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aespaの快進撃を支えるクリエイターが作る「aespaらしいけれどaespaらしくない」 連載:ポップスター・トレンド考察

文筆家・つやちゃんがファッション&ビューティのトレンドをポップスターから紐解いていく本連載。第4回は、2020年11月にデビューした、カリナ(KARINA)、ジゼル(GISELLE)、ウィンター(WINTER)、ニンニン(NINGNING)による4人組のK-POPガールズグループ「aespa(エスパ)」をピックアップし、そのビジュアル面について紹介していく。

昨年後半から今年の初頭にかけて、後続のK-POPガールズグループが次々とデビューしブレイクする中で、aespaはやや劣勢に立たされていたかもしれない。所属するSMエンタテイメントの経営面に関するゴタゴタやメンバーのプライベートに対する中国ファンダムの反旗など、音楽活動以外の面で度重なる障壁が立ちはだかったことで、爆発的な勢いがやや減速していた感が否めなかった。事務所は今年の第4四半期に新人ガールズグループのデビューを予定しており、aespaに投資するリソースが減少するのではという懸念がファンの中で拡大してもおかしくない状況だった。

一方でシーンではNewJeans(ニュージーンズ)が第4世代の顔となり、第5世代ではILLIT(アイリット)が「You, you, you, you, like it's magnetic……」とSNSを席巻。一部ではガールクラッシュ系の終焉もささやかれ、ヘルシーでイージーリスニングな時代が到来したという意見もあった。そうでなかったとしても、BABYMONSTER(ベイビーモンスター)やKISS OF LIFE(キスオブライフ)などエッジの立った新たなグループが頭角を現し、K-POPの勢力図が大々的な変動を余儀なくされていたことは間違いない。

ところが、今年の夏以降、aespaが再びの快進撃でK-POPの常識を覆している。シングル「Supernova」が初動からパーフェクトオールキル(韓国のリアルタイム、デイリー、ウイークリーの主要チャート全てで同時に1位を記録すること)を達成。さらにGenieミュージックのデイリーチャートやMelonウイークリーチャートで長期間1位を奪取、NewJeansの「Ditto」やBTSの「Dynamite」の記録を破り、歴史的なヒットとなっているのだ。正直なところ、この展開は予想していなかったという人も多いだろう。そもそもここに来て初のフルアルバム「Armageddon」をリリースしたこと自体が驚きであったし、ここまでプロモーションにコミットするとは考えていなかった、というのが大方の意見ではないか。加えて、日本デビューに対する本気度は目を見張るものがあった。正式なデビュー曲となった7月リリースの「Hot Mess」は、ジャパン・カルチャーをふんだんに取り入れた世界観と日本語をユニークに駆使した楽曲で高いクオリティーを誇示。THE FIRST TAKEへの出演や、海外女性歌手で史上初となる2年連続の東京ドーム公演を実現させるなど、怒涛の攻勢を仕掛けている。東京ドーム公演については、デビューから2年9カ月での実現という史上最速記録がNewJeansによって更新されたばかりだったので、新たな記録を打ち立てるという意地が事務所側からも見て取れる。SMエンタテイメントは、まだまだaespaを諦めるどころか、構想を描くIP拡張ロードマップ「SM3.0」の基幹アーティストとして中心に位置づけているに違いない。

aespaを支えるクリエイターチーム

さて、そういった最近のaespaの圧倒的な快進撃を支えている要因の一つに、ビジュアル面のクリエイティブがあることは言うまでもないだろう。デビュー当初から先進的な世界観が注目を集めていたグループではあったものの、2023年5月にリリースした3rdミニアルバム「MY WORLD」においてY2Kルックを全力でやり切ったあたりで、一旦考えられる手の内は出尽くしたような印象があった。aespaはどこへ行く?メタバースに回帰するのか、それともリアルの世界にとどまるのか——次の動向に注目が集まる中、4thミニアルバム「Drama」や1stフルアルバム「Armageddon」で、より先鋭的なビジュアルを生み出し新たなイメージを開拓することに成功した。「aespaらしいけれどaespaらしくない」という絶妙な新鮮さが感じられる世界観だが、そこで大きな貢献を果たしているのが衣装のスタイリングだ。

実は、aespaのビジュアルチームはそのタイミングで新たな専属スタイリストを投入している。その名は、Anna Park(アンナ・パーク)。BIGBANG(ビッグバン)や2NE1(トゥエニィワン)といったYGエンターテインメント系列のクールなスタイルに影響を受けてきたという彼女は、もともとCL(シーエル)やZICO(ジコ)などヒップホップのアーティストを手がけるスタイリストで、特にラッパーのSik-K(シックケイ)とは親しい仲だ。同時に活動の幅を広げ、Red Velvet(レッド・ベルベット)やIVE(アイブ)からSo!YoON!(ソユン)、Kim Yuna(キム・ユナ)に至るまで、多くのアーティストの衣装をコーディネートしてきた。彼女の魅力の一つは、大胆なリメイク・アレンジの手腕だろう。世界観の実現のために既製服をカットし作り変えていくが、その結果、既存のイメージからやや逸脱するような微妙な違和感を創出し、「aespaらしいけれどaespaらしくない」という針の穴を通すようなフレッシュなプレゼンテーションに成功したのだ。例えば、KBS WORLD TVの「Drama」のパフォーマンスででカリナが試した、「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」と「ノウルズ(KNWLS)」がコラボしたファージャケットの袖を切り落としアームウォーマーに作り変えたワーク。ニンニンにも、同ブランドのセーターをカットしアレンジを加えたものをスタイリングしている。

他の作品においても、違和感のあるテイストを取り入れながら、不完全な美しさを目指すようなタッチは貫かれている。「Armageddon」では、ニンニンに施した「ルイ(RUI)」のカットアウトジャンプスーツ(をトップスとして着たルック)がインパクト大だった。


「Supernova」では、ウィンターが着用した「シュガースリルズ(SUGAR THRILLZ)」のピンクスカート、ニンニン着用の「ナミリア(NAMILLA)」のトランスフォーマーグローブ、さらにジゼルがまとった「アニヤ レコード(ANIYE RECORDS)」のウエストチェーンなどが際立っていた。使用しているブランドは国もテイストもバラバラだが、どこか共通点も見いだせる。いわゆるECサイト「ドールズキル(Dolls Kill)」系を中心に、キュート+エッジィ+グラムなアイテムを多用し既存の女性像を更新していくようなイメージ、と言えばよいだろうか。他にもAnna Parkが使うアイテムは、「シュシュ/トング(SHUSHU/TONG)」や「キムシュイ(KIM SHUI)」といったブランドも含めて、メンバーのフィジカルを材料に“強さ”へと昇華するスタンスが頻出する。アバターを駆使するメタバースグループという設定ながら、生身の身体の力強さを中心に置いている点が興味深い。

ただ、「Armageddon」では、バーチャルなaespa像と生身の身体を融合させていくような試みも見られた。人体の流動性を表現したかのような「リック・オウエンス(RICK OWENS)」使いのスタイリングは素晴らしく、メイクアップアーティストのJo Eun Bee、ヘアスタイリストのYoon Seoha、ネイルアーティストのSumee Wooも含めた「Armageddon」時のスタイリストチームは、aespaのみならずSMエンタテイメントのビジュアルクリエイティブ史上においても最高傑作の布陣の一つに数えられるのではないだろうか。


もちろん、Anna Parkの他にも現体制のaespaはさまざまな優れたスタイリストとバラエティーに富んだ作品を作り上げている。日本デビュー曲「Hot Mess」ではスタイリストにWoo Min Leeがクレジットされているが、引き続き「ドールズキル」系のアイテムが勢ぞろいだった。ニンニンの「エルフリック エデン(AELFRIC EDEN)」のぬいぐるみトートや「フィアス(CFIERCE)」のレッグウォーマー、カリナの「サンセットパーク(SUNSET PARK)」のウサギのパールチョーカーに「セイモオンド(SAMO ONDOH)」のバックパックなど、原宿カルチャーを取り入れたカラフルな遊び心がいっぱい。才能あるスタイリストとともに驚きの世界観を創造し続けるaespaは、次の10月21日カムバックの際には、どのような夢を生み出すのだろう? その際には、ぜひスタイリストの手腕にも注目したい。

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