ファッション
連載 韓国ドラマをおもしろくする脚本家たち 第5回

「調査官ク・ギョンイ」脚本家ユニット のソンチョイ「チームの結束からおもしろい作品が生まれる」

PROFILE: ソンチョイ/脚本家

ソンチョイ/脚本家
PROFILE: 映画業界でそれぞれキャリアを積んできた二人の脚本家によるユニット。「自分たちが見たいドラマを作る」ために結成し、「ソンチョイ」という名前で共通のアイデンティティを表している。代表作「調査官ク・ギョンイ」は、スリルとユーモアが絶妙に交錯するコミカルな追跡劇として世界的にヒット。ゲーム中毒の保険調査員ク・ギョンイが、事故に見せかけた連続殺人事件を解明していくストーリーで、個性的な女性キャラクターたちや男性クィアカップルの登場が話題を呼び、韓国ドラマに新たな視点をもたらした。 PHOTO:PARK SEUNG HWA

第5次と呼ばれる韓流ブームが到来している。もはや一過性のブームではなくスタンダードであり、日本のZ世代の「韓国化」現象にもつながっているのは明白だ。その韓流人気をけん引してきた1つが韓国ドラマ。本企画では有名韓国ドラマの脚本家にスポットを当て、物語の背景やキャラクターからファッションに至るまでの知られざる話を紹介する。

Vol.5は脚本家ユニット 、ソンチョイが登場する。代表作「調査官ク・ギョンイ」は韓国のネット社会を反映させたスピード感のある脚本で話題になった。同作の制作秘話から、映像コンテンツ業界の現状と今後の課題までを聞いた。

――韓国のどのような社会問題が脚本に影響を与えていますか?

ソンチョイ:ある事件の被害者がメディアの矢面に立つことで、社会的なアクションにつながる事件に注目することが多いですね。

具体的な例としては、最近あった「モッタン(たくさん食べる、大食い)」女性ユーチューバーへの虐待事件です。女性自らが元恋人からの暴力や恐喝を動画で訴えたことで、自然にユーザーが彼を糾弾する動きが起こりました。ネット上で見られる反応は性別ではっきりと分かれていて、20〜30代の女性たちは支持や共感する声が多く、同年代の男性たちは真逆の反応でした。こういった現象は韓国社会でも何度も繰り返されてきましたが、被害者が社会改革のために行動を強いられてから初めて内情や誹謗中傷に対する理解が広がるのではなく、周囲が被害者を守りながら変化を起こしていくことが大切です。

加えてさまざまなニュースがありますが、政治や経済に関する話題に意識が向くことが多いですので、投票を通じてしっかりと自分の意見を反映させたいと考えています。

――韓国の映像業界の現状についてどう思いますか?

ソンチョイ:世界的に韓国ドラマや映画は人気があったため、コロナ禍前は市場が急成長していて予算も含めて大規模な物語の制作依頼が相次ぎました。しかしコロナ禍後は、急激に市場が縮小し、低予算で小規模なものを作る風潮になっていますので、作家が描きたい物語をつくるのは難しい状況です。

加えて、韓国のコンテンツが世界に通用するという認識が広まる中で、以前は国内向けに書いていたストーリーも海外の視聴者を意識するようになりました。韓国だけで共感される物語よりも、もっと人間の普遍的な物語を書く必要性も感じています。

――海外向けと国内向けのもの作りで異なる点はどのようなことですか?

ソンチョイ:海外でもヒットしたドラマ「調査官ク・ギョンイ」は、韓国人向けの言葉遊びやネットミームを多用したため、韓国のネット文化を知っている人ほど楽しめる脚本でした。後にこの作品は世界へ発信されることが決まったのですが、言葉の意味だけでなく文脈や感情、ニュアンスなども含めて翻訳する難しさがありました。今後はそうしたドメスティックでニッチな部分はできるだけ少なくして、どの国の人が見ても同じように楽しめる、誠実さや素直な気持ちが込められた物語が書きたいですね。

――今後のキャリアをどう考えますか?

ソンチョイ:明日どう生きていくかもわからない状況です(笑)。先ほどお話した通り、業界は縮小傾向にあるので、市場がどのように変わっていくか正直わからないですね。でも、物語の力は必ずあると思うので、その核となる部分を作る必要性を感じています。 ですので、今年、今まで映画やドラマで一緒に仕事をしてきた友人たちと会社を立ち上げました。代表は、「調査官ク・ギョンイ」に出演していた俳優兼映画監督のチョ・ヒョンチョルさんで、他にも映画監督がいます。もっと精力的に映像作品を作っていく予定です。

――会社を立ち上げた理由を教えてください。

ソンチョイ:フリーランスは単発の仕事に追われがちなので長期的な目標に向けた活動がしづらく、キャリアの蓄積につながらない印象がありました。ですが、2人で活動することでお互いを支援したり、高め合えることができました。今後は会社としての機能を持ちながら、多くのスタッフとの結束を強めることでより良い仕事ができると考えています。

――「調査官ク・ギョンイ」の主人公は人気俳優のイ・ヨンエさんで、引きこもりの元警察官のボサボサヘアとトレンチコート、ジャージ姿など、絶妙にハズしたファッションに定評がありました。キャラクターを作る上でファッションの重要性はどのように考えていますか?

ソンチョイ:キャラクターの特徴を視覚的に伝える衣装やヘアスタイルは本当に大切な要素ですね。プロセスは私たちがキャラクターの服やアクセサリー、髪型の参考になる画像や資料を事前に集めておき、監督や俳優たちにイメージとして共有します。「調査官ク・ギョンイ」の場合は、毎日ゲームをやっているアルコール中毒の引きこもり中年女性だったので、ジャージ姿に何日も洗っていないような乱れたヘアスタイルをイメージしていました。そのアイデアをもとに、俳優自身の創造性を加えてキャラクターを作り上げていきます。主人公がTシャツを反対に着ているシーンがありますが、私たちのイメージではなく、イ・ヨンエさんがだらしなさやナードを表現したものです。あの時はすごく感動しましたね。

ドラマ撮影に入っていく過程で、俳優やスタッフたちの力は絶大です。私たちは、コンセプトを共有しますが、それを発展させていくのは俳優やスタッフたちですから。

TRANSLATION:HWANG RIE
COOPERATION:HANKYOREH21, CINE21, CUON

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