創業デザイナーのドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)がブランドを去って以降、初めてのコレクションとなる2025年春夏ウィメンズのランウエイショーが9月25日(現地時間)、パリで開かれた。メゾンはドリスに代わってクリエイティブの指揮を執る人物を遠くない将来発表する予定というが、今回はドリスの下で長年服作りを学んできたデザインチームが担当。ドリス本人は、客席からショーを見守り、フィナーレには涙を流していたという。
デザインチームは、本当に頑張った。洋服の多くは紛れもなく「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」だった。ジャカードを中心に凝った素材、大胆な色と柄、和洋折衷、ノスタルジックなムード、そして、愛。デザインチームはきっと、それぞれがドリスから学んだものを一着一着に注ぎ込んだのだろう。しかし組み合わされ、ランウエイに送り出されたスタイルも、これまでの「ドリス ヴァン ノッテン」か?と問われたら、そうではない。ビジョンなのか、責任なのか、それとも、長年のキャリアの賜物なのか?コレクションは取捨選択、端的に言えば引き算が足りてない印象で、これまでの「ドリス ヴァン ノッテン」と比べて美しさよりも強さが勝り、夢の要素も少し足りなかったように思う。「ドリス ヴァン ノッテン」のパリのショールームに赴くと、ショーには出てこなかったサンプルの多さにいつも驚く。同じアイテムでも色違いや素材違い、丈違いのアイテムが全て揃っており、ドリス・ヴァン・ノッテンは、これだけ膨大な洋服からスタイリングを決めて、40数ルック絞り込んでいた。デザインチームという体制では、そんな厳選の取捨選択は難しかったのかもしれない。
素材は、今シーズンもバリエーションに富んでいる。フェイクのパイソンで始まったコレクションは、壁紙のような文様を描いたジャカード、花の模様の細部を拡大プリントしたポリエチレンのような透ける生地、フェイクレザー、フロッキーのように花柄をのせたサテン調の生地までバリエーション豊か。ルビーやエメラルド、翡翠を思わせる神秘的な宝石のような色合いと、和洋が入り混じるモチーフなどは、1990年代の「ドリス ヴァン ノッテン」を着想源にしているという。
そこに加えたのは、下着を思わせるセクシーなムード。キャミソールのような生地やシルエットにドレープのドレスや、ペチコートのようなパンツをたびたび登場させて、魅惑的な女性像を描こうとする。しかし、これが今の「ドリス ヴァン ノッテン」にはまだ少し唐突だったのか、色柄が強すぎたのか、ドレープがキツかったり丈が短すぎたりしたのか、生々しいイメージにつながり、損をしてしまった印象だ。ジャケットやシャツ、ニット、そしてパンツなどは、長年の知識と経験で人々が「ドリス ヴァン ノッテン」に期待する洋服に達したが、ランジェリーに着想を得たアイテムでは、その域に達しきれていない。
ドリスから服作りを学んだチームを統率する人物の必要性を改めて知ると同時に、本当に「ドリス ヴァン ノッテン」からドリス・ヴァン・ノッテンという人物がいなくなったことを改めて認識させられた。まだ夢の中だった25年春夏メンズよりも悲しい気持ちになった来場者も多かったようだ。一方、新たな指揮官が決まれば、多少の変化はあるだろうが今のデザインチームが存在する限り、「ドリス ヴァン ノッテン」というブランドは引き続き魅力を放つだろう予感は抱けた。素直に嬉しいことだ。