。

まだ「オルビス」を知らない潜在的な顧客と出会うために

―――そこで、ドラッグストアに進出する選択をした。

小林:現在オルビスは、年商450億円規模のビジネスを展開しています。この規模のシェアがあると、人口減少が進む国内において、新規顧客の獲得はなかなか難しい。私たちがまだ出会えていないお客さまはどこかといったら、ドラッグストアのチャネルだった。

総合的に考えて、1000円前後でこれくらい高い技術が詰まったコストパフォーマンスのよい商品はなかなかない。昨今の生活者の格差が広がっていること、そして「オルビス」のブランドフィロソフィーとしてはやるべきと判断しました。

――商品力の高さに自信があるわけですね。

小林:そうですね。まず、自信を持っている点として、“ショットプラス”には、グループ会社のポーラ化成工業が誇るスキンケア技術が搭載されています。1番の特長は、浸透技術が優れていること。ここは長年ナノ化技術を研究してきた化粧品会社だからこそ、成し得たクオリティーだと自負しています。

1000円前後という価格帯でこの浸透感や保湿感を体験して頂いて、お客さまに「オルビスっていいよね」と思って頂けたらうれ嬉しいですね。その方のライフステージが変わって、例えばエイジングが気になりはじめた時に、直販のオルビスを選ぶきっかけになればありがたい。長い目で見て、潜在顧客を増やしていくことは本当に重要だと考えています。

新たな挑戦に対して社内では反対意見も

―――“ショットプラス”に搭載した技術は、ポーラ化成工業の財産だと思います。ドラッグストアコスメに用いることに反対意見はなかった?

小林:経営陣の中でも、正直意見は割れました。ただ、自分たちが培ってきた技術を「安売り」するのではなく「この価格帯でどんな価値を提供するのか」という話しなので、そこは議論を重ねました。

―――価値の中にはデザインや世界観も含まれると思いますが、そのあたりの戦略は?

小林:あえてドラッグストアコスメの世界観に準じることはしませんでした。ボトルはシンプルだけど上質感が漂うスタイルに。広告ビジュアルも、百貨店で販売するスキンケアと同じ世界観にしています。

―――お話しを聞いていると「クオリティーの追求」が伺えますが、収支的には見合うのでしょうか。

小林:ドラッグストアコスメのすごいところは、一定の「規模感」があると利益が見込める点です。店舗でいうなら、数千店とか1万店とかに配荷されるスケール感があると、ロット数が増えて原価が下がる分、利益が期待できる。ここは、今後頑張っていかないといけない部分です。

表層的なマーケティングではなく
重視するのはあくまで「生活者の声」

―――店舗の拡大には営業活動も重要では?

小林:実は“エッセンスインヘアミルク(以下、ヘアミルク)”のヒットをきっかけに、小売店とのパートナーシップが拡大した経緯があります。

―――SNSを中心にバズったアイテムですね。13年も前に発売して、1度もリニューアルしていないと聞きました。

小林:その通りです。しかも、広告も一切していないんです。11年の発売時から右肩上がりでジワジワと伸びて、21年の販売個数が28万個。22年にSNSでバズったことをきっかけに、23年には250万個と2年で約9倍に跳ね上がりました。

―――ものすごい急成長ですね。

小林:そうなると、商品企画部から「ひと昔前のデザインだから、ボトルを刷新したい」とか、「インフルエンサーマーケティングで、さらにドライブさせよう」みたいな話が出るんですよ。僕は、全部却下しました。

―――全部却下ですか。

小林:そう、全部却下(笑)。なぜなら、マーケティングでは「認知」と「想起」を取る時点が一番大変なんです。まずはヘアミルクを知って頂いて、髪に悩みがあった時に「あのピンクのボトルの……」と思い浮かべていただくことですね。

確かにボトルは、ひと昔前のど派手なピンクですが、今変えたらどれだか分からなくなってしまう。そして、せっかく自然発生的にバズったのに、インフルエンサーがハッシュタグつけたSNSを目にしたら、一気に冷めませんか?じゃあ何をしたかというと「生活者との接点」を増やす、つまり売り場を拡張すべく、バラエティーショップやドラッグストアなどのリテールに営業をかけました。

―――そこで小売店とのネットワークが構築できたんですね

小林:そうです。配荷でいうと“ヘアミルク”は現在、バラエティーショップを含め全国2万を超える店舗に置いていただいています。背景にこのような店舗とのパートナーシップがあったことも、“ショットプラス”ローンチの後押しになりました。

―――“ショットプラス“の配荷予定は?

小林:ドラッグストアは、最初から全店に配荷するわけではなく、一部店舗に置いて動きを見るテスト期間があります。初回配荷数は具体的に明かせませんが、通常のテスト店舗数の約2倍の店舗で展開していただく予定です。

―――“ショットプラス“の今後の展望を教えてください。

小林:ローンチが9月なので、初年度の売り上げはそこまでのインパクトは出ないと予想しています。それよりまずは、皆さんに知っていただいて、ぜひこのクオリティーをご体験いただけたらと。

“ヘアミルク”のヒット時に、僕が非常に面白いと感じたのは、22年にバズったコメントと、11年の誕生時に愛用者が評価してくださったコメントが「ほぼ同じ」だったことです。プロダクトが評価されるポイントは、時代が変わっても不変であり、表層的なマーケティングではかなわない「本質」です。“ショットプラス“も「やっぱりいいね」と思っていただけるようなブランドに育てたい。将来的には、商品や店舗数の拡大を目指しています。

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