ファッション

挑戦続ける「ヨシオクボ」の20年 唯一無二の“おもろい”を追求

「ヨシオクボ(YOSHIO KUBO)」はデビュー20周年となる2025年春夏シーズンに、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、楽天FWT)」でコレクションを披露した。長年温めてきたという吉本新喜劇とのコラボレーションという前代未聞の試みは、笑いありファッションありのエンターテインメントショーで大反響だった。新喜劇の人気キャラクターが「ヨシオクボ」のコレクションをまとい、ウオーキングする姿がSNSなどでも話題を呼んだ。

節目のショーを終えた翌日、久保嘉男デザイナーに現在の率直な感想を聞いた。さらに、東京と海外でコレクションを発表してきた15年余りを振り返って感じること、そして夢中になっているサウナやお酒のこと――ショーの余韻がまだ残る中、「楽天FWT」25年春夏シーズンのオフィシャルパートナーであるニッカウヰスキーが期間限定でオープンしている「ザ ニッカウヰスキー トウキョウ(THE NIKKA WHISKY TOKYO)」でカクテルを傾けながら、話は弾んだ。

普通のランウエイショーは考えられなかった

大塚千践「WWD JAPAN」副編集長(以下、大塚):昨日のショーは大反響でしたね。なぜ今回、吉本新喜劇とコラボレーションしようと思ったのですか?

久保嘉男「ヨシオクボ」デザイナー(以下、久保):20周年だし、今までと全く違うことをやりたかったんです。コロナ禍にコレクションを動画配信するようになって、もっとアイキャッチな面白い見せ方を考えるようになりました。今回も、エンターテインメント性のあるショーにしたかった。

吉本新喜劇とは、ずっと一緒にやりたかったんですよ。大阪の人って、日々の生活に新喜劇が当たり前にあるんですよね。僕ももちろんその一人で、吉本興業の人に熱く思いを伝えました。実は、新宿の「ルミネtheよしもと」では普段、新喜劇は上演していないんです。だから、今回のショーのためにわざわざセットを建ててもらいました。しかも、たった10分で。10分ですよ。出演してくれた間寛平さんや島田珠代さんは、当日の15時まで大阪の「なんばグランド花月」で打ち合わせがあって、終わり次第すぐ新幹線で駆けつけてくれました。

大塚:それはすごいですね。実際、ファッション業界に限らずSNSでも大盛り上がりでした。

久保:さまざまなシーンが切り取られていたよね(笑)。それが服自体の話題じゃなくても、いいと思っています。関西人は「クリエイティブだね」という褒め言葉の意味で「おもろいね」という言葉を使います。面白いという反響があることがうれしい。今までにないショーをやることで、爪痕を残せたんじゃないかな。

コレクションについては毎シーズン反省点が多くて、今回も振り返ると感じることはいろいろありました。そして、もっといい服を作りたいと思った。いつもこの繰り返しなんです。今シーズンも、コレクション全体の構成でいうと自己評価はまだ60〜70点くらいかな。

技術を磨き、見せるブランドであり続けたい

大塚:コレクションは20年の集大成を感じました。「ヨシオクボ」の強みであるパターンや細かなテクニックがたくさん散りばめられていましたね。

久保:これまで、一回使ったテクニックはすぐやめちゃっていたんですよ。でも、自分の強みである技術をもっと磨いて超越させるためには、反響が良かったものを飽きずに進化させないとダメだと考えたんです。そこで今季は、以前のコレクションで好評だったギャザーのテクニックをさらに深掘りしました。

大塚:ボディースーツへのトロンプルイユも印象的でした。コレクションの中では意外性があったので。

久保:裏テーマとして注目したのが車だったんです。車には興味ないんですけど、車の曲線や流線型のシルエットがすごく好きで、レーサーのユニホームも凝った作りだなと以前から思っていて。コレクションにいきなりレーシングスーツが出てきたらおもろいなと、ボディースーツを作りました。ボディーを先に仕立ててからレーシングスーツの転写プリントをのせたので、ちょっと中心から右にずれているところがポイントです。着崩れている感じが表現できました。

大塚:相反する要素を掛け合わせるのもブランドらしいアプローチですよね。

久保:ウィメンズのアプローチをメンズに応用しています。「ヨシオクボ」は年々ユニセックスの傾向が強まっていて、今、顧客の4割は女性です。「ミュラー オブ ヨシオクボ(MULLER OF YOSHIOKUBO)」もあるので、ウィメンズのモノづくりにも明るい方だと自覚しています。今シーズンは、通常だと技術が難しいといわれるナイロンやポリエステルの素材にギャザーをプラスしました。挑戦ではありましたが、シフォンやサテンといった素材ではないところが、ブランドらしいかなと。見た目に対して生地の厚みがないので、着心地にも配慮しています。

大塚:コレクションを遠くから見ても、高度な技術を使っていることが伝わってきました。

久保:ブランドは今年20周年を迎えて、僕自身は50歳になりました。ブランドとモノづくりを見つめ直して出た答えは、技術を見せていくブランドであり続ける戦い方が合っているということ。難しい技術をプレタポルテで量産できることが、僕らの強みであり、ずっとチャレンジし続けること。「この服、どうやって作っているの?」と興味を持ってもらえる服であり続けたいです。

周りと違うことを常に探してきた

大塚:「ヨシオクボ」は2008年から東京コレクションに参加しています。

久保:もう15年以上ショーを続けていることになりますね。東コレは随分人気になったね。

大塚:若い世代の関心が高まっていて、デザイナーも若返っている印象です。

久保:「もっと俺のことを見てくれ!」という野心を感じて、僕はいいことだと思いますね。ただ、昔と比べて今は簡単に消費される服が増えているなとも感じており、服の良し悪しの線引きが曖昧になっている気がします。先代のデザイナーさんたちは、服自体にすごくパワーがあった。僕もこれまで、ショーは場所を変えたり演出を変えたりいろいろなことをしてきましたけど、重要なのは雰囲気ではなくて、服がどれだけパワーを持っているかだと考えています。だから今の東コレには、もっとコンペティションの要素が増えてもいいんじゃないかな。競争がないと、切磋琢磨しないですから。

大塚:最近は国際交流の場としても機能していて、「楽天FWT」支援のもと東京から世界に羽ばたいたデザイナーは数多くいます。久保さんは2017年にはミラノメンズで、その後「ピッティ・イマージネ・ウオモ」やパリメンズでショーを開催しましたね。

久保:まわりと違うことをしたいという思いは常にありました。僕みたいに「ショーを続けることが命」みたいなデザイナーは今、少ないでしょう(笑)。昨日のショーはありがたいことに500人近く来場客がいましたけど、ミラノのアルマーニ/テアトロで開催した時は100人くらいしかお客さんがいなかったんですよ。「誰が観に来てんの?」って正直思いました(苦笑)。でも、ちゃんと一流のジャーナリストたちが観てくれていた。現地のメディアに載せてもらって有名になりたいなら、その地でショーをやるべき。もともと僕はイタリアの取引先が多かったので、あの時あの場でショーを開催した意義は大きかったですね。

大塚:20年春夏以降は日本文化を切り口にしたコレクションが続きましたね。海外でショーに挑戦後、今の日本の文化や強みを独自に解釈し、国外にも広く発信しました。やはり、海外の経験が影響したのでしょうか?

久保:影響はあったでしょうね。海外生活によって、日本の見え方ががらっと変わりました。家族がロサンゼルスに住んでいるため、年に何回もアメリカと東京を往復する生活を今も続けています。「日本はいいところだ」と感じるようになって、日本の良さを自分から探すようになった。それがコレクションにも表れたのかもしれません。

結局、自分の強みをブランドの強みにする時に“日本人”というルーツは欠かせないです。とはいえ“和”のテーマは、すでに多くのデザイナーがいろんな切り口で見せてきた。まわりとは違うことをやらないと。スーツの素材を使って甲冑を作った(20-21年秋冬コレクション)とか、前代未聞でしょう?(笑)。パンチ力のあることをやりつつ、でもちゃんとビジネスに結びつけることも考えていますよ。アメリカには特にビジネス文化の根強さを感じていて、「売ってなんぼ」な関西の商売人気質と似ている部分がありますね。

アイデアはお酒片手の会話から

大塚:この場所「ザ ニッカウヰスキー トウキョウ」は12月までの期間限定のバーで、凝ったユニークなカクテルが多いんですよ。久保さんが選んだドリンク「軍艦ミュール」も、寿司のウニ軍艦をコンセプトにしたものだとか。お酒は普段から飲みますか?

久保:好きですね。昼間はまったく飲まないけど、ひと段落ついた夜にビールやハイボールを飲んでいます。あと今、サウナにハマっているんですよ。サウナは好きすぎて、10月にサウナブランドを立ち上げます(笑)。

それにしてもこのカクテルには驚きました。こんなスタイルは初めて見たし、めちゃめちゃおいしいね!グラスの上にのっているウニにまずびっくりした。カクテルの中には、梅と大葉が混ざっているんですね。梅干しサワーも好きなので、かなり好みです。自分で作るんじゃなくて、プロのバーテンダーさんに作ってもらって話をいろいろ聞けるのも魅力ですよね。

大塚:日本の要素を盛り込んだ、お酒のクリエイションですよね。僕が頼んだ「クローバー クラブ パンチ」もラズベリーの甘さがベースでカフェジンの風味を感じ、飲みやすくておいしいです。ちなみにニッカウヰスキーは、今季は「楽天FWT」のオフィシャルパートナーなんですよ。

久保:そうなんですか。こういう予想できないクリエイティブな感じ、ファッション業界の人も絶対好きでしょうね。それに、こんなにウイスキーの種類がたくさんあるのも知らなかった。ハイボールが好きだから「竹鶴」は知っていたけど、これはウイスキーの世界も奥が深そうですね。またゆっくり飲みに来たいです。

大塚:ウイスキーがこんなに多彩な飲み方が楽しめるだなんて初めて知りました。お酒が好きなファッション業界人や、ウイスキーに普段あまりなじみがない方にもおすすめです。東コレもよくショーの後にパーティーを催してきましたし、親和性がありそうです。

久保:水を飲みながらでは、話は盛り上がらないしね(笑)。いろいろな人とお酒を交わして、他愛もない話をしているうちにアイデアって生まれたりしますから。そういう意味で、お酒とファッションは相性がいいかもね。

INFORMATION
THE NIKKA WHISKY TOKYO

期間: 12月25日 まで
住所:東京都港区北青山3-5-27 AOKI表参道ビル 1F
営業時間:平日17:00〜23:30、土日祝14:00〜23:30(ラストオーダーは全日23:00)

PHOTOS:YUTA KONO,KAITO CHIBA(RUNWAY SHOW)
TEXT:CHIKAKO ICHINOI
問い合わせ先
日本ファッション・ウィーク推進機構
mailto:infoweb@jfw.jp