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「シーイン」の模倣疑惑、日本のクリエイターが告発

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ファンタジー作家としてアクセサリーや絵画を発表している星野夜さんは9月1日、中国の「シーイン(SHEIN)」に対し、SNSを通じて自作品の指輪の「偽物を販売している」として告発した。「シーイン」は、ネット通販サイトを通じ中国から個人に直接販売する「越境ECモデル」で急成長し、売上高が450億ドル(約6.4兆円)に達しているとも言われる。世界最大のSPAアパレルの一つに成長した「シーイン」だが、これまでも複数のブランドやクリエイターから「模倣品」の裁判を起こされてきた。個人、あるいは小規模なクリエイターやブランドは、巨大企業の「模倣疑惑」にどう対抗すべきなのか。

告発投稿は1.8万リツイート、5.8万いいね

星野さんは8月30日、ファンからのDMで「シーイン」が、自らの作品「翼をなくした天使のリング」そっくりのアイテムを販売していることを知った。「翼をなくした天使のリング」は星野さんの代表的な作品で、4月13日に自身のツイッターとインスタグラムで発表。同日にはECサイト「星屑美術館」での販売を開始し、アトリエのある台東デザイナーズビレッジのアトリエでの即売会も行っていた。「翼をなくした天使のリング」の価格は3万8800円。対して「シーイン」は、わずか232円。100分の1以下の価格で販売していた。

星野さんは「実は6月にも、あるフォロワーから『RED(小紅書)』でコピー品が売られているとDMが来ていた。そのときは『RED』なら日本の人がほとんど見ていないからいいかなと放置していたんです」と振り返る。

「翼をなくした天使のリング」は、星野さんがストーリーを考え、自らマンガを描き、その中に出てくるモチーフをベースにした作品だった。星野さんは常にストーリーの書き起こしの過程からSNSで発信しており、「翼をなくした天使のリング」も3月15日にはラフをSNSで公開していた。リングの正面部分は教会の門に、星の中の眼球がチェーンでぶら下がり、左右には2つの月がはめ込まれ、リングの曲面に沿うように左右に4枚の天使の羽根がモチーフとして施されている。一見すると普遍的なゴシックのモチーフでありながら、凝ったディテール細部は明らかに独自に作り込んでいるもの。星野さんが告発した「シーイン」の「模倣品」には、こうしたディテールがほぼそのまま使われている。

フォロワーからのDMを受けて、星野さんは自身のX(旧ツイッター、@hosino_16_)とインスタグラム(@hosino_16_)での「告発」という手段を取ることにした。「法的手段や裁判に訴えることも検討しましたが、長い時間をかけても販売停止か、よくてもかかった費用をカバーできる程度だと聞きました。掛ける手間と時間に対して得るものが少なすぎる。ならば、SNSで告発しようと思ったんです」。
 星野さんが9月1日、Xに投稿すると、5.8万いいねと1.8万回のリツイートで830万回表示された。星野さんの狙いは「私の作品だと勘違いして購入してしまう人に注意を呼びかけること」。投稿には「拡散のお願い」と共に「私が制作している装身具には 生きづらさを抱えている方、人生に引っ掛かりを感じている方が、より自分らしく生きるためのお手伝いがしたいという思いを込めています」というブランドのステートメントを載せたのみ。「シーイン」への異議申し立てなどは書いていない。「もちろん怒ろうと思えば怒れる。でもそれって無駄じゃないですか。たった一人でやっている活動なので私の持てる力も時間を限られている。なので気持ちとしては投稿に書いた通り。拡散されたときにたくさんの人に『より自分らしく生きること』、その重要性を訴えようと思った」。

星野さんは知らなかったが、拡散されたことで、投稿を見た人から「シーイン」だけでなく、同じく越境ECの「アリババエクスプレス(アリエク)」や、米国のハンドメイドEC「エッツィー(Etsy)」、同じく日本のハンドメードEC「クリーマ」でも販売されている情報が寄せられた。

「星屑美術館」にはファンに見やすいよう、「翼をなくした天使のリング」を正面や横、後ろから見た角度の画像を掲載していた。星野さんも「ある程度3Dプリンターや3Dデザインソフトを扱える人ならば、模倣品の製造と販売はそう難しくはない」と語る。「シーイン」以外にも模倣品が広がったのは、6月の時点で中国の工場が金型を制作し、複数の販路を通じて販売していたためと見られる。

「シーイン」はこれまでも、有力ブランドや個人のアーティスト・クリエイターから、「コピー品」販売で提訴されてきた(表参照)。それでも収まらないのは、そのビジネスモデル自体にある。「シーイン」や「アリエク」は、中国の広州や深圳など小規模な製造業者が数万単位で集積した産地で製造している。両社の特徴は、膨大なサプライヤーから調達した商品を自社のサイトに掲載し、売れたものだけを爆速で追加して販売する「超速サプライチェーン」にある。「シーイン」や「アリエク」に納入するサプライヤーは同時に、米国の「エッツィー」や日本の「クリーマ」といったハンドメードECに出店する個人や業者にも卸しており、星野さんの模倣品もこうしたルートで流れた可能性が高い。

星野さんは現時点で「シーイン」以外に関しても販売差し止めや法的手段に訴える予定はないという。なお、「シーイン」と「クリーマ」はすでにサイトから模倣品を取り下げている。星野さんは今でも「星屑美術館」に「翼をなくした天使のリング」の画像を変わらず掲載している。「ファンに作品をできるだけきちんと届けたいと思ってきた。今後もそれは変わりません」。
 
なお「シーイン」に、この件の回答を求めたところ、期限までに回答はなかった。

他ブランドやクリエイターによる「シーイン」提訴の一例

20年11月
「ドクターマーチン」の製造業者が模倣品販売で提訴
22年3月
「ステューシー」運営会社が商標権侵害で提訴
22年6月
米国のアーティスト、マギー・スティーブンソンが著作権侵害で提訴
22年8月
LA在住のアーティスト、ジェニファー・スタークが
著作権侵害で損害賠償を求めて提訴
23年7月
「H&M」が著作権侵害などで提訴
23年5月
3人のアーティストがコピー品を販売したとして著作権侵害で提訴
24年1月
「ユニクロ」が人気商品の「ラウンドミニショルダーバッグ」の模倣品販売で販売停止や損害賠償を求めて提訴

専門家は「模倣被害、個人や小規模ブランドは『泣き寝入り』のケースもある」と指摘

PROFILE: 海老澤美幸 三村小松法律事務所 弁護士

海老澤美幸<br />
三村小松法律事務所 弁護士
PROFILE: PROFILE:(えびさわ・みゆき)1998年自治省(現・総務省)入省。99年宝島社や「エル・ジャポン」で編集者として活動。2017年に弁護士登録、第二東京弁護士会所属。19年から現職。ファッションローに注力しながら、知財戦略から契約交渉、労働問題まで幅広く取り組む

個人や中小規模のクリエイターは、こうした「模倣品被害」にどう立ち向かうべきなのか。ファッションエディターであり、ファッションローに取り組んできた海老澤美幸・弁護士に聞いた。

本件で問題となっている指輪のデザインは彫刻のように凝っており、鑑賞の対象となるような創作的なデザインといえ、著作権で保護される可能性がある。また、不正競争防止法2条1項3号は、国内で販売を開始してから3年以内であれば、いわゆる“デッドコピー”と呼ばれるデザイン模倣から保護する法律だ。写真を見る限り、本件は丸パクリに近いと考えられ、これらの権利や法律を根拠に損害賠償請求などをできると考えられる。

自分の作品や商品が模倣被害に遭ったと考える場合、一般的には弁護士に相談したうえで、模倣品を販売しているサイトや個人に対して警告書を送って掲載・販売の中止や損害の賠償を求めたり、訴訟に進むこともある。しかし、個人のクリエイターや小規模ブランドにとっては、時間的にも金銭的にも負担が大きく、泣き寝入りせざるを得ないケースも多いのが現状だ。また、昨今は個人の出品者も多く、出品者に対して措置を取ってもおおもとの製造者を特定することが難しく、根本的な解決にならないことも多い。

他方、対応せず放置した場合は類似品が多く出回り、その結果、「ありふれたデザイン」とみなされて、将来的に法的措置を取ろうと思っても対応する術がなくなる恐れもある。すべからく対応できなくとも、模倣品に関する連絡窓口を設けているプラットフォームなどに対しては掲載取り下げを要請するなど、できる範囲で対応することが望ましい。

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