ファッション

インドネシア発アウトドアブランド「アイガー」をバリ島でパトロール 東南アジアのアウトドア市場展望

9月上旬、夏休みをいただきインドネシア・バリ島に行ってきました。同地を訪れるのは30年前に続き2度目でしたが、その発展ぶりには舌を巻くばかり。繁華街の商業施設には「ユニクロ(UNIQLO)」「ザラ(ZARA)」「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」や人気コスメブランドが並び、食べ物の価格は円安もあってか日本とさほど変わらず、交通量が増えて渋滞はより激しさを増し、30年間でのバリの経済成長を実感した次第です。

旅行中、スミニャックという近年特に盛り上がっているというビーチエリアにも滞在しました。同地でウィンドーショッピングをしていた際に、「こ、これは!」と思う店を見つけたので、是非ご紹介させてください。インドネシア発のアウトドアブランド、「アイガー(EIGER)」のショップがそれです。アイガーと言えば、スイスアルプスを代表する山の名前。常夏のバリ島に雪と氷の殿堂アイガー。う〜ん、ミスマッチが過ぎる。

初めに断っておきますが、「アイガー」の店はスミニャックにあったとは言っても、観光客がショッピングで行き交う繁華街からは1本離れた、大きな幹線通り沿いに立地していました。周りにあったのは、卸用の事務所も兼ねたインテリアショップなど。観光客向けというよりも、バリ島住民向けといった立地だと思います。幹線道路は猛烈な交通量で、さらに信号はあってないようなもの。ローカルの交通ルールに慣れていない観光客は、あの道路を渡るだけでも一苦労だと思います。私も大変苦労しましたが、遠くに違和感たっぷりな「アイガー」の看板とログハウス風外装を認め、あの建物は一体なんなんだという気持ちが抑えられず、なんとか幹線道路を渡ったわけです。

人呼んで、
“インドネシア版「モンベル」”

たどり着いた「アイガー」は、駐車場横に巨大なボルダリングウォールがあり、その奥にはルーフトップテントを設置したおしゃれなSUV車を展示。日本でもルーフトップテントでの車中泊は流行っていますよね。ログハウス風の柱に白黒ギンガムチェックの布が巻いてあるのが印象的でしたが、このギンガムチェック、バリの男性が正装する時のサロン(腰巻き)をイメージしたものなのではと推察します。

店内に足を踏み入れるとそこは、キャンプ用のテントやコンテナ、アウトドア衣料などをマネキンを使って大変おしゃれに陳列していました。吹き抜けになった天井からは、バリで古くから漁業などに使われてきたのであろうトラディショナルな木製カヌーと共に、最近日本でも人気なコンパクトカヤックのパックラフトなどを展示。バイクに荷物を積み込んでアウトドアを楽しもう!的な展示が多かったのは、バイクが大多数の市民の足となっているバリ(というか東南&南アジア)市場ならではと感じました。

2フロア構成で、1階はシューズやテント、寝袋などの雑貨やギアも含めて、「アイガー」オリジナル商品がほとんど。自社オリジナルのアウトドア用品がウエアからギアまでそろい、そしてこの規模感。率直に言って、非常に「モンベル(MONT-BELL)」っぽい店だなと感じました。ネット検索すると、「アイガー」について“インドネシアの「モンベル」”と言及している日本の方も散見されます。

ボルダリングジムも併設、
体験型の店作り

さて、肝心の製品はというとペラペラなどということは全くなく、大変しっかりとした作り。例えば、ダウン70%、化繊綿30%の中綿入りインシュレーションジャケットは日本円で約3万2000円、透湿防水素材「パーテックス」を使ったシェルジャケットは約2万8000円。そう、決してお手頃なわけではないのです。日本で買う「モンベル」はシェルで2万5000円前後が中心なので、「モンベル」の方が買いやすいと言ってもいいのかも。現地の人にとっては「アイガー」は結構なぜいたく品なのではと思いましたが、日本の税制では想像できないような累代の資産がうなっているインドネシアの若い富豪にとっては、痛くもかゆくもない価格なのかもしれません。

また、富裕層だけでなく一般消費者にとっても、国の人口がここからどんどん増え(2030年に3億人予想)、経済成長がさらに進んでいくことを考えれば、数年後にはそれこそ日本の山好きが「モンベル」を買うときの金銭感覚に近いものになるのかもしれません。買いやすい価格ですばらしい品質を実現している「モンベル」に比べると、例えば軽量性やかさばらないといった要素ではまだまだ改良余地が多分にあるなと感じる製品が多かったですが、「アイガー」もここから改良を重ねて発展していくんでしょう。軽量性追求のスポーツウエアというよりも、タクティカル(=軍モノ)寄りの骨太なアウトドアウエアが多かった点は日本のアウトドア市場とちょっと異なる点でした。それは好まれるテーストの違いなのかもしれません。

フロア中央の階段を登ると、2階のメインとなっていたのはボルダリングの室内ジムコーナー。ちょうど、ローカルと思しき小学校低学年くらいの男の子がガイドさんに導かれながら壁登りの練習中でした。ボルダリングコーナーの対面には、ちょっとしたトークイベントなどに適した階段状のスペースもあり。こうした体験型の店作りは、日本の大手アウトドア量販店よりも進んでいる部分もあるのかも。店の作り方は各国のアウトドア店をかなり研究しているように感じました。2階には一部、「オスプレイ(OSPREY)」や「シートゥーサミット(SEA TO SUMMIT)」の買い付けザックなども陳列していました。

2023年、スイスにも出店

さて、アウトドアウエアの市場があるということは、野外で遊ぶフィールドもあるということ。バリ島では、ウブドという内陸地域でリバーラフティングなどが近年流行っているようですが、正直それは海外観光客向け。地元の人たちがどこでどんなアウトドアアクティビティーを楽しんでいるかと言うと、やはり海に囲まれたバリローカルに一番身近なアクティビティーは水遊びやサーフィンのようでした。バリは世界的にも有名なサーフスポットです。しかし海だけでなく、あの小さな島の中に結構な高山もあるんですよ。ウブドのさらに奥にあるキンタマーニ高原(日本人にはちょっとビックリする名前)付近にある、アグン山という活火山がバリで最も高い山ですが、その標高なんと3143メートル。これって、富士山に次ぐ日本2位の山、北岳(3193メートル)とほぼ同じです。

アグン山以外にも、キンタマーニ高原は熊本の阿蘇のようにカルデラ地形になっていていくつか山があり、カルデラ湖もあり、温泉もありました。見晴らしのいいカフェでそんな美しい景色を見ながら昼ごはんを食べていると、周りにはわれわれのような海外観光客だけでなく、インドネシア国内からと思われる若い観光客がいっぱい。皆さんとっても楽しそうに写真や動画の撮影をしていました。現状では山には登らず遠くから眺め、映え写真を撮るのが主流のようですが、恐らく数年後には、ハイキングやトレッキングがレジャーとしてかの国でも広がるのでは。YouTubeで検索すると、ローカルによるアグン山の登山動画も少ないながらアップされているので、険しすぎて登れない山といったわけでもなさそうです。

中国のアウトドア市場の成長性は近年よく指摘されますが、東南アジアも経済成長が進んでいくと、日本や欧米と同様に自然を求める意識も強まり、アウトドア市場がさらに拡大してく−−。そんなことを感じさせるバリ島での「アイガー」との出合いでした。インドネシア全体に視野を広げると、最高峰は4884メートルで、活火山中心に2000〜3000メートル峰は非常に沢山ある模様。また、開発が進んではいますがボルネオ島には世界有数の熱帯雨林もある。「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」や「パタゴニア(PATAGONIA)」は米ヨセミテや南米フィッツロイ、「アークテリクス(ARC’TERYX)」はカナディアンロッキー、「ミレー(MILLET)」「サロモン(SALOMON)」はフレンチアルプスと、世界各地の山を背景にそれぞれの地に適したアウトドアブランドが育ったように、「アイガー」もインドネシアの広大な自然を背景に、きっとここからさらに成長していくんでしょう(インドネシア発なのに名前がアイガーでいいのかは置いておく)。

ちなみに公式サイトによると、「アイガー」は1989年にインドネシアの青年(当時19歳)がミシン片手に工場で立ち上げ、現在世界に250のショップがあるようです(直営店のみなのか専門店への卸も含むのかは分からず)。インドネシア生産だけでなく、中国やベトナム、台湾、香港、韓国などのサプライヤーや工場とも取引がある模様。23年には、アイガー登山の拠点都市であるスイス・インターラーケンにも出店を果たしており、インドネシア発のグローバルアウトドアブランドとして売っていきたい!という気概を感じました。

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