2025年春夏の「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」における、日本のファッションシーンを支援するプロジェクト「バイアール(by R)」として、「サルバム(SULVAM)」がランウエイショーを開催した。会場は、文化服装学院の遠藤記念館大ホール。藤田哲平デザイナーの母校だ。「サルバム」は今回、次世代の育成を目指して同校との学生たちとモノ作りを進めてきた。
メンズ・コレクションの取材を同僚に任せるようになって以降、私が「サルバム」のショーを見たのは久しぶりだ。私が見ていた頃から、「サルバム」のコレクションはシーズンを経るたびに肩の力が抜け、エゴは消え失せ、社会に対するファイティングポーズは崩さずともド派手に戦うのではなく、“色香”のようなものを滲み出すことで着る人の輪郭を強調して個性を際立たせるようなムードを強めていたが、その傾向はますます顕著になっていた。
精緻なパターンワークと、軽やかな素材選びが同居しているからだろう。学生と触れ合うことで改めて自由の価値を覚えたという藤田は今回、左右で長さも、チョークストライプの走り方も、ポケットの大きさや形、位置も異なるスイングトップなど、大胆なパターンの洋服も発表しているが、計算したパターンと薄手で柔らかな素材選び、そして控えめなディテールゆえ、着る人の個性さえかき消すステートメントピースのように見えないから面白い。得意のサルエルパンツは股下がいつも以上に深く見えるし、ボーダーのトップスは無数のカットアウトで一見するとアヴァンギャルドだし、終盤の真紅のセットアップは力強い。だが、フォーマルから逸脱しないパターンや、モデルの肩を撫でるように垂れ下がる柔らかな素材選びのせいか、いずれもリアリティを兼ね備えている。意外にも思えたアロハ、ライトな素材に乗せた力強いペイズリー、金色の素材を使ったセットアップ、今季の「サルバム」は、発信する強さと、リアリティを生み出す軽やかさのバランスが良い。そして、時々カットアウトを刻んだジャケットや、素肌の上に纏うシルキーなシャツ、ファインゲージのニット、アシンメトリーなスカートの裾からは、“色香”が滲み出したり、染み出たり。“色香”が漂うスタイルは、カワイイが主流の東京のファッションシーンとは一線を隠している。それこそがパリにも拠点を構え世界での成功を狙う気概であり、既存の社会に対するファイティングポーズなのだろう。
こうしたアプローチは、個性を爆発させるようなクリエイションを追求し、シルエットや後のせのディテールなどに主眼を起きがちであろう学生たちにとっては、大きな刺激になったはずだ。まだまだ自分達さえ手に入れていない“色香”とは、なんなのか?そんな“色香”は、どうしたら滲み出す・染み出るように表現できるのか?また、そんな静かなクリエイションに必要な素材選び、パターンワークのポイントとは何か?個性や自由の表現方法をある程度習得し、次のステージに進もうとする学生にとって、進化を続ける「サルバム」の制作に携わったことは、大きな糧になるだろう。
そして藤田デザイナーは今季、「バイアール」の支援を受けて、ウィメンズのパリ・コレクションでもイベントを開催予定だ。藤田デザイナーは学生を支援し、そんな彼を企業が支援する。支援の連鎖で日本のファッションシーンが盛り上がることを期待した今回の「サルバム」の支援は、大正解といえるだろう。