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ファッションPR業界の地殻変動 大手苦戦の中、勢い増す 「ブティック」サイズのエージェンシーとは?

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イギリスのPR業界で地殻変動が起きている。今年7月には「リチャード クイン(RICHARD QUINN)」や「ガルヴァン(GALVAN)」などを顧客に持つMGCロンドンが閉鎖。昨年10月には、現英国ファッション評議会のデイヴィッド・ペムゼル議長らが共同で設立したエージェンシー、サイエンス・マジック・インクが多額の損失を出し、自主清算に入った。一方で「ブティック(=小規模専門店)」型のPR会社が、顧客に寄り添ったソリューションを提供し、花開きつつある。その多くは近年、ビジネスを拡大し、国際的な事業展開も実現している。今号では、勢いのある3業態に注目し、その実態に迫る。(米国記者ヒクマット・モハメド、ティアンウェイ・ツァン、編集部記者・佐藤慎一郎・訳)

メリット・テート(Merritt Tate)

強みは機動力と堅実さ アイデアは2人の対話から

ロンドンのPRエージェンシー、モーダスBPCM出身のローラ・メリットが、老舗のブランディング会社、カーラ・オットーのアカウント・マネジャーだったローレン・テートと昨年設立したファッションPRコンサルタント会社がメリット・テートだ。「ピーチー・デン(PEACHY DEN)」「デイジーロンドン(DAISY LONDON)」「フォール・ブライド(THE FALL BRIDE)」「ロクサヌ・ファースト(ROXXANE FIRST)」といった急成長中の中堅コンテンポラリーブランドを顧客に持つ。

「大手エージェンシーで培った専門知識を生かし、より柔軟で、機動力と適応力あるサービスを提供する。よりインハウスに近い感覚を感じてもらいたい」とメリットは語る。同時に、ポテンシャルのあるブランドを見極め、メリット・テートと一緒に成長したいと考えるパートナーを探しているという。

コスト管理もまた、「ブティック」規模の経営を維持するための鍵だ。「閉鎖を余儀なくされた代理店の足かせになったのは、大きなショールームやロンドン中心部にオフィスを構えるための家賃、そして大掛かりなサンプル売買のための経費。私たちは、できるだけ負担を軽減し、全てを合理化しようと努めた」とメリットは付け加える。

メリットとテートは、9年前にモーダスBPCMで出会い、1年半の間、「バリー(BALLY)」や「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」などのブランドを共に担当。テートがカーラ・オットーに移った後も、友人として親交を深めてきた。テートとの関係について「パートナーのような存在で、負担を分かち合い、アイデアを出し合ってくれる人がいるのは素晴らしい」とメリットは語る。「私たちは友達だから、何でも言えるし、オープンで正直な会話ができるのもいいところ」とテートも付け加えた。

エー・エス・ビー・ピーアール(ASB PR)

豊富なコネクションと複数拠点 強みはVIPとの仕事

ASB PRは、PR会社ブラウンズ出身のアレクサンドラ・ベネズラが、2021年にロンドンで立ち上げたエージェンシー。現在、ニューヨーク、ロサンゼルス、メキシコに進出し、イベント企画、タレントのマネジメント、インフルエンサーとブランドのパートナーシップ、VIPへの衣装提供、ホスピタリティー・サービスなど、伝統的なPRの仕事にとらわれずに活動する。

「大規模な代理店から契約を切り替えたクライアントもいる。規模が大きければ、全クライアントに積極的に対応するのは難しい。ブランドは私たちのような小規模な業態に安心感を求める」と、ベネズラは語る。「アレクサンドラ ミロ(ALEXANDRA MIRO)」「オシアナス(OCEANUS)」「チャロ・ルイス(CHARO LUIZ)」など、主に欧州のブランドを顧客に持つベネズラは、次のように続ける。

「PRの仕事はすっかり様変わりした。ブラウンズで働いていたころは、ファッション誌で取り上げられたり、インタビューを受けたりすることに主眼を置いていた。今は、適切な人にブランドを着てもらうことが重要になってきている」。

「適切な人」とベネズラが語るように、ASB PRはVIPとの仕事に力点を置く。「今は移り変わりが早く、苛烈な競争がある時代。セレブリティーが顧客のブランドを着用すれば、SNSやプレスに取り上げられ、売り上げに直結する」とベネズラは答えた。

例えば、ベネズラはビヨンセ(Beyonce)のスタイリストの協力を得て、クライアントの「チャロ・ルイス」の商品をビヨンセに提案。今年6月にビヨンセが同ブランドの白いドレスを着用し、インスタグラムに2度投稿したところ、500万近くの「いいね」が寄せられ、ウェブ上での検索結果は3万6800件以上に及んだ。

シアン・コミュニケーションズ(Shean Communications)

成功の鍵は柔軟さ 他ブランドと連携で狙う相乗効果

 もともと「111スキン(111 SKIN)」でPRとVIPリレーションを担当していたアメリア・シアンは、「ブティック」型PRエージェンシー兼コンサルタント会社、シアン・コミュニケーションズを立ち上げ、自己資金で運営する。現在、古巣の「111スキン」など、ビューティブランドをクライアントに抱えるシアンは「従来の代理店のアプローチ(年次の高いスタッフはビジネス開発に専念し、若手は手薄になろうとも複数のクライアントを担当する)では、長期的にクライアントを抱えるには限界がある」と語る。

 「現代において、成功は柔軟なアプローチと同義と言える。リリースを書き、ただ売り込めばうまくいくわけではない。ブランドとの良好な関係の中で、自らネットワークを築き、いかに影響力あるメッセージを届けられるかが鍵だ」。「111スキン」は、アクティブウエアブランド「アロ・ヨガ(ALO YOGA)」がロンドンのリージェント・ストリートに構える英国1号店に、フェイシャルやマスクを楽しんだり、肌相談を受けたりできる専用スペースを設けた。

 「これは、インハウスの広報チームの延長として働くことで生まれる良い例。『アロ・ヨガ』とは1年以上連絡を取り合い、ロンドンでの立ち上げの下地を作ってきた。クライアントとの仕事は、プロジェクトのためだけではなく、何年も先を共に見据えている」とシアンは付け加えた。

 「111スキン」は、2024年春夏のロンドン・ファッション・ウイーク中にファッションブランド「アーデム(ERDEM)」と提携。ショーのモデルたちは、バックステージで「111スキン」の製品を使用した。このような提携は、近い客層を持つ両ブランドに相乗効果をもたらすだろう。

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