2025年春夏のウィメンズ・コレクションも、ニューヨーク、ロンドンが終わり、いよいよミラノ。朝9時から夜9時、時には夜10時まで、2人で最大1日20件の取材をしながら、合間合間で原稿を送り合い、コレクション取材のドタバタを日記でお送りします。いよいよミラノ日記は最終回。合間に美味しいピザを頬張り、体力をブースト!
もはや歌舞伎の領域。伝統工芸級の
安心感を抱く「エルマンノ シェルヴィーノ」
木村和花「WWDJAPAN」記者(以下、木村):ミラノ・ファッション・ウイークもやっと山場を迎えましたね。5日目は「エルマンノ シェルヴィーノ(ERMANNO SCERVINO)」から。今シーズンはワントーンのコーディネートが目立ちますが、「エルマンノ シェルヴィーノ」も、冒頭はオールホワイトのルックが続きました。シューズやバッグも白で統一。そこから徐々にイエローやピスタチオグリーンが加わり、夏らしいブルー、ブラックへと展開しました。シフォンのロングドレスやミニワンピースなどのフェミニンなアイテムを、フラップポケット付きのジャケットやフラットシューズと合わせるなど、フェミニンすぎずカジュアルな印象に仕上げていました。首元に巻いたバンダナやヘアピンは、トレンドアクセサリーとして気になります。要さんは気になるルックはありましたか?
村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):まず気になるのは、毎回白で始まり、オフ白やベージュを経て、シーズナルカラーを打ち出した後、最終的には黒まで辿り着く、基本1カラールックのコーディネート作る構成ですね。その中で「さっき白のパートで見たな」なんて思っちゃう、同じアイテムの色違いが出てくるのはご愛嬌。もはや歌舞伎といったイメージがあります。このブランドも数年前はトレンドに踊らされていたけれど、最近はクチュール的な手仕事を存分に盛り込んだカフタンドレスや、総レースやサテンのセンシュアルなスリップドレス、肩幅は広めでウエストは絞ったジャケットとフレアパンツのセットアップなど、イタリアンサルトリアとエキゾチックなリゾートムードをうまく融合し、特に春夏は安心感のある定番が確立している印象があります。
お次は、「フェラガモ(FERRAGAMO)」ですね。詳細は、別途アップした木村さんの記事をご覧ください。今シーズンは、マクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)が得意とする、そして簡単には受け入れられないとわかっていつつもこだわりを諦めないフェティッシュなムードが、バレエダンサーの軽やかさや健康美に繋がり、とても受け止めやすくなりました。もともと「フェラガモ」とバレエのつながりは深く、ファンにはグログランのリボンをあしらったバレエシューズを持っている人も多いはず。そのグログランのリボンを、トゥシューズのように足首にもグルグル巻きつけた今シーズンのフェティシズムは、ボンテージウエアのそれとは大きく異なっています。
スイスの質実剛健に
ちょっとヘンを加える「バリー」
私のお次は、「バリー(BALLY)」。ブランド発祥の地であるスイスの質実剛健な感じに、ちょっぴりヘンテコなカワイイをプラスしようとしているブランドです。デザイン・ディレクターのシモーネ・ベロッティ(Simone Bellotti)は、クリエイティブのトップに就任して以来、酪農国のスイスらしく家畜に取り付けるベルをキーモチーフの1つに定めています。これまではチャームを作ったり、バッグやレザーブルゾンに取り付けたりしていましたが、今回はついにウエアがベルシェイプに。スカートはもちろん、ジャケットの裾もふんわり膨らんだ後、少しだけすぼまる形に仕上げています。反対に肩が膨らみ、裾に向かってすぼまっていくカーディガンなどもあります。きっと裏地にハリのある素材をボンディングしているんでしょうね。
こうした形は、ダダイズムにも影響を受けているらしく、ジャケットやシャツは襟元も、上から引っ張られたような、抜き襟のシルエットで独特。そこに、実は「バリー」が発祥で少しずつ広がっているんじゃないか?と睨んでいる、オックスフォードブルーのシャツなどを合わせました。正直、襟元も、裾も見慣れない形のジャケットには少し違和感があったかな。ベルシェイプにこだわりたい気持ちはわかるけれど、もう少しリアリティのある形でも良かったように思います。実際、特徴ある形を描いたせいで、パターンや縫製に無理があったのか、美しさを少し損ねていたように見えたのは残念です。ただ、ジャケットにオックスブルーのシャツを基本としたフォーマルを今っぽくアレンジしていくスタンスは、「バリー」のオリジナリティになる可能性があるので続けるべきです。
一方、バッグやシューズなどのレザーグッズは確実に進化。特にガラス加工を施したツヤのあるレザーに、「バリー」ならではのストライプを組み合わせた半月型のショルダーバッグなどは、かなり美しく、高級感のある佇まいでした。
そして「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)で再び木村さんと合流でした。どんなショーでしたか?
マドンナへのオマージュは
素晴らしい?誰かを傷つけた?
木村:「ドルチェ&ガッバーナ」のショー前日、マドンナが来場するとの情報が飛び込んできました。ミラノのファッション業界がざわついてましたね(笑)。と同時にブランドからは、「マドンナが来場しても、決して席を立たないように」とお達し。とはいえマドンナが来場すると、一部のゲストは堂々と彼女をパパラッチしていました。
もちろん、ショーはマドンナへのオマージュ全開です。マドンナヘアのかつらをかぶったモデルたちが、会場に設えた螺旋階段をセクシーに腰をくねらせ降りてくる演出です。ウエアはスリップドレスにもジャケットにも、全部コーンブラ。トレンチコートからもコーンブラがのぞいていました。ランジェリードレスにガーターベルト、そしてコーンブラ。「Seductive(誘惑的)」と、ブランドのオリジンを学びました。
で車に戻ったら、要さんが憤慨してるのにはっとさせられたんです。「黒人にマドンナのかつら被せるって何」って。数々のファッションショーを見て社会へのメッセージを受け取ってきたのにもかかわらず、この時、私は「ドルチェ&ガッバーナ」の煌びやかな世界に陶酔し、ファッションの社会性をすっかり忘れてエンターテイメントとして楽しんでいたんです。黒人のジャーナリストたちも、興奮気味に「素晴らしかった」と言いながらバックステージに入っていく姿も見かけました。それでも華やか、楽しい!だけじゃダメで、クリティカルに見る視点を常に忘れちゃいけないんだと心に誓ったショーでした。
村上:私はむしろショーのタイミングでは怒りに震えていたのですが、その後少し冷静さを取り戻し、「怒りすぎていたかもしれない」と反省したくらいです(笑)。
怒りを感じた理由は木村さんが言う通り、黒人モデルにもアジア人モデルにも金髪のウイッグを被せたこと。螺旋階段の周りは鏡ばかりで、金髪姿の自分の姿をまじまじと見た後にランウエイを歩くという、会場のセットというか演出にもモヤっとしてしまいました。アイデンティティとの乖離に傷つく黒人やアジア人モデルはいないか、心配だったんです。「ドルチェ&ガッバーナ」は、人種差別的な表現で炎上したことがあります。そんな過去も頭によぎりました。
とはいえ、あれはマドンナへのオマージュと考えれば、納得できるところもあります。そしてマドンナって人種や性別、性的志向などを超越した、ある意味多様性の象徴。そんな女性をミューズに選び、ある意味コスプレに近いウイッグとコーンブラでオマージュを表現するのは、むしろ多様性の表現方法なのかも?今は、そんな風に捉えています。
一方、私の当初のような考えの人が存在していることは事実です。正直ブランドは特定の誰かに向けたモノ作りで強いコミュニティーを作っていけばいいと思うし、「ドルチェ&ガッバーナ」はまさにそんなブランドの代表格で、ゆえにオートクチュールに相当するアルタモーダの顧客は日本にも結構いらっしゃると伺っていますが、これからも誰かを傷つけない形で強いコミュニティーを発展させてほしいですね。
肝心の洋服は、いつも通り仕立ての良いイタリアンセクシーでした。レースやチュール、オーガンジーでも、上質なシルクサテンでも、コーンブラは自然に溶け込んでいます。地味に思えるかもしれないけれど、ものすごい縫製技術です。コーンブラは、トレンチコートやジャケット、スリップドレスと渾然一体になっていましたね。強い黒、甘いベビーピンク、 そして情熱の真紅。「ドルチェ&ガッバーナ」ワールド全開でした。
そして、今回最も遠い会場の「ディーゼル(DIESEL)」へ。こちらも、詳細は木村さんのレビューをどうぞ。そして「ジ アティコ(THE ATTICO)」には今回も間に合いませんでしたね(苦笑)。私たち、かれこれ2年くらい、「ジ アティコ」運に恵まれてないですね……、申し訳ない。
さぁ、いよいよラストスパートです。「ウィークエンド マックスマーラ(WEEKEND MAX MARA)」は、NETFLIX「エミリー・イン・パリス」にも出演するアシュレイ・パーク(Ashley Park)とのコラボコレクションの発表ですね。アシュレイって、かなり個性的なスタイルを楽しんでいる人の印象ですが、カプセル・コレクションはどんな感じでしたか?
木村:コレクションはヘルシーなリゾートウエアでした。オフショルダーのワンピースやノースリーブのミニドレス、手描きタッチのボタニカルプリント柄のパンツなどなど。アイコンの“パスティチーノ“バッグは、カゴバッグで登場しました。
お披露目パーティーにはアシュレイ本人も、白いスクエアネックのミニドレスを着用し、ボーイフレンドと手を繋いで来場しました。まずアシュレイ本人がとっても似合っていて、好きなものを作ったんだなという感じが伝わってきました!私のコレクション取材はここで終了です。要さんのラストショーは「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」。レポートでは、今季のベストショーに挙げていますね。
村上:いやぁ、素晴らしいコレクションでした。初日から振り返ると、今季は「フェンディ(FENDI)」「ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)」「マックスマーラ(MAX MARA)」「プラダ(PRADA)」「スポーツマックス(SPORTMAX)」「グッチ(GUCCI)」「フェラガモ」「ドルチェ&ガッバーナ」「ディーゼル」とハズレなしのシーズンでしたが、個人的なベストは「ボッテガ・ヴェネタ」です。BGMだったベートーヴェンのピアノソナタ第14番をパリでも毎日聴いています(笑)。夢中になる構成と、もはや工芸レベルのバッグの中、案外実用的な洋服の数々。でも、必ずどこかの驚きが混じっています。上の記事をご覧ください。