サステナビリティ

明るい魂の叫び「そうだ、産地に行こう!」に感化され 秋はオープンファクトリーへ【向千鶴サステナDが行く】


向千鶴サステナビリティ・ディレクターによる連載では、文字通りサステナビリティ×ファッションをテーマにした取材を通じて出会った人や物、ちょっとした気づきをピックアップしています。今回は「セッチュウ」のデザイナーや服作りを学ぶ中高生、「パタゴニア(PATAGONIA)」のリジェネラティブ・オーガニック認証パスタ、元気いっぱいな全国の繊維産地の方たちなどが登場します。

2人のジェントルマンが麻布台ヒルズで再会

桑田「セッチュウ」デザイナーとイムラン「BoF」CEOとお茶をする(8/7)


イタリア在住の桑田悟史「セッチュウ(SETCHU)」デザイナーが来日との情報を聞きつけ、会いに行きました。目的は9月9日発売のサステナビリティ特集「How to be a Sustainable Apparel」用の取材です。桑田デザイナーが考えるサステナブルな服作りとは?とか、イタリア各地の工場とつながり持ちモノづくりをするなかで、厳しさを増す欧州のサステナビリティ関連の法規制にどう対応しているのか?などをうかがうためです。ジェントルマン、桑田さんが着ている和紙デニムについてなど根掘り葉掘り聞いたロングインタビューは貴重。この記事の下にある関連記事リンクからぜひお読みください。
同タイミングで、英国のファッションビジネスメディア「BoF(Business of Fashion)」のイムラン・アーメド(Imran Armed)創業者/CEOから「日本に行くからお茶しよう」と連絡をもらったので「せっかくなら」と桑田さんと麻布台ヒルズで一瞬合流。桑田さんは「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」のグランプリを受賞しており、イムランはその審査員ということで旧知でしたが、日本で会うのはまた一つ意味があったよう。イムランとは半年前のパリコレで隣の席になったときに雑談し「日本に行くときに連絡するね」からお茶が実現。さすが記者、フットワークが軽い!ヨーロッパのサステナ事情などを教えてもらいました。

台東区鳥越に癒しのサステナランチスポット発見

循環をテーマにしたカフェでランチ(8/23)

台東区鳥越で遅い時間でも駆け込めるランチスポットを見つけました。「ELAB」は「循環する暮らし」をキーワードに地元野菜を生かしたカレーなどがおいしいく、思わず(?)昼からナチュールワインもいただいたり。ケータリングサービスもあるそうで撮影などに良さそうです。カフェの奥にもワークショップなどを開けるサロン的スペースがあり居心地よいです。

ここからは新しい何かがきっと生まれる

“クリエイティブ・ベース” TEN10移転オープン(8/23)

TEN10(テン)が拠点を渋谷区・上原に移転・オープンし、そのレセプションへ。なんでしょ、ここ。新しい何かがあります。運営する志賀光プロデューサーのことは長く「PR」として認識して、東京コレクションのショー会場や展示会で山ほどアテンドしてもらってきました。でもTEN10はいわゆるPR会社の枠には収まらず、このスペースは従来のショールームとは明らかに違います。

事務所機能に加えて撮影や展示ができる空間があり、ミシンもあって衣装制作を行うラボでもあるという。「創造空間」の表現がぴったり。ここにスタイリストやカメラマン、アーティストなどおもしろい人やファッションが集まり、共有され、ムーブメントが生まれる様子が目に浮かぶようです。御影石の廊下は品があり天井が高く、なんだかガランとしていて心地よく、その余白に新しい物事が流れ込んできそうな気配です。空間って大事ですね。

中高校生対象のエシカルに関する連続講座

「TOKYO エシカルファッションチャレンジ」(8/26)

東京都が主催する中学・高校生を対象とした服作りのワークショップ「TOKYOエシカル」をのぞいてきました。タイトル通り“エシカル”な素材を使って、ターゲット設定からアイデア出し、製品の広め方までプロからレクチャーを受ける、少人数制・全8回のワークショップがなんともぜいたく!私が受けたいくらい(笑)。自分が高校生の頃は、雑誌の付録の型紙とユザワヤで買った生地を使って服を作ったものです。

このイベントの目的は“エシカル消費”の認知拡大と行動変容、とのことですが、なぜ題材にファッションが選ばれたのでしょうか?来場していた鈴木智也生活文化スポーツ局消費者情報統括担当課長いわく「“エシカル”は半数の人は“知っている”けれど、その意味も知っている人は1~2割程度。より踏み込んだ理解が必要。ファッションはすそ野が広く、中高生の段階で深く学んでもらうことで行動につなげてもらえたら」とのこと。レクチャーの内容は大人が展示会で聞くような本格的なもの。その分、聞き手の学生たちも真剣です。その容赦ナシな本気度がよい、と思いました。

“正しいこと”という小さな石が波紋を作る

「パタゴニア」のリジェネラティブ・オーガニック認証パスタ発表会(8/29)

「パタゴニア(PATAGONIA)」が世界初となる、リジェネラティブ・オーガニック認証を取得したオーガニックパスタを発売し、そのお披露目を麻布台ヒルズにある大人気レストラン「Pizza 4P's Tokyo」で行いました。「お腹を空かせてきてね」の案内を本気で受け取り、空腹でお邪魔。有機栽培のデュラム小麦と有機カーンザだけを使ったパスタはかめばかむほど味が濃くなり大満足。

3種類のパスタを堪能したあとは、近藤勝宏パタゴニア プロビジョンズ ディレクターと久保田和4P’s グローバルブランド ディレクターによるトークセッション、題して「食から始まる環境社会の変革についてのトークセッション&オーガニックパスタ試食会」です。

パタゴニアの取材では「品質」という言葉をよく聞きます。登山道具という、命を守る道具にルーツを持つパタゴニアにとって品質は何にも変えがたち製品の価値であり、同認証はいわばその「品質」の証です。同認証には、土壌の健全性、労働者の公平性、動物の福祉という3つの柱があり「食べることで美味しく、身体の健康や大地の回復にもつながる」と近藤ディレクター。嬉しいことです!

「Pizza 4P's」は、日本人が2012年にベトナムで起業し、現在はベトナム、カンボジア、インド、インドネシア、日本の5カ国に42店舗を展開している美味しくてサステナブルな注目のレストランです。ベトナムで外食産業としては初めて環境インパクトレポートを出し、ゴミの量やパッケージの素材、地産地消など実践内容を詳細に公表しています。「パタゴニアはずっとベンチマークしてきた。僕らもリジェネラティブの考え方をレストランを通じて伝えて行きたい」と久保田ディレクター。

オーガニック食材は価格が高くなりがち、の課題について久保田ディレクターは「オーガニックが広がらないと価格も下がらないから、先陣を切ってマーケットを作っている。仲間が増えれば価格も下がり利益も出るから長期的な視点で僕らだけではなく全体でマーケットを作ってゆきたい」と言います。これには近藤ディレクターも深く頷き「まったく同じ。僕らは波紋を呼ぶ石になりたい。小さな石も水に投げ込めば波紋をよぶ。社会全体が“正しいことをやってみよう”となることを期待している」とのこと。ちなみに、「パタゴニアの創業者のイボン・シュイナードもプロビジョンズの製品の中でもパスタが特にお気に入り」だそう。

「昔話はもういい。もっぺんやり直そう」

繊維産地オープンファクトリーキックオフイベント(8/29)

今秋、全国の繊維産地でオープンファクトリーのイベントが開催されます。そのキックオフイベントが文化学園で開かれたのですが、やや遅れて会場に着くと広い教室が満員で熱気に溢れています。仕掛け人である宮浦晋哉 糸編代表の明るく軽妙な進行で各産地担当者たちのピッチが繰り広げられました。日本にはたくさんの繊維産地がありますが、それぞれの特徴を短時間でザッとインプットできる機会はあまりないから、これは貴重です。そして担当者たちがおし並べて明るい(特に尾州)から、話を聞いていると元気が出てきます。

多くの産地で今、世代交代が進み、次世代が活躍を始めています。そのうちの一つ、西脇・多可の担当者の言葉が印象的でした。「僕らは良い時は知らないから、ここから上がるしかない」。ちなみに、西脇・多可は、産地全体の年間生産量がピーク時の8.8%(91.2%減)です。これは文字通り「激減」です。ですが、彼らは「昔話はもういい。もっぺんやり直そう」と言います。

日本全国、ほとんどの産地が後継者不足という大問題を抱えています。それに対してメディアは「風前の灯」なんて表現をしがちです。私もこれまでそうでした。でもそれってとても失礼な話でした。危機感を無駄に煽るだけで具体的なアクションを起こさなければ役にも立たない。それよりも暴風を受けながらも繋ぎ盛り上げようとしている人たちの技術や製品、声を少しでも伝えることのほうが微力ながら役に立てるかもしれない、と思うようになりました。自戒を込めて、とはまさにこのことです。

オープンファクトリーの予定は下記の通りです。(米沢は終わってしまいました。記事にしたので記事したのリンクからぜひ読んでください)

山形県米沢市9月12〜14日 「360°よねざわオープンファクトリー」
愛知県知多市9月27日〜10月19日「CHITAMOMENT」
広島県福山市10月4〜5日「DENIM EXPO」
山梨県富士吉田市10月19〜20日「ハタオリマチフェスティバル」
愛知県一宮市 10月25〜26日「ひつじサミット尾州」
兵庫県西脇市・多可町10月26〜27日「西脇・多可オープンファクトリー“もっぺん”」
新潟県五泉市11月16〜17日「五泉ニットフェス」

宮浦さん曰く「こういうイベントは作る裏方の方々とても苦労しているのを見ているし、来年も同じプログラムがあるかどうかわからないので、気になるところがあればぜひ2024年のうちにお見逃しなくです」。表現は柔らかいけれどこれは魂の叫びです。

ファッション表現の制作現場で考えるサステナ

9月9日号サステナビリティ特集表紙撮影(8/30)


この日は9月9日号サステナビリティ特集の表紙撮影でした。そもそもこの撮影、編集部のサステナチームの一人、皆合記者が「ファッション表現におけるサステナビリティとは?」との問いを立てたところからスタート。環境配慮型の素材を使った服であっても、それを「伝える」撮影の制作現場で環境配慮が語られることは少ないという矛盾が生じているからです。
そこで、撮影スタジオは今年1月に東京・清澄白河にオープンした循環型ギャラリー&スタジオ「ソイルメイツ スタジオ」を選び、サステナビリティに関心がありアクションを起こしているクリエイターに集まってもらいました。メンバーは、フォトグラファーのRIKKIさん、メイクアップアーティスト&ビューティディレクターのMICHIRUさん、ヘアスタイリストのJUN GOTOさん、スタイリストの木村舞子さん。そしてモデルを務めたのは、俳優で映画監督でもある岡本多緒さんです。岡本さんは、「アボード・オブ・スノー」共同クリエイティブ・ディレクター兼サステナビリティ・アンバサダーも務めています。撮影後に行った4人の座談会はぜひ記事をお読みください。

AIなどデジタルでの表現も可能な今、人が集まり、エネルギーを使いながらファッションビジュアルを製作する意味・意義は「絶対ある」と私は思います。リアルに人が集まり、手を使ったヘアメイク作りやモデルの動きが醸し出すことでしから生まれない美があるから。だからといって、1回使っただけの背景紙を廃棄するようなビジネスモデルや慣習に対してはノー。変えられことが必ずあるはず。思考を停止しないこと、ですね。

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