PROFILE: ヨン・サンホ/映画監督、脚本家
第5次と呼ばれる韓流ブームが到来している。もはや韓流は一過性のブームではなくスタンダードであり、日本のZ世代の「韓国化」現象にもつながっているのは明白だ。その韓流人気をけん引してきた1つが韓国ドラマ。本企画では有名韓国ドラマの脚本家にスポットを当て、物語の背景やキャラクター、ファッションに至るまでの知られざる話などを紹介する。
Vol.4はヨン・サンホへインタビュー。代表作「新感染 ファイナル・エクスプレス」はカンヌ国際映画祭で上映され国際的な評価を獲得。「地獄が呼んでいる」はネットフリックス(NETFLIX)で大ヒットし、彼の名を世界に知らしめた。日本でもファンの多いにサンホに、現在制作中の物語や創作活動までを聞いた。
――日本の映画や漫画にも影響を受けているそうですが、今は何を読んでいますか?
ヨン・サンホ(以下、サンホ):まだ具体的な内容はお伝えできませんが、現在制作中の作品の参考資料として日本の小説や映画をみています。小説は大江健三郎の「万延元年のフットボール」や奥田英朗の「オリンピックの身代金」。映画は今村昌平の「復讐するは我にあり」や時代劇などです。
過去の日本の社会的背景や人々の情緒や感受性が知りたいですし、 日本の作品をインプットすることで韓国との違いが見えてくることが多いため読んでいます。例えば「オリンピックの身代金」は東京オリンピックが題材であり、韓国映画「上渓洞(サンゲドン)オリンピック1988」はソウルオリンピック。「上渓洞」は社会的弱者を彼らが住む地域から追い出してそこに競技場を建設しようとする話なのですが、両作品を比較しながら読んでいます。
――確立された様式に合わせることと、映画制作における新しいアプローチを模索することのバランスをどのように取っていますか?
サンホ:私は、さまざまなジャンルの垣根を越えるような作品を手掛けているんですが、ジャンルものを作る上で一定の枠組みがあると考えています。典型的な物語の枠組みの中でセオリーに習いながらも、どのような展開に新しい要素を見つけられるか。そのためには感情や感受性を磨いていくことが重要です。主人公の態度や感情を探りながら、似たような状況を取り扱っている本や映画を参考にしながら物語を構築しています。
――韓国の映像業界におけるトレンドにはどのようなものがありますか?
サンホ:最近はドラマも映画も、世界に通用するジャンルものが人気です。直感的に緊張感を与えたり、刺激的な作品などは、SNSなどで話題になるのが速いですね。
それとは別に、魅力のある物語には同時代に生きているからこその共通する感情があると思います。何かと聞かれると断定できるものではないのですが、共通する感情によって多くの人たちの心が動かされます。さまざまなものを見ながら時代を形作る感情を探しています。
――動画配信サービスの普及で、ドラマや映画の観られ方も多様になっていますね。
サンホ:OTTなどの配信サービスが発達した影響で、制作側も観客もより結果を重視する傾向にあります。自分が見たいことよりも、話題作という理由で作品を選びがち。そうではなくて、自分が物語に引かれるからその作品を見たいというような視聴者が、もう少し増えて欲しいと感じています。
今まで大規模な作品を手掛けてきましたが、小規模でも独特の雰囲気のある作品も並行して作っていきたいですね。マイナーな作品も好きなんですよ。
――キャラクターを作る上で衣装の重要性はどのように考えていますか?
サンホ:衣装やヘアスタイルはキャラクターの性格を表すものです。キャラクターのリアリティを演出するために、衣装が何度変わってもその人物だとわかる同一性とスタイルを持たせるようにしています。
――ゾンビやSF、信仰などさまざまなジャンルの作品を手掛けていますが、必要な素材はどのように集めていますか?
サンホ:興味があるのは人間が生きるか死ぬかという究極の選択や、大切な人を守るために何かを犠牲にする状況に置かれた時の選択です。その動機はさまざまで、ある人にとってはアイデンティティーであり、ある人にとっては愛だったりする。信仰も選択の1つであり、何かを決断するときの基準になります。その状況での心情や英雄的な行動や、自己犠牲の精神などのヒロイズムを考えた上で、物語を構築する段階でゾンビやSFなどのジャンルと結合させます。最初に少しお話しましたが、日本の方々にも楽しんでもらえる作品を制作中ですので、ご期待ください。
TRANSLATION:HWANG RIE
COOPERATION:HANKYOREH21,CINE21, CUON