サバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)による2025年「グッチ」ウィメンズ・コレクションは、「さりげない壮大さ」がテーマ。サバトはちょうど1年前のデビュー・コレクションで、前任アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)のイヴニング主体の装飾主義に別れを告げて、日常着のレベルアップに尽力する姿勢を表明。結果、昨今のムーブメントとなったクワイエット・ラグジュアリーの旗振り役となったブランドは、①引き続き「神は細部に宿る」と信じてデビュー以来提案し続けるアイテムを進化、②一方で最大限に美しく見せるべく、時には豪華な装飾を厭わない姿勢で日常着を昇華、③そして、その双方の共存により「さりげなさ」の「壮大」なる世界を見せつけることで、25年春夏を、まるでクワイエット・ラグジュアリーの集大成のようなコレクションに仕上げた。
ウィメンズそっくりの24-25年秋冬メンズ・コレクションを発表した際、サバトは、「大事なことは、何度も伝える」というメッセージを発信していた。以降、彼は25年リゾート、25年春夏メンズとさらに2回、合計4回のコレクションを経て今回に至っているが、引き続き“グッチ ロッソ アンコーラ”と呼ぶ深いレッドや“ホースビット”などの色柄やモチーフ、まるでジャケットやカーディガンのように着こなすオーバーサイズのシャツやレース主体の肌見せを厭わないミニドレスなどのアイテム、そしてオーバーサイズのブルゾンにマイクロミニ丈のボトムスに代表されるスタイリングに至るまで、今回もデビュー・コレクション以降踏襲し続ける「普遍」の要素は数多い。上述の「大事なことは、何度も伝える」という姿勢は健在だ。一方、ステンカラーのコートにのせた波模様のビーズ刺繍やコンパクトなジャケットとタイトスカートの全面ミラーなど大胆な装飾を帯びたり、ペプラムを持つブルゾンやイチゴのようなフォルムのミニスカートなどシルエットが(日常性を損なわない範囲で)意匠性を帯びたりと、デイリーウエアではあるものの、デザイン性は時に極限まで高まっている。「大事なことは、何度も伝え」つつ、その「大事なもの(=クワイエット・ラグジュアリーな日常着)」のレベルは、1年間、全5回のコレクションで極限まで達した感がある。リリースには、「1年を経て、このコレクションは思考を巡る旅の完成した姿ともいえます。一瞬一瞬を大切に重ねながら、私は『グッチ』に対する自分の考えを構築してきました」とあった。おそらく、日常着のレベルアップに尽力してクワイエット・ラグジュアリーの騎手を務めるのは、今季まで。以降は、サバトによる「グッチ」の第二楽章が始まりそうな予感だ。
もう少し詳しく、「さりげない壮大さ」を3つの視点で紐解いてみよう。まず「引き続き『神は細部に宿る』と信じてデビュー以来提案し続けるアイテムを進化」させる姿勢は、徹頭徹尾感じるが、特に序盤で顕著だ。例えばタンクトップにスラウチ(肩の力を抜いてリラックして履ける)パンツのルックは、デビュー・コレクション同様に深く胸をえぐって緑・赤・緑の“ウェブ”ストライプのトリミングを飾ったタンクトップと、25年リゾートのデニムや25年春夏メンズに登場したパンツのようなシルエット&着こなし方で、前回踏襲の要素がかなり強い。ここに、“バンブー”を象ったゴールドのブレスレットを二の腕に飾った。序盤の主役は、テーラリング。コンパクトなジャケットからレザーブルゾン、脇腹にスリットを刻んだ膝丈のコートに至るまで、端正なシルエットで美しい。
するとコレクションは徐々に、「最大限に美しく見せるべく、時には豪華な装飾を厭わない姿勢で日常着を昇華」という性格を帯びてくる。中盤以降はビーズの装飾、24-25年秋冬ウィメンズ以降度々登場するレモンイエローやオレンジなどの色、そして、“ホースビット”のモチーフなどが増え、1960年代のリゾートムードを醸し出す。とは言え、コンパクトなジャケットや裾にペプラムを加えたブルゾンなどは、従来、もしくは前半に登場したシルエットのアイテムで、引き続き日常着から逸脱しないようにという意識は強い。コートやドレスには度々、大輪の花が咲いた。そしてフィナーレは、冒頭に登場したタンクトップに腰履きするデニム、そこにまるでガウンのようなマキシサイズの“GG”モチーフのコートを羽織った。トレンチやモッズ、ステンカラーコートとベーシックだが、極端なオーバーサイズにすることで、タンクトップとデニムのスタイルに迫力を備える。
こうした、シンプルに徹するアイテムやスタイルと、日常着を超えない範疇で装飾や意匠を加えたアイテムやスタイルの組み合わせで、「『さりげなさ』の『壮大』なる世界を見せつけた」印象がある今回のコレクション。だからこそ、第一楽章はエンディングを迎え、次のシーズンは新たなステージが始まるのではないか?とワクワクする。
パリは一足早く、ミラノも25年春夏は、「クワイエット・ラグジュアリーの先へ」という流れが顕著だ。