一人の、人気ヘアサロンのクリエイティブディレクターの取り組みがきっかけに、その動きが全国規模に広がりつつある……。「メリケンバーバーショップ トーキョー(MERICAN BARBERSHOP TYO)」でクリエイティブディレクターを務めるヌマタユウトさんは、ブリーチとパーマを駆使したヘアデザイン“イージーパンク”を世界に向けて発信するなど、エッジィなスタイルで業界をけん引するトップアーティストだ。インスタグラム(@yuto__ny)に投稿された先進的なヘアデザインがきっかけとなり、世界中から仕事のオファーが来ている。
そのテクニックだけでなく、考え方も先進的でパンク。「髪型だけでどこまで行けるか」をモットーに、サロンワークをこなす一方で、ファッションやカルチャーなどの異業種コラボレーションにも積極的だ。例えば「かっこいい髪型にすれば気分がアガり、パフォーマンスも向上する」という、高校サッカーの強豪・飯塚高校の中辻喜敬監督が抱く信念とヌマタさんの思いが共鳴。ヌマタさんを、サッカー部の“フィーリングコーチ”として迎えた。選手が最高のパフォーマンスを発揮できるように、ヘアカットやスタイリングなどで、選手を髪型の面からサポートするのがフィーリングコーチの役割だ。
そういった取り組みや、ヌマタさんおよび「メリケンバーバーショップ」が掲げる「LOOK GOOD, FEEL GOOD, PLAY GOOD.」という精神に、ヘアコスメのリーディングカンパニーであるマンダムが賛同。同社は2021年に「BE ENITHING, BE EVERYTHING.」(意味:なりたい自分に、全部なろう)を企業スローガンとして掲げ、「外見が変わると、気持ちや行動が変わり、人生が豊かになっていく」ことをメッセージとして伝えてきた。ヌマタさんはカットやスタイリングの技術で、マンダムはそれらを支えるスタイリング剤や機器などを通じて、そうした思いを共に実現しようと「部活ヘアサロン」プロジェクトが始まった。
全国大会レベルのチームから広がる
「部活ヘアサロン」の活動
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「部活ヘアサロン」は、学生が自己表現と部活を両立して楽しめるよう、髪型を整えてモチベーションアップやパフォーマンスアップを目指す取り組みだ。時には出張し、時にはサロンで、たくさんの学生に髪から気持ちを上げていく体験を提供している。現在も強豪校を中心に複数の地域で、取り組みが広がっている。
一方で、全国の中学校・高校の部活には、まだまだ「ツーブロック禁止」「坊主でなければいけない」「ヘアカラーは禁止」といったルールが存在している。そうした髪型規制に対し、「本当に必要なルールなのか」「生徒たちの自己表現やパフォーマンスの向上を妨げていないか」といったことを部活生や周囲の大人と一緒に考える「どう思う? 部活ヘア」というプロジェクトが「部活ヘアサロン」の根底にある。「部活ヘアサロン」は、そうしたルールに一石を投じるための場ではあるが、かといって坊主撤廃や古い慣習を壊すためでもないという。あくまで、本質とは何かを問うものであり、皆が納得できる道を探っていく今の時代らしい“パンク”な取り組みでもあるのだ。
「どう思う? 部活ヘア」をテーマに、
Z世代の大学生が自身の経験を語る
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全国の中学校・高校の部活には、髪型に対する規制やルールが数多く存在する。ここではヌマタさんに加え、ファッションサークルに所属するZ世代の大学生5人が集結。自身の経験を語ってもらった。
WWD:中学・高校時代にあった髪型の規制は?
鎺(はばき)陽平(以下、鎺):僕は高校時代、サッカー部に所属していたのですが、学校のルールとは別に、部活のルールがありました。例えばツーブロック禁止、襟足が肩についたらだめとか。今の僕の髪型だと絶対に無理で、井上(航平)くんくらいの髪の長さでもアウトでした。
ヌマタさん(以下、ヌマタ):(井上さんの髪型を見て)え!?この長さでもダメなんだ。
井上航平(以下、井上):僕は高校時代帰宅部だったのですが、通っていた高校が厳しい校則で有名で、いわゆる“ブラック校則”が存在しました。髪型に関しては、髪染め禁止・整髪料禁止・ツーブロック禁止はもちろんのこと、前髪は眉上まで、横髪は耳にかかってはいけないといったルールがありました。学期に1回ずつ風紀検査があり、少しでも髪が引っかかっていると、髪を切ってくるまで再検査、再々検査をさせられました。
ヌマタ:それは厳しいね。風紀検査なんて実際に存在するんだ。
井上:個人的には「前髪は眉上まで」というルールが1番厳しく、せめてノーセットでもある程度決まるマッシュにしたいと、前髪をちょうど眉毛の位置くらいまで伸ばしました。そして風紀検査の際は、思いっきりしかめっ面をすることで眉毛を下げ、相対的に前髪が眉毛の上に来るようにするなど無駄な抵抗をしていました。今考えても勉学に何の関係もないこのルールは、必要だとは全く思いませんが、あの手この手を使って検査に引っかからないようにしていたあの時間は「青春だったのかな……」とも思います。
ヌマタ:その反動で、今は髪を伸ばしている?
井上:そうですね。大学入学当初は今の鎺くんくらいまで伸ばしていたのですが、落ち着いてきて今に至ります。
湯川麻祐子さん(以下、湯川):高校時代、学校には髪の規制はなかったけれど、所属していたチアリーディング部では髪を染めることが禁止されていました。禁止の理由は、「派手な髪色にしている部員たちを見た他部活の生徒や保護者、他の学校からクレームが入ったから」というものでした。それを聞いて、心から応援を頑張っていても、髪色だけで応援を評価してもらえないことに違和感を覚えました。
ヌマタ:そこだよね。規制の理由を聞かれた先生も、生徒が納得できる理由を言えない。井上さんは、ツーブロック禁止の理由は聞いてみた?
井上:聞いてみました。だらしないとか、からまれやすくなるとか。
ヌマタ:からまれるときは、どんな髪型でもからまれるよね(笑)。湯川さんは、納得いかないけどそれに従ったの?
湯川:そうですね。入学したときは髪を茶色に染めていましたが、説明会で染めるの禁止と言われ、あわてて黒染めしました。そして引退すると、先輩たちはみんな茶髪や金髪にしていたので、私も引退した次の日に美容室にいき、ブリーチで茶髪にしました。
ヌマタ:みんな反動あるよね。納得感のないままルールに従っているから、「もっとかっこよく、もっとかわいくいたかった」という思いが残って反動が出る。
長瀬麻李亜さん(以下、長瀬):私は中学時代、バレーボール部に所属していましたが、強いチームになるには髪をみんな短くして、ショートで揃えるように先輩に言われました。運動するには、長い髪の方が縛れて楽だし、ヘアアレンジも沢山したかったので、悲しかったです。「ヘアスタイルを変えるだけでは強さは変わらないのでは」と思いつつ、3年間ずっとショートカットでした。
ヌマタ:「強いチームになるためにみんなでショートに……」って、納得いかないよね。
長瀬:高校時代もバレーボール部で、ロングは許されたのですが、巻いたらダメ。私も今はその反動で、髪はロングで巻いています。中・高ともにカラーリングはダメだったので、大学入学当初は、1カ月ごとに髪色をピンクや金髪に変えていました(笑)。
河島さくら(以下、河島):私は中高一貫の女子高に通っていたため、かなり厳しかったです。髪染めはもってのほか、肩につく長さなら結ばなくてはいけませんでした。「ポニーテールは電車の扉に挟まれた生徒が過去にいたから禁止」という謎の理由で(笑)。
ヌマタ:なにそれ(笑)。
河島:部活はチアリーディング部で特に髪に厳しく、練習のときは前髪をピンで留めてオールバックにするのがルールだったのでブサイクでした。全員が同じようにブサイクだったので気になりませんでしたが、当時の写真を見返すと「うわっ」となります。当時のチームメイトの間では、中・高の6年間を「暗黒時代」と呼んでいます。ただ、一番上の高校3年生になると髪を下ろしても良くなる、という謎の習慣もありましたね。
ヌマタ:こうしてみんなの話を聞いていると、ルールを作る側の人が、体裁をすごく気にしているよね。僕はタトゥーを入れているので、取材を受ける際に長袖を着なければいけないケースとかもあり、TPOを考えている。そういった適度なTPOを教えてくれるのはいいけど、行き過ぎは問題で、学生時代の思い出にも関わるよね。
長瀬:部活で地毛じゃないといけなかったので、染めている人を見るとうらやましかったです。私は地毛が少し茶色いので、春休み明けに必ずある髪色検査にいつも引っかかり、そのたびに美容室で地毛証明書をもらわないといけませんでした。
ヌマタ:僕には5歳になる子どもがいるけれど、生まれながらにして金髪のメッシュが入っているのよ。ギャル男みたいに(笑)。このままだと、学校に入ったら絶対地毛証明書が必要そうだよね。今、世の中で多様性とかダイバーシティとか言われているけれど、ぜんぜん多様性が認められていないこの矛盾。規則で縛っているから、少しでも外れた格好が目立ってしまうだけで、縛らなければ、それも“スタイル”や“個性”になると思うんだけどね。
部活生が納得できない髪型規制の理由
「高校生らしさを保つため」
マンダムは高校生における“部活ヘア”の存在に着目し、「高校生の部活大会における自己表現の実態調査」と「部活生が参加する大会への、自己表現に関する規約の実態調査」を2023年9月に実施した(N=100~300)。調査の結果、部活生の約3人に1人が大会で髪型・髪色について自分や周囲が指摘されたことがあると答えた。一方で、13大会中12大会では大会規約に、髪型や髪色に関する記載がないことが明らかになった。
さらに「大会や大事な試合の前に髪などの容姿から気持ちを作ることが重要だと思う」生徒は約67%に対して、先生は約46%。生徒と先生の間で約20%の差があることが明らかになった。また、大会におけるルールや規制が存在している場合、「納得しにくい(できない)理由」は何かを聞いたところ、部活生が挙げたもので1番多かったのは「高校生らしさを保つため」。2番目に多かったのは「過去から代々続いているルールのため」という結果になった(複数回答)。髪型だけでどこまで行けるか、ヌマタさんとマンダムの挑戦は続く。