紳士服量販店のAOKIは27日、銀座本店のパーソナルオーダースーツコーナーをリニューアルする。急増する銀座エリアの訪日客と富裕層の取り込みを狙い、オーダースーツの価格の天井を従来の30万円から100万円以上へと引き上げる。
今回、銀座本店限定の最高価格帯の生地として用意したのが、仏「ドーメル(DORMEUIL)」の最高級ウール地“プレジデント(PRESIDENT)”。パターンオーダーのシングルスーツで仕立てると110万円、ダブルスーツでは121万円に達する。生地から受注生産となるため、納品まで1カ月程度を要する。そのほかにも、「スキャバル(SCABAL)」の“イートン(ETON)”(シングルスーツで33万円)、「ドラゴ(DRAGO)」の“スカイフォール(SKYFALL)”(同)など、高級スーツ生地のラインアップを拡充。オーダーシャツやポケットチーフ、ベルトやシューズなど周辺商品においても高額品のラインアップを強化する。銀座本店の店舗最奥にあるオーダースーツゾーンは、ソファーとレコードプレーヤーを設置して、くつろぎながらサービスを受けられるようにした。
実際のニーズとは途方もない乖離
何が目的で「100万円」なのか
ただスーツ量販店のイメージが根強いAOKIで、果たして100万円のスーツが売れるのか。これまでのオーダースーツの平均単価は「8万円程度」といい、実際の購買ニーズとは途方もない乖離がある。
AOKIの小出大二朗・副社長執行役員は次のように話す。
「“100万円のスーツ”というのは、あくまでわれわれの姿勢を象徴するものであり、もちろんこれを主力として売っていくわけではない。ただこの100万円のスーツも、買う場所によっては1.5倍くらいになるだろうから、十分に“お値打ち”だと誇れるもの。私たちは『高い』『安い』に関わらず、スーツを価格以上の価値で提案することができることが強み。富裕層のお客さまとはいえ、百貨店などで数十万円もするオーダースーツを買うには少し敷居が高いと感じる人もいる。そんなお客さまの受け皿になれば、十分に商機はある」。コロナ禍以降は銀座における訪日客のトラフィック急増とともに、銀座本店でも中国や台湾、香港などアジア圏からの来店が増えており、彼らへの訴求も念頭にある。
オーダーサロンで接客力を伝え
“AOKI”へのエンゲージメントを強化
オーダースーツのハイエンド軸の強化には、富裕層と訪日客ニーズの刈り取りに加え、もう1つの狙いがある。それは「接客の価値」を伝えることだ。銀座本店のサロンにはオーダースーツのフィッティング技術に長けたスタイリストが常駐し、「百貨店にも負けないホスピタリティーと技術で接客できる」と誇る。
同社は既製品においても高価格帯の商品を強化し、「安くてそれなり」の量販店のイメージから脱却を進めている。昨年に発売した“金のスーツ”は1着8万円以上と高額ながら、計画比35%増と好調に推移している。「顧客が納得する高品質とそれを伝える接客があれば、高額商品でも売れる」(小出副社長)と自信を深める。「これまでスーツ量販店において、接客というのはそこまで期待されない部分でもあったかもしれない。だがオーダーサロンでの購入を通じて当店の接客技術やおもてなしを体験していただけば、“AOKI”に対して抱くお客さまのイメージがいい方向に変わっていくはずだ」。