舟山瑛美デザイナーの「フェティコ(FETICO)」は9月3日、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で2025年春夏コレクションを発表した。舟山瑛美デザイナーは“The Secrets”というコレクションタイトルのもと、全36ルックで女性のミステリアスさを描いた。
舟山デザイナーはコレクションについて「現代ではSNSで自分をさらけ出すことを良しとする風潮があるが、私は私生活の見えない秘密めいた人に引かれる」と説明した。1980年代に活躍したアフリカ系アメリカ人モデルのヴェロニカ・ウェブ(Veronica Webb)をミューズに、彼女の力強さやかわいらしさ、繊細さなどの多面性を表現したという。また、80年代のサスペンス映画「数に溺れて」もモチーフだ。同作は、自身の夫を溺死させた過去を持つ3人の女性と、彼女たちに翻弄される男性検視官の物語。白昼夢を思わせる色調の淡い映像や、秘密を持つ女性に着想し、曖昧な世界観を演出した。会場には東京タワー下の「スターライズスタジオ」を選び、「堀のような空間を作りたい」と巨大な白スクリーンを設置。揺れる水面を映し出し、観客を水中にいるような錯覚に引き込んだ。
強い「フェティコ」が見せる柔らかさ
コレクションは、これまでと明らかに違った。「フェティコ」といえば、大胆な肌見せや、パワーショルダーのテーラード、モノトーンや赤といったカラーパレットなど、“強さ”が前面に立つクリエイションが持ち味だ。今季もスリップドレスや、デコルテが大きく開いたクロップド丈のトップス、デニム切り替えのレースキャミソール、ブラックのレザー調パンツなどでセンシュアリティー(官能性)を見せながら、柔らかいムードが全体を貫いている。特に冒頭3ルックは、大きなコサージュを胸元に配したシアーホワイトのキャミソールに、パステルグリーンのシースルードレス、羽衣のように軽やかなライラックカラーのセカンドスキンで、優しい色合いと繊細な肌触りを印象付けた。その後も細かいドットのドレスやパフスリーブブラウスで愛らしさを、ローズモチーフをプリントしたワンピースやペンシルスカートは、淑女なムードだ。
小物使いも新鮮だった。特に、スクエアトーのベルクロストラップのスニーカーは、自然体なスタイルを完成させた。舟山デザイナーは、「『フェティコ』は女性らしいハイヒールを合わせてもかっこいいが、私自身はスニーカーをよく履く人間。コレクションでリアルな女性像を表現するにあたり、あえて外しアイテムとしてスニーカーを選んだ」と話す。また、「ブラン(BLANC)」とコラボした幅太メガネを着用したモデルも現れ、フェミニンなスタイルに意外性を加えた。
曖昧さを許容し、クリエイションは次のステージへ
舟山デザイナーはこれまでコレクションを通して、女性のユニークな美しさを讃えつつ、自由に生きる女性をエンパワメントしてきた。そして今、舟山デザイナーはその先を目指そうとしているのだろう。“強くいなくては”と鎧(よろい)をまとって社会で闘う女性が、自分の繊細でかわいらしい一面も肯定したかのように、今季の「フェティコ」は愛らしさに溢れていた。
もしかすると、「フェティコ」の“強さ”を期待していた女性にとっては物足りなかったかもしれない。しかし、パワフルでソフトな今回のコレクションは、ファンの裾野が広がりそうな期待感もある。ショー後の舟山デザイナーは「何でも白黒はっきりつけるのではなく、曖昧さを許容できるようになった自分がいる。とはいえ、次はまたバッキバキに強いコレクションを作る可能性もあるし、先はまだ見えない」とほほ笑んだ。等身大の女性を描く、「フェティコ」の新章が始まった。