2025年春夏のウィメンズ・コレクションも、ニューヨーク、ロンドンが終わり、いよいよミラノ。朝9時から夜9時、時には夜10時まで、2人で最大1日20件の取材をしながら、合間合間で原稿を送り合い、コレクション取材のドタバタを日記でお送りします。いよいよ「一日中ファッションショーだらけ」なDAY2がスタート。朝イチのファッションショーの前に、2つの展示会という1日が始まります。
村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):今日は「ゲラルディーニ(GHERARDINI)」の展示会でスタート。破たんしたインポーターの三崎商事から、国内バッグメーカーの老舗クイーポが事業を引き継いでいます。ポリエステルをポリウレタンコーティングする独自素材“ソフティ”を使ったバッグは、トートで6万円台〜。その軽さから、高齢の女性からの支持は圧倒的ですが、若年層の開拓が課題です。
三崎商事は日本企画だけを販売していたけれど、クイーポはまずメード・イン・イタリーのラインに注力します。そんな気合いを感じたのか、イタリア本国もレザーの型押しショルダーや、キャンバスコーティングのトートなど、アーカイブにインスピレーションを得たレザーバッグをいくつか提案していたけれど、やっぱり“ソフティ”を使ったバッグが一番魅力的に見えたかな(笑)。クイーポは、軽さや使い勝手を重視しながら、本国にバッグのアップデートをお願いしていくみたいです。
お次は「ブリオーニ(BRIONI)」。「グッチ(GUCCI)」などを擁するケリング(KERING)グループの、実はクオリティや価格で言えば最上位ブランドですね。メンズウエアを着想源としたウィメンズは、クレープ素材でトレンチコートを作ったり、シルクとコットンのダブルフェイスコートを提案したり、流れるような生地使いが本当にステキでした。「ザ・ロウ(THE ROW)」的なクワイエット・ラグジュアリーでエフォートレスなムードだけど、テーラードがベースだから、エフォートレスなのにスタイリッシュ。「温もり」とか「自由」が先行する「ザ・ロウ」に対して、「エレガント」や「キチンと感」が秀でている印象を受けました。
この時、木村さんは「ボス(BOSS)」のインタビューでしたよね。コレクション含め、誰にどんな話を聞いたの?
「ボス」のビジネスパーソンは
「早く帰って、遊びに行きたい」
木村和花「WWDJAPAN」記者(以下、木村):私は2022年から「ボス」のクリエイティブチームを率いるマルコ・ファルチョーニ(Marco Falcioni)クリエイティブ・ディレクション兼シニア・ヴァイス・プレジデントに話を聞いてきました。ショー前のバックステージでは、モデルの最終フィッティングが行われたり、いろんなところで撮影があったりとバタバタです。とにかく道を開けたがる警備員に何度も追い出されそうになりました。
ショー開始ギリギリに現れたファルチョーニ氏は、「今回も昨シーズンの”アウト・オブ・オフィス”のテーマを継続し、忙しい日常生活から離れて、自分のための時間を過ごして欲しいというメッセージを込めた」と説明します。
コレクションは、ブランドの強みであるビジネススタイルをひねりながら、そのメッセージを表現しています。例えばジャケットは、ショルダーパッドや芯地をとりのぞき、リラックスしたシルエット。カラーパレットもライトブルーやアースブラウン、ホワイト、グリーンなど落ち着いた色味が中心です。「ビジネスシーンではあまりしない色合わせ」とのことです。
「ボス」とパートナーシップを結びデザインプロセスにも関わっているというデイヴィッド・ベッカム(David Beckham)との連携についても聞きたかったのですが、時間切れでした(泣)。
ショーでは、ボストンバッグの口がかばっと開いて今にも中身がこぼれ落ちそうだったり、スーツ姿なのに背中にはヨガマットやラケットを背負っていたり、オフィスを飛び出して急いで遊びに行くビジネスパーソンをユーモラスに演出していました。
日本では大谷選手効果もあって売れているのでしょうか?
村上:大谷選手効果はもちろんですが、ラグジュアリーに比べると手頃な価格でもあり、堅調だと思います。
スーツが強いけれど、ウィメンズはもう少しデザイン性を高めたりエモくならないと売れないから、今回の見せ方は悪くなかったですよね。ただ、カバンの開け閉めで雰囲気を演出するのは、ちょっぴり反対(笑)。オンとオフの境界線が曖昧になっている様を表現するなら、開閉ではなく、バッグのデザインで表現して欲しかったです。
とはいえ、流れるようなクレープやツイル素材を多用したスプリングコートやジャケット、パンツは素敵でした。暑い中でもちゃんとしたい人々のニーズを叶える今季のリアルトレンドになりそうです。
お次は「フェンディ(FENDI)」の展示会、そして「ヘルノ(HERNO)」でしたね。最近「ヘルノ」はライフスタイルブランドとして、アウターのみならずインナーやボトムス、バッグまで提案。今季はパステルカラーのコレクションが好きだったな。少しハリのある生地のボリュームスカートも、パステルカラーに染めると途端に愛らしい。アイスブルーは、見た目にも涼やかで、これからは「ヘルノ」と春夏シーズンもお付き合いできそうです(笑)。丁寧な手仕事も垣間見えます。
混沌とした時代をノスタルジックに
「ジル サンダー」はバンクーバーに想いを
村上:お次は、「ジル サンダー(JIL SANDER)」。今回は、1970年代のバンクーバーに想いを馳せました。どうやら今に通じる混沌としたカオスな魅力があったそうで、ルーシー(Lucie)&ルーク・メイヤー(Luke Meier)夫妻は、同様にカオスなのに不穏な現代にメッセージを投げかけたかったみたい。
その上で注目したのは、写真家のグレッグ・ジラード(Greg Girard)。カナダ出身ながらキャリアの大半をアジアで過ごし、香港で暮らしたり、沖縄に通ったりしながら、写真集を出版してきたそうです。強い着想源になったのだろう作品は、後半、シルクビスコースのロングベストなどにプリントした、バンクーバーの港に停まっていた車の写真。暗い港の中でアメ車から漏れる光が、現代化が進む中で失われた古き良きものの価値を体現しているような作品です。
そこから、ノスタルジックな色使いや、光と戯れることを意識したのであろうコレクションは、玉虫色に光るセットアップや、リネンにパテントのようなコーティングのコート、大小様々なクリスタルを肩口に甲冑のようにあしらったスモッグのようなタフタのドレスなど。カナダを代表するビジネスシティなので、バッグはメタルフレームのブリーフケースが登場しました。
引き続きクリーンな素材使いと直線的なセットアップ、反対にドレープやボリュームを生かしたドレスやワンピース、そこに洋服と限りなく融合するアクセサリーなど、「ジル サンダー」が探求する世界は健在。混沌とした世界を生きるための強さとノスタルジックな懐かしさが融合したコレクションは、バンクーバーの70年代を探求したらもっと好きになれそうです。
からの「プラン C(PLAN C)」はどうでした?相変わらず、非常にキュートで愛らしいよね。
木村:私「プラン C」好きなんですよね。マニッシュとガーリーのちょうどいい塩梅が好みなんです。でもショーはしないし、展示会もラックに服を並べるだけで地味なので、あまり主張しない印象(笑)。「もっと日本の若い子たくさん着てほしい!」と思っています。
コレクションも何か大きなテーマを掲げるのではなく、シーズンの色と素材を決めて組み立てます。今季は軽やかなオーガンジーやコットンポプリンが中心。ブラック&ホワイト、ニュートラルカラーのパレットの中にオレンジを象徴的に使っています。シャツドレスやスパンコールをあしらったセットアップ、リボンブラウスなどなど、今季もかわいい。
6月にはピッティ・イマージネ・ウオモで初のメンズコレを発表しました。今回のルックは、メンズもウィメンズも垣根なくクロスオーバーさせて見せていました。
「フェンディ」から続く
オーガンジー祭り開幕
村上:お次は「デル コア(DEL CORE)」。わかりやすく、“ザ・今季”って感じでしたね。オーガンジー祭り。とにかくなんでもオーガンジーで作って、レイヤードしちゃう感じは、めちゃくちゃ新しくはないけれど、今っぽい。透けて見えるインナーも意識したレイヤードも、時流に即しています。ただ日本では、「メゾンスペシャル(MAISON SPECIAL)」あたりが24年春夏からガンガン提案しているので、もう少し工夫が欲しかったかな。
木村:「デル コア」はシーズンを重ねるごとに会場が大きくなっていて、注目度の高さが伺えます。デザイナーのダニエル・デルコア(Daniel Del Core)は、アレッサンドロ・ミケーレ時代の「グッチ(GUCCI)」でVIP衣装部門を担当するなど、ステージ衣装やレッドカーペット用のドレスを得意としています。今をときめくイット女優のアニャ・テイラー=ジョイ(Anya Taylor-Joy)がティファニー表参道のイベントで来日したときにも着用していたのが印象的でした。
今回はレディ・トゥ・ウエアなので衣装というよりは、彼の視点で作る日常着。モデルは小脇に本を抱えて歩き、とある女性の1日のような演出です。トレンチコートもワンピースも彼が作ると、静かながらどこか華やか。日常着なのに、とても存在感があるなと感じました。
磯村勇斗の期待を超えた⁉︎
セクシーでもある「オニツカタイガー」
村上:お次は「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」。アジアからのセレブが勢揃いで、会場は大混雑でした。もはや「日本ブランドの挑戦」というステージではなく、完全にミラノの常連として定着した感があります。
木村:ショーのスタート前に、俳優の磯村勇斗さんにコメントを頂きました。「ショーのどんなとこが楽しみですか?」と聞くと、「“オニツカイエロー”がどんなふうに展開されるか注目したいです」と答えてくださいました。にも関わらず、コレクションは一切イエローが出て来ず(笑)。
ブラックのランジェリーにチェスターコートを羽織ったルックや、スパンコールをあしらったライトブルーのドレスルック、「ウォルフォード(WOLFORD)」とのコラボレギンスを主役にヌードカラーでまとめたルックなど、シックで大人なコレクションでした。意外!だけど統一感はあったし、アンドレア・ポンピリオ(Andrea Pompilio)の得意なアウターがよりカッコよくて見えました。
村上:ミラノの一翼を担うには、レースを使ったランジェリーや、シースルー素材、ボディコンシャスなスタイルなどは欠かせないからね。得意のアーバンスポーツから、さらに守備範囲を広げようとしている印象を受けました。
木村:ショー終了後には、来場者みんながお土産のオニツカイエローのバックパックを背負って会場を後に。その様子が「オニツカ学校」の下校みたいで面白かったです(笑)。
あざとい!「N° 21」の
気だるいガーリーが可愛すぎる
村上:「ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)」は、その「オニツカタイガー」が目指すレースやチュールを使いながらセクシーを今っぽく表現するのが抜群にうまいし、可愛かったですね。「フェンディ」同様、こちらもガーリー路線。60年代の雰囲気を漂わせつつ、アレッサンドロ・デラクア(Alessandro dell'Acqua)らしい“気だるさ”のような、アンニュイなムードを漂わせます。コンパクトなジャケットに腰履きしたタイトスカート、ブラトップやブルマーにはベビードールドレスなシルエットのアノラックを合わせて、スパンコールのミニドレスで着飾る。大ぶりのパールネックレスに、リボン付きのぺたんこシューズ。それらが渾然一体となると、“あざとい”ほどに可愛い女の子の出来上がり!時代がクワイエット・ラグジュアリーから変わっていくのだろうムードさえ感じました。木村さんはどうだった?
木村:アレッサンドロは、外し方がうまいですよね。例えばパールのネックレスもデフォルメされているからレトロ過ぎずダサかわいいし、スモックパーカーもポケットがやたら大きくて、ビジューまでついてるからミリタリー過ぎずガーリー。疾走感のあるモデルの歩き方からも、我が道を行くかっこいいアティチュードを感じます。今シーズンはミリタリー×ガーリーの提案が多い気がしますが、その中でもやっぱり「N°21」は個性が際立っています。
「ブルネロ クチネリ」で感じる
リアル尊重主義は広がるか?
「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」は、「エコーズ・オブ・ア・ジャーニー(Echos of a Journey)」をテーマに、マリンとサファリという2つのスタイルを提案しました。ネイビーにオックスフォードブルー、差し色はレッドのマリンと、サンドやベージュなどのニュートラルカラーに深いブラウンを差したサファリ。最近は都会的でスマートなスタイルが印象的だったけれど、今回はマリンとサファリの特徴的なスタイルをかなり積極的に活用していたようです。
この辺りから、今シーズンのテーマになりそうな「リアリティ」の片鱗を感じるようになりました。デジタルに依存せず、あくまでリアルに体感したことを重んじる。そんな姿勢が、麦わら帽子にピュアホワイトのジャケット&ワイドパンツ、それにマリンボーダーのスタイルや、カットアウトしたトレンチコートにゼブラ模様のワンピースというサファリルックに現れていたように思います。手作業のマクラメを多用するなど、クリエイションにおいてもリアル主義ですね。
木村:2日目のラストショーは、「エトロ(ETRO)」。会場中央には多肉植物アガベの巨大なオブジェが。マルコ・デ・ヴィンチェンツォ(MARCO DE VINCENZO)=クリエイティブ・ディレクターは、「エトロ」の歴史をいろんな土地の文化とシンクロさせるのがお好き。今回は南米に旅をしたようです。
素材オタクのマルコはやっぱり服でストーリーを描くのが上手。例えば、太陽のように鮮やかなオレンジ色のボマージャケットとスカートセットアップは、形や透明度のことなる複数の種類のスパンコールを散りばめることで色だけに頼らず揺れる光を繊細に表現しています。裾がアシンメトリーなフリルスカートも、フリル部分の生地を複雑に繋げることでマーメイドの尾鰭のような揺れを再現します。
ただ今回のスタイリングはちょっと日本人の体型とはかけ離れていて、「着たいけれど、想像できない」というのが正直な感想でした。ゴージャスな柄のスカートに、クロップド丈のニットトップスの合わせもコレクションでみるとかわいいけども、トップス単体を購入しても、マルコのロマンチックな世界観には辿り着けないので。
要さんは今回、どうご覧になりましたか?
村上:マルコを起用したのはハンドバッグなどのアクセサリービジネスの強化と、若い世代の獲得にあります。コレクションは引き続き、健康的な肌見せや、ロング&リーンなシルエット、それをベースとしたドラマティックな布使いなど、マルコの本領を発揮しているけれど、確かに着こなすのは難しそうです。
今回、私の席の斜め向かいに、おそらく上顧客のご夫婦がいらしたんです。もちろん全身「エトロ」で、マルコが生み出したバッグを持っていらっしゃったけれど、目の前を通過するドラマチックなドレスやマキシスカートを着られるのか?と考えると、「そろそろランウエイでも、ドレスだけではなくセパレートを提案して欲しいな。ジャケット&スカートとか、ブラウスにスカートとか、いかがですか?」って思います。店頭でスタッフの皆さんが、こういうアイテムをどう着こなすのか?を一緒になって考えられると良いですね。