PROFILE: ユ・ボラ/脚本家
第5次と呼ばれる韓流ブームが到来している。もはや韓流は一過性のブームではなくスタンダードであり、日本のZ世代の「韓国化」現象にもつながっているのは明白だ。その韓流人気をけん引してきた1つが韓国ドラマ。本企画では有名韓国ドラマの脚本家にスポットを当て、物語の背景やキャラクター、ファッションに至るまでの知られざる話などを紹介する。
Vol.3は、「ただ愛する仲」や「あなたに似た人」など、人気恋愛ドラマの名手として知られるユ・ボラが登場。社会問題とメロドラマを巧みに織り混ぜなからエンターテインメントに落とし込んだ作品に定評のあるボラに、現代の韓国人女性のライフスタイルや知られざる過去の女性活動家たちの存在、今描きたいラブストーリーについて語ってもらった。
――今回のインタビュー集で「並外れた能力の持ち主が物事をすべて解決していくストーリーよりも、まるで違う2人が、欠けた部分をも尊重し補い合っていくストーリーが好きだ」と言っています。女性の生き方が多様化する現代において、今はどのような2人の女性を書きたいですか?
ユ・ボラ(以下、ボラ):私は常にどんな物語を描くことができるのかを考えています。今は子供が欲しい、あるいは欲しいのにできない女性と、子供が欲しいとは考えてはいない女性たちの物語を書いてみたいです。日本も似た状況だと思いますが、韓国では出生率の低下が問題でソウルでは0.55です。一方で、不妊治療件数が増加している点にも注目しています。
――日本でも、韓国のフェミニスト小説や映画が非常に人気で、日本の女性たちに影響を与えています。
ボラ:韓国だけではないかもしれませんが、国内のフェミニズムを取り巻く問題に関して、まず“フェミニズム“という言葉自体が男性に対する攻撃のように受け取られがちで「あなたはフェミニストか」などと揶揄する風潮があります。そもそもフェミニズムは、女性の権利を擁護し、平等な社会を目指す運動なのに、男性が元々持っている権利を(女性が)奪っていくような行為だと勘違いされているため、多くの女性たちは SNSなどで声をあげて運動をしています。
女性の権利が比較的充実していると言われるアイスランドで、 女性たちが権利を得るためのデモが24時間行われたというニュースを見ました。韓国でも過去に、女性たちが参政権を得るために社会運動をしていました。当時は「過激だ」とやや批判するような声もありましたが、選挙権という当然の権利を得るための重要な活動でした。多分、今起こっている活動をずっと先の未来で見たら、それは当然のことをしているだけだと受け入れられるでしょう。現代の韓国の女性たちの行動は、何か特別なものというよりも時代の流れでそうなってきているに過ぎません。
――「忘れ去られた女性活動家たち」の話を書きたいそうですが、どのようにしてその女性たちを知ったのですか?
ボラ:歴史学者たちがまとめた韓国の運動家を紹介する歴史書で知りました。1980年代に出版されたそういった本の中で主に紹介されているのは男性の独立運動家で、女性活動家はページの端に活動期間が紹介されているだけでした。しかし、90年代に入ると女性活動家に関する書籍が出版されるようになりました。女性活動家たちの存在が社会的に取り上げられることはほとんどなかったため、物語にしようと思いました。
――その中で、特に印象に残っている女性はいますか?
ボラ:誰か1人だけの名前を上げるのは難しいですが、特に感銘を受けたのは韓国が日本の植民地だった20〜30年代、二重差別など抑圧された状況下でも果敢に行動した女性たちです。私には到底できない生き方をしている勇敢な女性が大勢いて、活動の中で特に感動したことの1つは、教育を受けられなかった女性たちに言葉を教え、教育したことです。
――映画「雪道」では、教育を受けた少女が学校へ行くことができなかった別の少女に本を読み聞かせるシーンが出てきましたね。
ボラ:「雪道」では女性被害者の姿を描きましたが、次は何も分からなかった少女が、女性活動家たちに会い、さまざまなことを学びながら成長していく物語を書きたいです。年代は「雪道」と同じ頃になるかもしれませんが形式を大幅に変えたものを構想中です。
――ボラさんの多くの作品は、社会的に弱い立場に置かれている人を不憫な存在として扱うのではなく、同じ目線で寄り添うような優しさがあります。
ボラ:一般的な社会の視線は、社会的に弱い立場に置かれていたり、苦しい状況におかれている人を上から判断しているように感じます。もちろん当事者は苦しいと思いますが、その人たちなりの価値観があり、希望や大切なものを持っていたり、探しているはずです。脚本を描いている時は、その人の目線で物事を考えながらキャラクターを構築しています。
――社会問題をドラマとして、エンターテインメントとして描く方法について教えてください。
ボラ:現実の社会問題を反映するとき、リアリティーが強すぎるとドラマがドキュメンタリーのようになってしまいます。ドラマは俳優たちが担う部分も多いので、彼らの魅力を引き出す演出や劇作品としてのおもしろみを入れながら、多くの人たちが共感できることを意識しています。現実社会は暗くて苦しい側面もあるので、ドラマでは希望が持てるような展開をつくることを心がける部分もあります。
――キャラクターを作る上で衣装はどのように決めていますか?
ボラ:現実の人を描くときは職業に合う衣装を着せる必要があります。脚本家は登場人物の衣装のガイドラインを作ることに徹します。それを発展させるのは俳優の力です。その人物を解釈し、表現方法を模索し、演じるのは彼らですから。多くの俳優は積極的に監督と意見交換をして、役作りや演技、表現を真剣に考えています。
最近話題になったドラマの衣装に、師弟関係のラブロマンスを描いた「卒業」があります。私の作品ではありませんが、主人公の教師の衣装はとてもリアリティーがあって、その人の生き方までを表現していると大変話題になりました。
――現在韓国では、どのような恋愛ドラマが求められていると思いますか?
ボラ:現在は、多くの恋愛が出会いも別れも簡単になっているように感じるため、今こそとても切実な物語を書きたいですね。お互いに困難を乗り越え、運命でこの人しかいないという状況に強く引かれます。古臭いと感じる人がいるかもしれませんが「ロミオとジュリエット」が現代まで語り継がれている理由は、そのような恋愛が時代を超えて普遍的なものだからだと思います。ずっと自分が描きたい物語をつくってきましたが、メロドラマも好きなので、暗くて現実的な物語の中にも恋愛的な要素を入れています。
TRANSLATION:HWANG RIE
COOPERATION:HANKYOREH21,CINE21, CUON