コレクションは、オーバーサイズどころか、ブカブカのジャケットを主役とするオフィススタイルで幕を開けた。ブカブカのジャケットは、子どもが背伸びをして、大人の洋服を着てみた雰囲気。そこにウィメンズでは、半身がパンツ、もう半身がスカートというボトムスを合わせる。手には、安っぽいレジ袋をポリエステルにレザーのパッチワークで模したバッグを持つ。いずれも、子どもの無邪気な発想を形にしたものだろう。マチューが思い描く子どもたちの世界では、大人も無邪気だ。グレーのジャケットに白黒のストライプ、そこにレザーのネクタイでタイドアップした男性は、子どもが背負うウサギ柄のピンクのリュックサックを背負う。ウサギは、カエルと並んで今シーズンのキーモチーフ。2種類の動物は、バッグに描かれたり、たっぷりの布を用いた洋服にブローチのようにあしらい、マチューらしい、布の動きを感じさせるスタイル作りに一役買った。
会場には、レザーで作ったゾウやニワトリ、キツネやイヌなど、15種類の動物のカバーを被せたビーズのクッションを並べた。ゲストの数は460人強というから、ショー会場には460頭もの動物と、それ以上の人間がいたことになる。マチューはノアの方舟もイメージし、動物と人間が試練や困難に立ち向かいながらも、調和して暮らすユートピアも思い描いた。子どもの純心は、こうしたユートピアに欠かせないものなのだろう。ショーには時折、動物のウサギの毛並み思わせるフィルクッペや、もっと獰猛な動物を彷彿とするハサミを入れたレザーのコートなども登場。シワを寄せたビジネスウエアは、子どもの無邪気さの象徴か?それとも洪水を方舟で乗り越えた大人たちの姿なのだろうか?
「素材の魔術師」と呼ばれるマチューの才能と、洋服のまだ見ぬ可能性を信じるケリングのアティチュードは、洋服を次の次元へと押し上げる。総スパンコールに見えるドレスは、光沢ある塗料を吹き付けたレザーに少しずつハサミを入れ、無数の突起作って生み出したもの。リネンのニットとセットアップに見えるスカートは、シルクの紐をニットのように編み、グラデーションで染めたものだ。もちろん、従来通りコットンに見えるレザーや、イントレチャートが有名なブランドゆえのジャカードも多用。これまでより装飾少ない実用性も兼ね備えたコレクションながら、見るものを飽きさせない。
マチューは、「私たちは、優しく愛らしいものの中に、力強さを見出すことができるだろうか?大胆不敵な魅力に、厳格な正確さをぶつけることは可能だろうか?あなたの中にある子ども心は、何を望むのだろう?私は今一度、ファッションの持つ根源的な魅力を、そして見ること、発見すること、装うことの喜びといった思春期の心躍る感覚を味わいたい。WOW!という驚きや喜びに満ちた力だ」と話す。「ボッテガ・ヴェネタ」を含むケリングのブランド群は現在、営業利益を大きく落とすなど、ある意味転換期を迎えている。マチューの、子どものように無邪気に洋服の未来にワクワクする気持ちと、このブランドならではの圧倒的なクラフツマンシップが状況を好転させる契機になることを願ってやまない。