毎週発行している「WWDJAPAN」は、ファッション&ビューティの潮流やムーブメントの分析、ニュースの深堀りなどを通じて、業界の面白さ・奥深さを提供しています。巻頭特集では特に注目のキーワードやカテゴリー、市場をテーマに、業界活性化を図るべく熱いメッセージを発信。ここでは、そんな特集を担当記者がざっくばらんに振り返ります。(この記事は「WWDJAPAN」2024年 9月16日号からの抜粋です)
利川:2025年春夏の東コレは、それぞれのブランドが“らしさ”をじわじわと拡張していました。特集では大きく2つの傾向としてまとめています。1つはクリエイションによって、アイデンティティーをより色濃くしたブランド群。お笑いを取り入れたり、映画を作ったり、見せ方で表現を先鋭化していたブランドも含みます。もう1つは、デザイナーが自分たちのストーリーを紡いでいるブランド。日本で生活している私たちにとって、デザイナーの考えていることが共感しやすいのが、東コレの大きな魅力でもありますが、今季はデザイナー個人の経験や疑問を掘り下げた、ストーリー性の高いコレクションが多かったです。
大塚:そのストーリー性に共感する世代がいるのは理解しつつ、今の市場で売れるかは分からないな、とシビアな目線で見ることもわれわれは必要ですね。ベストコレクションはどれでしたか?
利川:「ピリングス(PILLINGS)」です。バルキーな手編みニットがアイコンのセーターブランドというイメージでしたが、サザビーリーグ傘下になったことで、機械編みのシアーなニットの他に布帛のパンツも作り始めていて、ラインアップが広がっていました。デザイナー自身が内向的な人で、彼の物の見方がコレクションににじみ出ており、ブランドの表現の幅が広がっていました。大塚さんはどのブランドが良かったですか?
後進を育てるムードを感じた
大塚:「テルマ(TELMA)」が印象的でした。スタイリストやメイクアップアーティストらのクリエイターが、それぞれの視点で「テルマ」を解釈し、ブランドを進化させていました。デザイナーの中島輝道さんは素材や柄など細部の作り込みが強みですが、ショーをやったことでブランドが外からどう見えるか、いろいろな気づきがあったのではないかと感じました。「テルマ」は今回のショーがきっかけで世界観を広げる可能性があり、これからの成長に期待しています。
利川:なるほど。そんなふうに見ていたんですね。今季は「サルバム(SULVAM)」が文化服装学院の生徒と協業するなど、後進を育てるムードの強まりも感じました。
大塚:そうですね。海外のファッション・ウイークではよくファッションの学校のショーも公式スケジュールに入っていますが、東コレにマロニエファッションデザイン専門学校の名を見つけて驚きました。将来を期待させるコレクションを見ることができました。