「ジーユー(GU)」は、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」とのコラボレーション第4弾を9月27日に発売する。それに先立ち、アメリカでは一足早く19日にニューヨークのソーホー地区にオープンする旗艦店とオンラインで販売がスタート。「アンダーカバー」と言えば、パリでショーを行って20年以上になるベテランだ。今年5月から9月までニューヨークのメトロポリタン美術館で開かれていた「眠れる美への追憶──ファッションがふたたび目覚めるとき(Sleeping Beauties: Reawakening Fashion)」展では、光るテラリウムドレス(2024年春夏ウィメンズコレクション)が展示され、このドレスが同展のメインイメージに使用されるなど、業界内でも注目度は高い。
トレードマークにもなりつつある、つばひろの帽子にべっ甲の眼鏡、自分でカスタマイズした白シャツという出立ちで高橋氏はインタビューに現れた。今回の「ジーユー」とのコラボレーション第4弾のため、10年ぶりに弾丸でニューヨークを訪れたという。
「ちょうどニューヨークに着いた2日前にメトロポリタンの展示の会期が終わってしまっていたんです」と少々残念そうだ。カスタマイズしたシャツについて質問を投げると「葉山のアトリエの近くで買ったシャツに、2024-25年のメンズのテーマである『ツイン・ピークス』のジャカードパッチを自分で付けたんです」。そう語る語り口調は淡々として落ち着いている。「アートギャラリーを見たかったんですが、時間がないかな。でも、さっき少し外を歩いたけど、それだけでも街から得るものは多いんですよね」。同氏は「アンダーカバー」だけでなく、近年は画家として脚光を浴びることも多く、アーティストとして活動の場を広げている。
日常にノイズをプラス
ーーコラボレーションのテーマである“KOSMIK/NOISE”やコラボレーション商品について教えてください。
高橋盾「アンダーカバー」デザイナー(以下、高橋):“KOSMIK/NOISE”とはテーマ通りで、日常にちょっとした刺激やノイズを加えた、デイリーウェアをツイストしたものにしたかったんです。日常にちょっとした刺激があるものを着ている、そういう感覚で楽しんでもらえたら。「ジーユー」とのコラボレーションは毎回テーマを変えていくというよりは、ベーシックなデイリーウェアを「アンダーカバー」的な解釈でツイストしていくというデザインコンセプトがベースにあります。「アンダーカバー」のデザインを入れつつも、今までわれわれを知らなかった人たちにも着てもらえる、程よくツイストの入った商品です。
コラボレーションコレクションはスパイスの入れ方が難しい。「アンダーカバー」のように直球のクリエーションをデザインに落とし込んでしまうと強すぎるものになってしまう。そこを客観的に見て、どういうものに仕上げていくかをいつも考えています。
ーー24-25年秋冬のウィメンズ「アンダーカバー」のコレクションも日常にフォーカスしていましたが、高橋さんの中で”日常”というキーワードが今、気になっているのでしょうか?
高橋:自分の中のムードがそれに近いのかもしれません。昔から日常着をどう新しいものにしていくかという実験的なことはずっとやっていて、そこは一貫して「アンダーカバー」のデザインテーマでもあります。葉山(神奈川)に2拠点目を構えてからはライフスタイルも大きく変わってきました。例えば自分の着飾り方もだいぶ落ち着いてきていると思う。でも、だからと言って落ち着いたものを作るのわけではない。デザインのひねり方やスパイスの入れ方は変わってきたんだと思います。
ーー高橋さんにとって「ジーユー」とはどういうイメージのブランドですか?
高橋:元々「ユニクロ(UNIQLO)」とのコラボレーションをやっていたのですが、「ジーユー」は「ユニクロ」よりもデザイン性が加わっていて、今の時代の雰囲気を捉えたモノ作りをしているブランドという認識があります。スタッフの方と打ち合わせをしていても、今の時代の空気感をつかんだMDプランを組み立てているし、「アンダーカバー」の解釈や研究もしっかりとしている。コラボレーション商品のどこにどういうテイストを入れ込むか、という具体的な提案や意見を出してくれました。
ーー「ジーユー」との間で、企画はどのように進めたのでしょうか?
高橋:まずは「ジーユー」のMDプランをいただいて、そこに対してどういうデザインを作り上げていくかを話し合いながら決めて行きました。「アンダーカバー」のデザイン的な手法やポイントをしっかり押さえてくれているので、その引き出しの中から「このアイテムにはこの手法を使ってはどうか?」など、具体的な提案がありました。それに対して「このデザインはこのままで」とか、「このデザインは変えていきましょう」という感じでセッションしながら細かく詰めていきました。でも、「ジーユー」と「アンダーカバー」って意外と共通点が多いんですよ。僕自身、本来ベーシックなものが好きだし、「ジーユー」と「アンダーカバー」のカラーパレットも似ています。ですから、そこに自分たちなりのスパイスを入れていくという作業でした。
スタジャンや自分が初めてパリコレで発表したときに入れたタトゥーと同じ柄をデザインしたトラックスーツは本当にベーシックだけど、少しだけツイストを効かせています。トラックスーツのパンツは裾をアジャストできて靴も変えて楽しめるようになっていますし、脱着可能にするコートやデニムのギミックなんかも「アンダーカバー」で使うテクニックです。でも、デニムのシルエットは「ジーユー」のものだったり、両者を融合して着やすいデザインに仕上げています。
ーー素材もしっかりしたものを使っている印象を受けました。出来栄えはどうでしたか?
高橋:この値段でクオリティーの面でもここまでやられちゃうと参っちゃいますよね。冗談抜きで本当にびっくりするクオリティーです。今後のコラボレーションではエレガントなものだったり、カジュアルすぎないものにも挑戦してみたいですね。そういうものがあってもいいんじゃないかなと思っています。
「継続してきたことがようやく定着してきた」
ーーブランドを継続していく中で、近年「アンダーカバー」の評価は、メトロポリタンでの展示しかり業界の中で熱気を帯びてきています。それはなぜだと感じますか?
高橋:何ででしょう(笑)。純粋に面白いもの、自分が興味のあるものに対してモノ作りをするという姿勢を崩していないからでしょうか。この時代だから余計そういうブランドが少なくなってきている気がします。ビジネスベースでモノを作っていくのも大事なことだとは思うんですが、そこに自分たちにしかできないオリジナリティーのあるクリエイションを発表していくこと。それをパリでも20年やってきて、ようやくそれが定着してきたのかなと。嬉しいことですよね。
ーー日本人の若手デザイナーたちは、近年んあまり世界に飛び出していっていない印象を受けます。日本の若手デザイナーに向けてメッセージはありますか?
高橋:今の時代だと、自分がパリにわざわざ行ってショーをしなくてもSNSを使ってワールドワイドなことが出来るじゃないですか。それが主流であれば(日本で発表を続けても)世界に出ていないわけではないし、時代に合ったやり方をすればいいと思います。パリコレに参加することだけが世界に出ることではないし、やり方は色々あります。
自分はパリに行ってコレクションを発表することに変わりはないのですが、若い人たちの動きを見るとSNS上で発表するのが主流になっている。時代は変わったなぁとは思いますよね。SNSで見せることがメインだと、デザインというよりは、どれだけキャッチーに伝えられたかの良し悪しみたいな話にもなってくる。われわれももちろんSNSは活用しますが、自分たちにしかできないデザインを届けていければ、今の時代、SNSのようなツールがあったとしても自分たちは自分たちのやり方があると思っています。
ーー最近画家としても活躍されていますが、絵のコンセプトや、絵を描くことは高橋さんにとってどのような位置付けですか?
高橋:息抜きにはなっていると思いますし、自分の内側にあるものを表現するクリエーションの一部だと思います。ファッションは絵に比べて制限が多い。絵は何でもありなので、何でもありすぎて、どうまとめていくかを考えると、意外とファッションをデザインすの過程に近いんです。
僕の絵のダークな世界観は「アンダーカバー」に通じるところがあります。日常着にどうアレンジを加えているかに近い作業。自分の生活で起こっていることや世の中で起こっていること、混沌とした世界の状況が絵に表れている。自分と世の中の距離感が絵に反映されていると思います。ファッションデザインを洗練されたものにするにはクリエイションのいろんなアウトプットがあった方がいい。ファッションのデザインでできないことを他のアート活動で見せているんだと思います。