アトモスの創業者・本明秀文さんの独自の目線と経験から、商売のヒントを探る連載。日本では即完売した「ア・マ・マニエール(A MA MANIÉRE)」とのコラボ“エア ジョーダン3(AIR JORDAN3)”だが、アメリカにはまだ3万足の在庫が眠っているらしい。そんな、スニーカー界隈にとってショッキングなネタから始まる今回は、モノは適材適所できちんと売っていこーぜ!という話。なぜ、こんなにも在庫が溢れるのか。それは、かつては“神様”とも呼ばれていたお客様が、今やライバルと化しているからだとか。その真相は?(この記事は「WWDJAPAN」2024年9月2日号からの抜粋です)
本明秀文(以下、本明):アメリカのジョーダンチームの知り合いによると、最近発売した「ア・マ・マニエール」の“エア ジョーダン3”がナイキUSの倉庫にまだ3万足も残っているらしい。トラヴィス・スコット(Travis Scott)のTシャツもまだ4万枚もあるらしく、嘆いていた。今、コラボが売れない。知名度が低いブランドや人とも簡単にコラボするから泥沼化している。誰か止める人はいないのかな。
──熱狂的なファンだけに向けて少量売れば売り切れるかもしれませんけど、効率が悪いからしないんでしょうね。
本明:かつて商売の競争相手(コンペティター)は、同じようなお客さんをターゲットにしている同業者だけだった。だからA社は、ライバルのB 社やC 社だけを見ながら商売すればよかったのに、今は、顧客がメーカーを裏切る。顧客が「メルカリ」とかで売るから、顧客も競争相手になってしまう。だから、今は古着や中古が嫌いな国に向けて商売するしかない。例えばアジアだと、タイ以外の国はまだ(新古品は別として)中古に抵抗があるね。
──日本人ももともとは中古に抵抗がありましたよね。
本明:そう。あとはその国に“無いもの”。僕は飲食店をやっているから日本の食文化で、海外に輸出できそうなものばかり探しているんだけど、アメリカってかき氷がないんだよね。
──シェイブアイスはあるけど、あれはシャーベットといった方が近いかも。
本明:抹茶は人気あるし、日本産のイチゴは世界的にも有名。あとは甘い練乳。それを適切な場所で売り出せば売れると思う。だから、かき氷の商売をするなら気温が高いカリフォルニアとテキサスがいい。しかも今、テキサスの人口が爆発的に増えている。カリフォルニアは税金が高いから、テスラも今年、本社をサンフランシスコからテキサスに移転したし、トヨタもテキサスにアメリカ本社を構えている。アメリカは東海岸と西海岸、中部で全く商圏が違う。投資の神様といわれるウォーレン・バフェット(Warren Buffett)は、カリフォルニアのチョコレート屋「シーズ・キャンディーズ(SEE'S CANDIES)」に投資したことが成功の転機になった。でも、チョコレートショップが乱立する東海岸の店では成功しなかったと思う。商売には、適切な場所やタイミングがある。バフェットはランニングシューズの「ブルックス(BROOKS)」にも投資しているけど、その理由が、20年後も人は靴を履いて確実に歩いているだろうからと。すごく地に足の着いた投資だよね。「ナイキ(NIKE)」もこのままじゃないだろうし、事実、ここ1カ月で株価が10ドル以上値上がりした。ファンドが上がり切ったテック株を売って、ナイキ株を買っている。投資家は、上がる可能性のあるものがダメなときに投資する。だから、「アシックス(ASICS)」の株価がいつ落ちるか、そのタイミングを狙っている投資家も多い。「アシックス」は型数が少な過ぎて、ある日突然売れなくなると思う。
──「アディダス(ADIDAS)」は調子がいいんじゃないですか?
本明:「アディダス」は、女子が黒い“サンバ(SAMBA)”を履いたのが新しかった。これまでは、女子には白いスニーカーの方が売れていたけど、“サンバ”は逆だった。当然、女子は黒いスニーカーを持っていないから、“サンバ”を買う。その需要が生まれた。
──なるほど。ところで、おにぎり屋の「まんま」では最近、漫画の「ブリーチ(BLEACH)」とコラボしていましたけど(「ブリーチ」の缶バッジ付きおにぎりを販売)、バフェットいわくみんなが履くスニーカーみたいなモノを売ることと、「ブリーチ」みたいにファンやコレクター向けに売ることの違いはなんですか?
本明:僕もコレクターズアイテムなのかな?って思っていたけど、結局、おにぎりのオマケの缶バッジが「メルカリ」で5000〜6万円ぐらいで転売されていた。だから、全部スニーカーと一緒なんだと思う。僕たちの競争相手はお客さんなんだよね。