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ゆりやんレトリィバァが語る「『極悪女王』での青春の日々」——自分らしく生きていくことが芸人

PROFILE: ゆりやんレトリィバァ/芸人

PROFILE: 1990年11月1日生まれ。奈良県吉野郡出身。趣味は映画鑑賞(大学で映画研究をしていた)。特技は英語、ダンス。大学4年生の時に、大阪NSC35期生として入学し、お笑いを学ぶ。翌年行われた「NSC大ライブ2013」で優勝を果たし、NSCを首席で卒業。2017年、第47回NHK上方漫才コンテストで優勝。同年12月「女芸人No.1決定戦 THE W」に出場し、優勝。海外進出を目指し、19年6月には、アメリカのオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」にも出場。21年には「R-1グランプリ」で優勝。23年にはラッパーとしてデビューし、お笑い以外の活動でも注目を集めている。

1970年から80年にかけて、日本で巻き起こった空前の女子プロレスブーム。歌って踊るアイドル的存在としても活躍していたビューティ・ペア(ジャッキー佐藤&マキ上田)に憧れる少女は、華やかなプロレスラーになるため全日本女子プロレスの門戸をたたく。彼女の名前は松本香。後に最恐最悪のヒール“ダンプ松本”として日本中にその悪名を轟かすことになる人物である。心優しい少女はなぜダンプ松本になったのか、その知られざるストーリーを紐解く全5話のNetflixシリーズ「極悪女王」が9月19日からネットフリックスで配信される。企画・プロデュース・脚本を手掛けたのは、放送作家として多くの人気番組を生み出したほか、脚本家や文筆家としても活躍する鈴木おさむ。番組に参加した際にダンプ松本から女子プロ時代の話を聞き、世界に通じるドラマになると確信して企画した。総監督を務めたのは「死刑にいたる病」(2022)、「碁盤斬り」(24)と話題作を続々と発表する白石和彌だ。

物語の主役となる松本香=ダンプ松本を演じるのは、世界を股にかけ活躍する多才な芸人・ゆりやんレトリィバァ。宿命のライバル、クラッシュ・ギャルズの長与千種とライオネス飛鳥を唐田えりかと剛力彩芽が演じるほか、仙道敦子、斎藤工、村上淳ら豪華キャストが脇を固める。プロレスシーンの構成を担ったのは、本作の主要人物としても登場する長与千種。なんと大迫力のプロレスシーンでは、女子プロレス団体「Marvelous(マーベラス)」の下でプロレスを学んだキャストたちが実際に闘っているという。

「青春のような日々だった」と語る撮影期間に一体何があったのか。大幅な肉体改造をして本作に挑んだという主演・ゆりやんレトリィバァに話を聞いた。

役作りで40kg増量

——ゆりやんさんは本作の主人公・ダンプ松本役をオーディションで射止めたと伺いました。そもそもオーディションを受けるきっかけは何だったのでしょうか?

ゆりやんレトリィバァ(以下、ゆりやん):私は毎日、コボちゃんみたいな見た目の牧くんというマネージャーに「仕事のことで何か良いことありますか?」って電話するんです。それである日、いつも通り牧くんに電話したら「あるんです!あるんです!」ってめっちゃテンション高い時があって。それで「ダンプ松本さんのドラマがネットフリックスで作られます!それの主役オーディションのお話があります!」と教えてもらってオーディションを知りました。私はその当時から、将来的にアメリカで活動したいと思っていて。ネットフリックスさんはアメリカの企業だし、白石和彌監督と鈴木おさむさんの作品で主役を演じられたら絶対に自分のキャリアにとってもプラスになると思ってオーディションを受けることにしました。

——合格を告げられた時の心境はいかがでしたか?

ゆりやん:本当にびっくりしました。オーディションを受けてからずっと「ダンプさんになれるかな」とドキドキしていて、毎日マネージャーに結果の連絡がないか確認していたんです。未発表情報なので人前で詳しい内容については話せないじゃないですか。なので当時吉本の窓口をしていた立川さんという方の名前を隠語みたいにして「立川さん関係で何か進展は?」とか「立川さんどうなってる?」って日々話していました。それである日「立川さん確定です」って言われて……とにかくうれしかったですね。

——当時45kgという大幅なダイエットをした直後で、そこから役作りのために40kgも増量したと伺いました。かなりハードな体験だったかと思いますが……。

ゆりやん:減量後だったこともあり、ダンプ松本さんのような大きい身体作りができるのか不安で、オーディションを受ける前にこの役は難しいかもと悩んだこともありました。でも減量の時からお世話になっていたトレーナーの岡部友さんに、リバウンドではなく筋肉トレーニングなど体に負担がない方法で増量することを相談したら「一緒に頑張ろう」と言ってくれて。それなら自分も頑張れそうだと、覚悟を決めてトレーニングに挑みました。

もちろん身体作りにあたってはネットフリックスさんも徹底的にサポートしてくれました。月一度の健康診断や血液検査などを実施してくれたり、トレーニングや食費面も支えてくれたりしたので、安心して増量することができました。今は撮影が終わったので減量中です。

一緒に青春を過ごした仲間のような関係

——「極悪女王」は紆余曲折ありながらも最終的にはシスターフッドの物語でしたね。唐田えりかさん、剛力彩芽さんはじめキャストの皆さんとの連帯感はいかがでしたか?

ゆりやん:唐田さんや剛力さんをはじめプロレスラー役のみんなとは、プロレスを教わるため長与千種さんの女子プロレス団体「Marvelous」さんの道場へ毎日通っていました。練習の日々は本当に部活で青春しているみたいで。だから撮影の日も「今日は試合シーンの撮影やな」じゃなくて「今日は試合やな」って普通に話していたり(笑)。そんな中で形成された関係性や会話が役ともピッタリはまっていたので、みんなお芝居しつつも役の中に素の自分が生きているような感覚でしたね。みんな、一緒に青春を過ごした仲間のような関係です。

——本作では男性経営者に搾取されながらも勝ち上がり、自分を貫く女性たちの姿が描かれていました。お笑いの世界も男性社会という印象が強く、その中で活躍の場を世界に広げていくゆりやんさんの姿がダンプ松本さんと重なったのですが、ストーリーに共感する部分はありましたか?

ゆりやん:登場人物の強さや優しさなど人間的な部分に尊敬や共感する部分はたくさんありますが、特に感情移入したのが松本香さんからダンプ松本さんに覚醒するところです。覚醒前の松本香さんは、自分がうまくいかない中で周りの子たちがどんどん売れていく姿を見ていて苦しかっただろうし、人のせいにせず自分を責め続けていて本当につらかったと思うんです。

その後覚醒して、悪役メイクをして初めてリングに立った時に「帰れ!帰れ!」というコールを聞いたわけですよね。普通は「帰れ」と言われるなんて嫌ですが、ダンプさんはその時に初めて自分にスポットライトが当たっていると感じてうれしかったんじゃないかなって思うんです。それを長与さんに聞いたら、やっぱりダンプさんは「帰れ」と言われて喜んでたらしいんですよ。芸人もひどい言葉をぶつけられることもあるけど、それがエネルギーや餌になる部分は通じると思うんです。私も言われたことをコントやネタにして自分の糧にしたりするからこそ、ダンプさんのそんな部分にはとても共感しました。

——覚醒するシーンの前と後では演技の質が180度変わっていて驚きました。演じる上での気持ちの切り替えはどのように行ったのでしょうか?

ゆりやん:自分もどうすれば良いのか悩んでいたんですよね。そんな時にダンプさんが練習を見にきてくれて「遠慮したらダメだよ。怖くしなきゃダメ」ってこっそり教えてくれたんです。それまで私は人前で結構暴れたりとかしていましたけど、めちゃくちゃやっているように見えて実は遠慮していたり、抑えていた部分もあって。でも撮影が進んでいく中で、皆全力でぶつかり合っているのに、自分が抑えててはいけないなと思うようになりました。それで気持ちを抑えず演じるうちに役と自分が一体化してきて、松本香 さんが覚醒すると同時にダンプさんの気持ちや感情が自分の内から溢れ出てきたんです。殻を破ったかのような感覚でした。

分かっていたはずなんですけど、先日完成品を試写会で観たら「みんな途中からめっちゃ変わってる……!」って驚きました。4話からの血の上り方がそれまでと全然違っていて、やっぱり異様な空気感だったんだなと実感しましたし、それを引き出した監督があらためてすごいなと思いました。

——ダンプ松本に覚醒してからの現場の空気は大丈夫でしたか……?

ゆりやん:覚醒後も現場は荒れることなく良い雰囲気でした。ただ一つ実践したことがあって。私は(唐田)えりかちゃんとめっちゃ仲が良くて、いつも連絡を取り合っているんです。でも作品の中では長与さんとダンプさんが次第に気まずくなっていって、やがていがみあうようになりますよね。ダンプさんからも「プライベートでもしゃべるのやめた方が良いよ」と言われたこともあり、話し合った上で決別するシーンから一切しゃべることをやめたんです。そしたら皆本当は仲良いと分かりつつも、私がいないところで皆が盛り上がってたりすると腹立つようになってきて(笑)。

話すのをやめてから初めて目を合わすシーンがあったんですが、互いにめっちゃ気まずかったんですよね。そうしたら元から本当にそんな関係性だったように思えてきて。そんな状態がしばらく続いていたんですが、最後の髪切りデスマッチの泊まり込み撮影の時に、なかなか息が合わずリハが上手くいかなかったんです。するとえりかが「レトリ、今日ご飯いこ」って声かけてくれて。ご飯行ったら元通りにしゃべれて、私たちやっぱり仲良かったんやなと思い出せました。

その経験があるおかげで当時の長与さんとダンプさんの気持ちも分かったし、そこからは試合に向けていろいろ意思疎通していこうと確認しあって、それまで以上にコミュニケーションを取るようになりました。遠慮していたことも言えるようになりましたし、今ではLINEで4時間くらい話したりする仲です。そんな良い友達にもこの作品を通じてたくさん出会えてうれしかったですね。

撮影中のサポートについて

——インティマシーコーディネーター(IC)の浅田智穂さんをはじめ大勢のケアスタッフが参加されていますが、撮影する上でのサポートはいかがでしたか?

ゆりやん:今回初めてICさんにお会いして、こんな方がいるんだなと。撮影中はいろいろとケアしていただきました。例えば水着での撮影シーンがある際には「これは着れますか?」とか「ここからは撮られたくないとかありますか?」と聞いてくれたり。みんなの前で聞かれたら、言いづらいこともあるじゃないですか。そんな心理的に言いにくいことを言える環境を作ってくれましたね。健康や栄養面に関しても、いろんな専門家の方が常に支えてくれて心強かったです。

——本作の撮影中にゆりやんさんが負傷したと報じられ、心配の声が上がっていました。大変な状況だったと思いますが、事故の後はどのようなサポート体制で撮影を続けられたのでしょうか。

ゆりやん:事故のニュースを見たらグロい感じになってたんですけど……実際はそんなことはなくて。プロレスシーンはほとんど実際に私たちが演じているんですが、当初からプロレスの練習や撮影シーンにおいてはかなり安全面の配慮をしてもらっていました。その上で、私が普通に受け身をミスってしまったんです。

事故以降の撮影ではこれまで以上にスタッフだけでなく、私たちキャストも少しでも違和感を覚えたらすぐお互いに言うようになりました。遠慮していることもあるかもと思って、キャスト同士で「今のは痛かったように見えました」「いえ、痛くないです」「でも痛そうでした」とか言い合ったり(笑)。長与さんも作中のプロレス技を組む上で、これだったらより安全なんじゃないかと配慮してくれていましたね。皆が一丸となってサポートしてくれたので、安心して撮影に臨むことができました。

——私もけがや増量のニュースを聞き、無茶をしているのでは……と思っていたので安心しました。

ゆりやん:ニュースが出た時は本当に悔しかったんです。ネットで和彌監督や鈴木おさむさんに直接いろいろ言ってる人もいましたし……。私がTwitterで「本当に大丈夫です」とつぶやいたら「このツイートはマネージャーがつぶやいていて、ゆりやんは横で寝たきりになっているに違いない」と言っている人もいて、考えすぎやろと思ってました。

本当に万全の体制で撮影しました……が実際に映像で見ると怖くてヒヤヒヤするし、ハラハラするかっこいい作品になったと思います。

海外での活動に向けて

——主題歌を担当されたAwichさんとは名曲「Bad Bitch 美学 Remix」でご一緒されていましたよね。ゆりやんさんは音楽や演技など幅広い分野で活躍されていますが、その原動力はどこから湧き上がってくるのでしょうか?

ゆりやん:最初私が芸人になった頃って、劇場とかテレビでコントやお笑いをするっていうことしか知らなかったんです。でも先輩たちの背中を見るうちに、好きなことや興味あることにも挑戦して、自分らしく生きていくことが芸人なんだと学ばせてもらいました。お笑い芸人という枠にとらわれず、ゆりやんレトリィバァとして生きて良いんだといろんな方に背中を押してもらい、引っ張ってもらったことが今回の「極悪女王」や音楽にもつながっているのかなと思います。

——今年の年末にアメリカへ引っ越すとのことですが、海外での活動に関してはどのようにイメージされているのでしょうか?

ゆりやん:あくまでイメージですが……。まずビバリーヒルズの広い家に住んで、毎日ポルシェかベンツを片手で運転してカフェに行って、サングラスかけながらコーヒー飲んで、ジムに行ってからオーディションを受けて、スタンダップコメディーに出てからパーティーに行きます。そして映画やドラマに出てハリウッドセレブになって、「次どこ進出する?」ってなったら「宇宙しかないでしょ」ってなって最終的には宇宙進出します。

——そんな憧れのハリウッドで、この人の作品に出たいという映画監督はいますか?

ゆりやん:スティーブン・スピルバーグ監督ですね。「E.T.2」にE.T.役として出たいです。

——ゆりやんさん自身も映画監督デビューされるとのことですが、目指す監督像は誰かいますか?

ゆりやん:やっぱり白石和彌監督です!リスペクト&リスペクトしているので。

——白石和彌監督とご一緒して、どのような部分をリスペクトされたのでしょうか。

ゆりやん:本当に全部が大好きなんです。最初は白石監督って呼んでたんですが、ある日ふと和彌監督って呼んでみたんです。突っ込まれるかなと思ったら「何?」って普通に言われて、そこから私は和彌監督と呼んでるんですけど。

和彌監督はお芝居中やリハーサル中もめっちゃ笑ってくれるんです。何か提案すると笑いながら「良いね!」って言ってくれたり。その笑い声がすごく好きで、みんなも和彌監督に笑ってもらうために頑張ろうとか、何したら監督が笑うだろうとか考えたりしてるんですよ。そんな風に笑いながら演出やセッティングをしてる姿が特に大好きですね。

——最後に、「極悪女王」を視聴する方にメッセージをお願いします。

ゆりやん:「極悪女王」の舞台は80年代で、女子プロレスの方々が日本に嵐を巻き起こした時代です。出演者のほとんどはその時代を生きていませんが、私たちも当時にタイムスリップしたと感じるほどの世界観が実際に作られていました。それこそダンプさんもセットや小道具を見て本物と変わりないと言ってたくらいに。「極悪女王」を観ている時ってその時代に飛び込んだような感覚になると思うので、この時代を知っている人はもちろん、知らない人にもぜひ体験してもらいたいです。安全に作られた楽しい作品ですが、極悪さは安心できないですよ!

PHOTOS:TAKUROH TOYAMA
STYLING:MIKA ITO
HAIR&MAKEUP:TOMOKO OKADA(TRON)

■Netflixシリーズ「極悪女王」
9月19日からNetflixで世界独占配信
全5話(一挙配信)

出演:ゆりやんレトリィバァ 唐田えりか 剛力彩芽
えびちゃん(マリーマリー) 隅田杏花 水野絵梨奈 根矢涼香 鎌滝恵利
安竜うらら 堀 桃子 戸部沙也花 鴨志田媛夢 芋生 悠
仙道敦子 野中隆光 西本まりん 宮崎吐夢 美知枝
清野茂樹 赤ペン瀧川 音尾琢真
黒田大輔 斎藤 工 村上 淳
企画・プロデュース・脚本:鈴木おさむ
総監督:白石和彌  
監督:白石和彌(1〜3話)、茂木克仁(4〜5話)
プロレススーパーバイザー:長与千種
脚本:池上純哉
製作:Netflix
制作プロダクション:KADOKAWA
https://netflix.com/極悪女王

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