ウエルネス市場が盛り上がる今だからこそ、体だけでなく心の健康も大事にしたい。 本連載では「ケイト・スペード ニューヨーク(KATE SPADE NEW YORK)」と女性のメンタルヘルス支援に取り組む教育者の熊平美香を迎え、 企業や個人が取り入れられるアクションを考える。第6回は、業績が低迷していたサンリオピューロランドをコーチングのスキルでV字回復に導いた小巻亜矢社長に聞く後編。メンタルヘルスが業績向上に欠かせない理由を聞いた。
熊平美香(以下、熊平):社員のメンタルヘルスを向上させるために実践していることはありますか?
小巻亜矢サンリオエンターテイメント社長(以下、小巻):1人1人の心の状態を可視化するためエンゲージメント指数を取り入れています。働きがいや人間関係、自分自身の成長などさまざまな項目について、アンケート形式で答えてもらいスコア化するものです。どんなにコミュニケーションをしているつもりでも、全員の状態を把握することはなかなか難しい。病気と一緒でなるべく早めに変化を察知することが大事ですから。
熊平:素晴らしいですね。今も課題が出てくることはあるのでしょうか?
小巻:もちろん。会社側が一生懸命取り組んでいても、社員の受け止め方はそれぞれです。特に学んだことは、アンケートは取りっ放しだと逆効果だということ。意見を伝えたのに何にも反映してくれないことが実は一番社員のエンゲージメントを下げるんです。全部は無理でもここは改善しますよとしっかりメッセージを出すことが大事だと、トライ&エラーを繰り返しながら学びました。
熊平:過去にはビューティ業界でも働かれていたそうですね。
小巻:はい。化粧品の会社に勤めたことがありますが、そこでは頑張る人ほどねたまれる蹴落とし合いがありました。そのし烈な世界でもまれた時に思ったのが、女性は表面的なもので輝くよりもメンタルのバランスを取ることの方がよっぽど幸せにつながるのではないかということ。あの時の経験は、私がライフワークとして取り組んでいる女性のクオリティーオブライフを上げる活動に目覚める大きなきっかけになりました。特にファッションやビューティの世界で頑張っている女性は、自分を大切にすることを強くおすすめします。
熊平:女性のクオリティーオブライフを上げる活動とは?
小巻:私は40代前半の時にがんや子宮の病気を患いました。その経験から若いころからのケアの重要性を痛感し、2010年に子宮頸がんの予防啓発活動「ハロースマイル」を立ち上げ体をいたわる大切さを発信しています。
熊平:日本の企業では社員のウェルビーイングに経営資源を割ける会社はまだまだ少ないと思います。そんな経営陣にアドバイスはありますか?
小巻:最初はシステムやツールの導入にかかるコストに意識がいきがちですし、いきなりそこに投資するのは難しいでしょう。でも一番大事なのは、経営者が社員の心の状態が何よりも大事であると意識すること。その意識を持って定期的に声掛けするくらいのことはどんな企業でもできると思います。個人の問題だから立ち入らない、ではなくてあなたのことを大切にする会社ですよという姿勢を発信することは、どんな経営戦略より先に取り組むべきだと思います。
PROFILE: 熊平美香/昭和女子大学キャリアカレッジ学院長、21世紀学び研究所の創設者兼代表理事
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