吉田圭佑デザイナーによる「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」の2025年春夏コレクションは、明らかに暗かった。同ブランドのコンセプトは “明るいのか暗いのかわからない空気と、そこにいる彼らの感情と装い”。過去のトラウマを前向きに解釈した先シーズンのショーでは“明るい”の部分も感じることができたが、9月に開催したランウエイショーは、暗さに磨きがかかっていた。
ショーは、キュプラのブラウスに、同素材のペンシルスカートというファーストルックで幕を開けた。ヌーディーカラーの口紅を引いたモデルは、シルバーフレームのメガネと、ナース帽にもキャビンアテンダント帽にも見えるハットを身に着けている。開口部に錠前が付いたエコレザーのスクエアバッグに、シアーな黒タイツ、ポインテッドトーのミュールという小物使いは、禁欲的な女性教師を彷ふつとさせた。
濃縮した絶望のエッセンス
女性教師が浮かんだのは、“学校”が「ケイスケヨシダ」にとって重要な要素だからだ。学生時代にいじめを経験したという吉田デザイナーは、鬱々とした少年期を過去のコレクションで幾度も振り返っており、今季の「ケイスケヨシダ」は当時の暗い記憶を再び煮詰めたようだった。
ほとんどの女性モデルが、タイトスカートやウエストのシェイプしたドレスなどをまとい、ファーストルックと同様の“教師”スタイルに仕上げる一方で、男性モデルはショート丈のオールインワンや、小学校制服のようなショートパンツにジャケットという、少年を思わせるいで立ち。ロングソックスはタイトなガーターベルトで固定し、学校の狭い世界に押し込められる居心地の悪さを演出したかのようだった。カラーパレットはブラックやブラウン、ネイビー、グレーなどのダークトーンを基調に、教師と少年の46スタイルを披露する。「幼少期に見た大人の女性のイメージを、今もコレクションで再現している。僕はまだ大人になりきれていないのかもしれない」と吉田デザイナーは言う。
メイン素材はあえて、キュプラ
生地使いと、それを余すことなく見せる服の構造も印象的だった。裏地に用いることが一般的なキュプラをメインに用いており、ジャケットやアウターの表地と裏地の間に穴を開け、モデルが頭を通すと、キュプラの裏地がトップスになる仕組みを作った。吉田デザイナーは「一見チープに見える生地にもエレガンスを感じたから。見えないものがあらわになる様子や、チープで脆弱なものの美しさを表現したかった」と解説する。
今回のコレクションに暗さを感じたのは、BGMも一因だ 。飛行機が離陸する前のような轟音や、雷鳴、獣の鳴き声などが混ざった不穏な音であり、吉田デザイナーは、同級生で現在は音楽レーベルCMYKに所属するNomizoに「会場の全員が僕と同じ嫌な気持ちになる音楽を」と依頼したと経緯を話す。しかし、ただ絶望に叩き落としたかったわけではない。暗い演出は、吉田デザイナーが過去の“嫌な気持ち”に真正面から向き合ってきた強さの証明で、着る人をエンパワメントする吉田なりのエールでもある。
「ケイスケヨシダ」は今年5月、「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」の三原康裕デザイナーが新たに立ち上げた会社の傘下に入った。資金とモノづくりのバックアップを得て、今後はパリを目指すと意気込む。世界を視野に、自身のクリエイションで若者たちを励まそうとしているのかもしれない。